百八十・その少年の不自然な動きを、彼は知らない
SIDE:ガーランド
ここしばらく、魔王別邸でゆったりと過ごした俺らだったが、さすがに冒険者として冒険をしないのも問題だろう、と今日はパーティーを組んで近くのダンジョンに潜ることにした。
ここのダンジョンは魔族の冒険者にはちと物足りないが、人間の冒険者にとっては結構キツいダンジョンが多いらしい。
一応理由などは聞いて来たんだが、殆どがダンジョン様式の関係だった。
要するに熱波が絶えず吹いているダンジョンやら、沼地のダンジョンなど、人間にとっては辛いダンジョンが多かったのだ。
とはいえ、可能な場所も無いわけではなく、多少魔物が強いが普通のダンジョンもあるらしい。
人間の冒険者はもっぱらそこで素材を取って来ているとか。
多くの人がダンジョンアタックするため、入手できるモノは安値で叩かれがちだが、この近辺のダンジョンに慣れる意味では十分なダンジョンだ。
「んじゃー、行くぞー」
今回ダンジョンアタックを行うのは、俺とジャスティン、エストネア、ニャークリアに加え、斬星とキャットハムターが付いて来ている。
ニャークリアの頭の上に鎮座しているキャットハムターが少し気になるし、ニャークリアが何かを掴んでいるような歩き方なのが不思議だが、まぁそこまで問題は無いだろ。
「にゃはは、ジャンケンで勝ってよかったにゃー。今日は一日一緒なのにゃ」
ニャークリアはキャットハムターが余程気に行ったんだろうか?
それ、魔物だぞ? しかも猫系存在の天敵だって話しじゃねーか。お前大丈夫か?
「フィールド系ダンジョンっすね」
「全体的に靄が掛かってるフィールドね。視界が悪いから気を付けて」
「うぅ、なんかアンデッドとか出てきそうな場所だなぁ……」
「お、よくわかったな。ここに出てくるのはスケルトンだ。雑魚は無視してもいいが数が多い。お前さんのスキルアップにはうってつけだろう。スケルトンナイト以上の敵ならそれなりのドロップが期待できるしな」
しかも永遠の如く湧きだすらしい。
御蔭でどれだけ近場で潜っててもスケルトンに囲まれるのでアイテム入手には事欠かないらしい。
基本ダンジョンから出ると追ってこないらしいので、一般冒険者は入口近くで闘っているそうだ。
「おーおー、結構人が居んな」
「凄い、人いっぱいいる。視界悪いから殆ど見えないけど」
「奇襲と流れ弾に気を付けて。特に魔法弾の流れ弾が見えないのは脅威よ」
「フレンドリーファイアが一番の脅威って、どうなんですかね?」
「にゃはは、エストネアが魔法防御使ってくれるから斬星は安全にゃ」
さて、とりあえず比較的冒険者の少ない場所へと向かい、その場でしばし円陣を組む。
すると、ガシャ、ガシャっと霧の中から音が聞こえて来た。
「そろそろ来るぞ?」
「斬星、団体さんは相手にしなくていい、とりあえず目の前の敵だけを倒せ。他は俺らに任せろ」
「は、はいっ!」
やってきた魔物の群れは10体程。
この位なら楽に闘えるのでエストネアがまずは魔法で数体削る。
残った二体を俺が引き受け、残る二体をジャスティンが、一体をニャークリアに任せる。
残りの二体だが、エストネアがバインド魔法で一体を縛り、これをキャットハムターが足元ちょこちょこまわりながら蹴ったりぺしぺしと攻撃したりしている。
ダメージはあまりないらしい。
やっぱりあの魔物は猫特化型だな。猫型魔物見付けたら優先的に狩らせてレベルを上げさせてやるか。
「う、うわあぁぁぁっ!」
チッ、斬星のやつあんな動きじゃ殺してくれッつってるようなもんだろが! ここに連れてくるのはちょっと早かったか?
「ひっ!?」
「まず……」
「大丈夫だにゃ。ガーランドはさっさとその二体倒すにゃ」
「は? いや、でも……わかったっ」
なんだ? ニャークリアの奴、妙に確信してるな。どうしてあいつが大丈夫だと……なんだ今の動きは!?
まるで後ろから物凄い力で引っ張られたような動きで避けた?
斬星の奴、咄嗟の回避行動は上手いのか?
いや、違うな、今のはあいつも意図してなかったはずだ。
じゃあ、一体……
「だから大丈夫にゃ。心配ならさっさとノルマ倒すにゃよ~」
ニャークリアの奴は何が起こってるか理解してやがるのか。なんか、もやっとするな。あいつ、自分だけが知ってると分かってるのかニヤついてやがる。
「あ、危なかった、今のは危なかった。って、な、なに? え、え? これどういう?」
なぜか戸惑う斬星。その手は両手で剣を持ち、突きの体勢を取っている。
おい、スケルトン相手に突きはあんまり……行ったっ!?
相手の隙をついて剣をそのまま飛び込むように突撃。
剣先がスケルトンの喉を穿ち、頭部と体を切断する。
うまいこと当たったもんだ。いや、当てた、のか?
「オラァ、一体目!」
ジャスティンの方が早く終わらせた!? くそ、斬星の方が気になるがジャスティンより苦戦するわけにゃいかねぇ、即行倒さねェと。




