百七十四・その魔王国の未来を、まだ誰も知らない
「ここ、か」
仁王立つ少女が一人、崖の上より国を見降ろしていた。
温泉街のすぐ近くにある魔王城、ヘルズバスタイム。
魔王プラウルが収める魔王国であり、城の周りには小さな城下街がある。
殆どが民家であり、ここに住む魔族たちは、すぐ近くの温泉街を仕事場としているので日中はゴーストタウンなのだそうだ。
それというのも、重税が課されているので割りの良い仕事をしないとすぐに追い出されてしまうのだとか。魔王討伐されることを住民も切に願っているが、力の弱い魔族は仕事ばかりで革命など考える思考もなく、少しでも力を持つ者はむしろ護衛として取り立てられて平民より良い金を貰え、温泉にも無料で入浴できるので、魔王側に付いてしまうらしかった。
悪徳魔王、いや、その姿が普通に魔王なのか。
まぁ、とにかく、ユーデリアさんが見降ろす場所に存在するのが、プラウルが収める魔王城なのだそうだ。
「さて、どう攻略するかな?」
「まぁ、この人数だ、正面突破でも問題はないんじゃねーか?」
「こぉぉぉぉぉ……――――」
「ひぇぇ、魔王城に突撃しちゃうのか」
「斬星、前なら率先して魔王討伐するぞ、とか言ってそうだけど?」
「ぼ、僕だって自分の実力については大体分かるよ。魔王とかそんな危険な存在に僕なんかが立ち向かえるかどうかって……
「ってかさ、さっきから聞こえてるこのこぉぉって何の音……ユーデリア、さん?」
腰溜めに構えた状態のユーデリアの何かを溜める掛け声でした。
溜め終えたらしいユーデリアは、身体を直立させると、左掌を体ごと魔王城へと向ける。
「波動掌・漣鏖猛激衝!!」
僕らはただただ呆然とするしかなかった。
ユーデリアの掌から放たれた氣弾こと波動掌・漣鏖猛激衝。
光の奔流が一直線に魔王城へと迸り、そして……爆散。
魔王城が木っ端微塵に消え去った。
魔王国内が騒がしくなる。
遠距離からの一撃は、魔王城だった何かを一撃粉砕してしまったのだ。
そこにいた魔族たちがどうなったかなど、想像するまでもないだろう。
あとは、魔王がいたかどうか。それだけが問題である。
「あ、あの、ユーデリア?」
「我を拉致しようとする不埒モノはこの程度なのか、片腹痛いわっ」
「あ、アレはユーデリア、アレはユーデリア。ちょっとやんちゃになっただけのユーデリア……」
う、うーん。罪悪感が酷い。
『君のせいなんだからそれはしっかりと感じてほしいね』
「さて、征くぞ」
「え? まだ行くんすか?」
「当然だ。奴が死んだことを確認せねばなるまい。確認を怠り逃げられたなどという慢心をするつもりはない。我が覇道の邪魔になるものを逃す理由などあるまいに」
と、斬星君に告げると、崖のすぐ近くにあった雑木林に向かい、木を一本引っこ抜く。
あ、もしかしてソレ柱にしてアレしちゃうつも……
「ふんはっ! ドルァッ!」
ぶん投げ、それに飛び乗り魔王城へと一人飛んで行く。
あ、違う、飛び乗る前に月締君の襟首ひっつかんで一緒に飛び乗った!?
いま、ぐえって聞こえたぞ!?
「先に行っているぞ皆の者!」
「ええぇ!?」
「仕方ない、Gババァ、護衛お願い。他の皆は急いで追い付くぞ!」
「嘘だろオイ!?」
『ば、バグさん、私先行します!』
Gババァがなぜか近くにいた斬星君とアーデをひっ掴む。
あ、こら、アーデ持ってくなっ!
それに気付いたリエラが全速力で崖から飛び降りた。
「仕方ない。浮遊魔法でよければここから下に降りれるわ。速度は出ないけど」
エストネアさんが魔法を唱えて皆を浮き上がらせる。
……あれ? 僕は?
『エストネアさん、認識してないから……』
えぇ!? 一人置き去りですか!?
ちくしょう、覚えてろ!
結果、僕は一人寂しく崖の側面を沿うように森を降りて行く事になった。
魔物が出ても僕の事気付かないから隠れ潜む必要はないけど、落ち葉踏みしめる音に反応されるのがちょっと怖いよね。
げ、熊さんこっち来た?
来んな来んな。あ。やべぇ、なんでか立ち上がって腕振り上げてやんの。
ええい、バグ弾発射!
姿見えないけどとりあえず薙ぎ払っておこう、といった様子の魔物向けてバグ弾を発射しながら転がり逃げる。
あ、やばい。なんか黒いオーラみたいなの噴き出し始めたぞあの熊。
「ぐぅがああああああああああああああ!!」
そして雄叫び上げて魔王国ヘルズバスタイムへと駆け抜けて行く。
こ、これは僕のせいじゃないよね?
皆が僕を一人残すから反撃手段がバグしかなかっただけなんだよ。そうだよね?
―― アイテムボックスになんかなかったの? ――
そんなの探ってる暇なんてなかったでしょ!?
畜生、これは僕を放置する選択したグーレイさんのせいだからなーっ!