百七十七・その魔王の威光がどれほどだったかを、僕らは知らない
「おーっ!」
温泉街だ。
なんか凄く空気があったかい。
そしてそこいら中から湯気が出てる。
「湯気出てる場所は触れないようにしてください。火傷するんで」
月締君は一足先にここでしばらく静養していたので詳しくなったようだ。
僕らは月締君に案内されて温泉街を歩いて行く。
魔王の領地だったらしいけど、魔王死んだしその後ここってどうなるんだろ?
「安心せよ。魔王を倒した魔族が魔王になる習わしだ。つまり、我が新たな魔王である」
安心して、いいんだろうか?
「城の魔族たちにはすでに我が領地になることは告げてある。ここが我が覇道の始まりよ」
ユーデリアさんは何処に向かうつもりなんだろうか?
確かに魔族の人たちが普通に城直し始めてたけども。
ユーデリアさんが魔王倒す所見てた奴も居たみたいで、確かに新たな魔王みたいに言われてたけども。
王城完成まではこの温泉街の魔王別邸に住み込みするらしい。
温泉、一番広い露天風呂が別邸内にあるんだって。あの魔王良い暮らししまくりやがって。
「ここが魔王の使っていた別邸だそうだ」
別邸内には魔族が何人も働いていた。
魔王の命令でメイドや執事、警護兵などがいたらしいので、全員を集めてもらい、魔王の死と新たな魔王になったと言う話を告げるユーデリア。
証明とかしなくていいの?
「一応、ユーデリアって元魔王の娘なんだよ。だからある程度王になる方法は分かってると思うよ」
「大丈夫よ。私の父もこんな感じで魔王になってたし」
「そこの魔王が生きていれば、殺しに来るからな。そこで闘って勝った方がこの領地の魔王になる訳だ。要するに言った者勝ちって奴だね。気に入らなければ奪えばいいし、奪われたくなければぶっ殺せばいいんだ」
ラウールさん、それって魔族脳筋って事になる気がするんだけど、それでいいのか魔王って?
「ふむ、つまり、私でもなろうと思えば魔王になれる、と」
「やめとけノヴァ君、王族なんて面倒なだけだぞ?」
「治め方が悪いと内乱だし、武力が無ければ侵略されるし、城内は常に暗殺の危機だし」
斬星君は王様に対してどんなネガティブ思考なのさ!?
「ぬぅ? そこの女どもはなにか?」
「あ、この者たちはプラウル様の愛妾となっております」
ああ、どうりでちょっとびくついてると思った。
一部は次の魔王が女性だったことで解放されると安堵してる様子だけど、大半はびくびくしてる。何故かと言えば寵愛を失った以上その後の身分が保障されていないからだ。
下手したら処刑と言われる可能性だってあるので恐れているんだろう。まぁ、そんなことしないんだけど。
「我には不要である」
ああ、言い方。すっごくびくびくし始めてるじゃん。
陽気に解放されると考えてたメンバーもあれ、私たちってヤバいのでは? と、顔を青くし始めている。
全然そんな事ないんだけどなぁ。
「あー、皆さんいいかな? 彼女、言葉足らずな所があるので、私から言わせてもらうよ」
たまらずグーレイさんがフォローに入る。
「君たちの処遇についてだけど、処刑はない。このままこの館で働きたい者は残ってくれていいし、故郷に帰りたい者は帰っていい。別の街に行きたいなら向ってくれて構わない。つまり、君たちは自由だ。魔王の寵愛を受けることは無くなったが自分で未来を選ぶ権利を手に入れたと思ってくれ」
これを聞いた瞬間、わーっと妾さんたちばかりかメイドさんや執事さんまで湧き立った。
そしてメイド服や執事服を脱ぎ捨てその場に叩き付ける魔族多数。
ひゃっほーいと叫びながら魔王別邸から駆け去っていく。
いや、執事やメイドは辞めていいとは言ってない……ああもう、遅いな。これは君等対象じゃないよ。なんて言える雰囲気じゃないよ。
結果、居残ったのは行き場のない数人とメイドや執事の仕事が好きな数名だけ。
兵士は全員いなくなってしまっている。
魔王の脅威がなくなればここまで居なくなるのか、余程皆嫌だったんだなぁ、プリウスだかプラウルだかよくわかんない魔王。
そういえば僕ってその魔王顔も見たことなかったよ。
まぁ、もう二度と会うことは無いらしいし、顔も名前も覚える必要はないんだろうな。
「むぅ……」
「いやー、参ったね。まさかここまで居なくなるとは……」
「この屋敷、これから維持していけるんすか?」
「とりあえず、残って貰ったメンバーで維持して行くのが一番かな」
「今まで通りだしそこまで問題にはならんでしょう」
小玉君は気楽に考え過ぎじゃないかな?
「まずは、露天に行く前に屋敷の維持から始めないと駄目そうだね」
「まぁ、そのくらいなら問題はねーだろ。残った面子で維持は難しそうだけどな」
何かいい方法でもあればいいんだけど……誰か分裂してメイドとか執事やってくんないかな?




