百七十五・その特殊個体の出現理由を、彼らは知らない
その日、ヘルズバスタイム王国は想定外の襲撃を受けていた。
突如王城が消し飛ぶ第一襲撃。
さらに混乱した所に第二の襲撃、空から木に乗ってやってきた仁王立ちの少女と槍を持った少年。
相対しようとしたところで城下街からやってきた銀色肌にアーモンド眼の奇怪な生物率いる第三襲撃部隊。
そして絶望しこれはヤバいんじゃないか? と思った所へ駄目押しの真っ黒い炎に包まれた新種の魔物が城壁ぶっ壊して城下街吶喊の第四襲撃。
最初の襲撃からわずか10分足らずで首都は壊滅状態に追い込まれた。
「って、なんだあの魔物!? まさか、やったのかバグ君」
どもー。皆に置いて行かれて熊さんに襲われかけたから思わずバグらせたバグ君です。
これは置いてったグーレイさんのせいだからなーっ。
『なんでだよっ!?』
『グーレイさん、なんかあの熊凄い事になってますよ。振るった腕の辺り見てください』
「……く、空間が消し飛んどる」
うわー、すっごいバグだなぁ。ベアクロー放ったら空間ごと消し飛ぶんだって。
……恐いわっ!?
「しかもあの黒い炎のようなもの、触れたものを内側へと引き寄せてるみたいだな」
つまり、近づいたら引き寄せられて空間ごと削り殺される、と。なにそれ、どんなバケモノ?
「悪い方にバグったな。仕方ない、ガーランドさん、適当なメンバー見繕ってユーデリアさん達の保護を、多分保護すら必要無いだろうけど」
「いいのかよ?」
「近接部隊は接近難しいだろ。遠距離部隊だけ残してくれるとありがたい」
「了解。んじゃジャスティン、小玉、杙家もだな。ピピロはどうする? いや、防御は出来そうにねーからこっちに付いて来い。ニャークリアとそこの魔物もだ」
くねくねちゃんが名残惜しそうにガーランドさんたちと去って行った。
さて、Gババァはアーデと斬星君連れてったからいないし、リエラも向こうにいっちゃったんだよなぁ。
んで、ガーランドさん、ジャスティン、小玉君、杙家さん、ピピロさん、ニャークリアさん、くねくねちゃんがいなくなった。
あと、アーデの頭にいたパッキーとキャットハムターも居ない。
今いるのはグーレイさん、尾道さん、エストネアさん、メロンさん、ラウールさん、それと……
何で残ってんのノヴァとのっぴょろん。
「のぴょ?」
「そういえば君等なんで残ってるんだい? 近接戦闘特化じゃないか?」
「それなんだが、私共が向ったところで向こうでも御荷物な気がしてな。なんか特殊な攻撃が出来ればいいが、私の能力は呪人という呪いを振り撒く存在だったんだ。そこのモザイクのせいで唯一の能力が封じられた状態だからな、なにか出来ることは無いかと考えていたところなのさ」
無いと思うけどなぁ。下手に立ち向かうと削り取られ……まさかコイツ!?
「行くぞ我が相棒!!」
「のっぴょーう!!」
皆が遠距離魔法の用意をする間、囮役をするつもりらしい。
尾道さんの貫波とグーレイさんのピチュン攻撃を受け、こちらに視線を向けた熊さんに、二人の無謀な生物たちが立ち向かっていく。
「待ちたまえノヴァ、カリオン君っ!!」
熊の周囲に来た瞬間、二人の身体が熊へと引き寄せられていく。
え? ちょっと、まさか初の味方死亡があの二人……
誰も止めることなど出来なかった。
ベアクローにより二人が削り飛ばされ……て、ない!?
「くくく、ふははははは! モザイクが消し飛んだ御蔭で呪いが一部使えるようになったぞぉ!!」
「のっぴょーぅ!!」
熊の周囲に漂う吸引性の炎がモザイク化を始め、熊の腕が棒人間化し始める。
おおお、意外とえげつない能力だ!?
っていうかこれ、モザイク生物第三号出現の予感?
「のぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
少年の汚い悲鳴が響く。
「なんだ?」
空から光が降ってきた。
「おーっ」
Gババァ!? 何してたんだよ。というかアーデ連れてくんじゃないよっ。
「ふぉっふぉっふぉ。向こうが手漉きじゃったからこっちに来たわい。どうなっとる?」
『もぅ、Gババァさん移動速過ぎですっ』
リエラも来たんだ!?
『手伝います、現状は?』
「あー、その、見てくれれば分かるよ」
と、グーレイさんの視線の先にあるのは三体目にモザイク棒人間が出来つつある光景だった。
「下手に突かんほうがよさそうじゃの」
「だよねぇ」
『モザイク棒人間ってもう周囲に伝染しなかったんじゃ……』
「いやぁ、あの熊空間消し飛ばすみたいでね、丁度呪人のモザイク部分だけ消されたようだよ。モザイク人は棒人間化してる場所が消されてる。ウマい事そこに来るように調整してダメージを喰らったみたいだね」
『で、結果があれですか……』
モザイク棒人間化完了。んで、モザイク人と呪人が互いに呪いを移し合い……
そして三体のモザイク棒人間が出現し……って、待て! 最後のVな3なモザイク人、熊耳生えてやがる!?
「くまっぴょろん」
「なんだこのシュールな光景……」
「戦闘、始まらなかったわね……」
僕等はただ、なにかやるせない気持ちで三体のモザイク棒人間たちを見つめるのだった。