百七十三話・その対象が強過ぎる事を、暗殺者たちは知らない
「ぎゃーっ!?」
「あぼぁーっ」
「あべしぃっ!?」
ユーデリアさんを捕獲に来た暗殺者たちが吹き飛んで行く。
一人は拳で一直線に岩に激突。隕石でも激突したかのようなクレーターを形作る。
一人は拳の直撃と同時にお金をその場にばらまき吹き飛んで行く。
最後の一人はアッパーカットで空高く吹き飛び、落ちて来たところで台詞を告げて絶命した。
ユーデリアさんがほんとに世紀末覇者みたいになってしまった。
「なんか、もう護衛必要無いんじゃない?」
「なんかよぉ。俺も闘ったら負けそうな気がするんだが?」
ガーランドさんより強くなっちゃったのか。物凄くプラスのバグになったんだなぁ。
良かったのは良かったんだけど……嫁の貰い手、あるのだろうか?
月締君、その……ガンバっ!
「随分と敵が多いけど、行程の進み具合は月締君たちと会う前とそこまで変わらないね」
基本ユーデリアさんが襲撃者ぶっ倒していっちゃうからね、立ち止まることがないという……
「効かぬわ莫迦め!」
渾身の魔法もパリィで打ち消され、不意の剣撃もパリィで弾かれ……なんで手刀で全部弾いてるんだろう? ユーデリアさんが人間凶器になっちまった。
誰のせいだ誰の?
『バグさんのせいなんですけどねー』
「まぁ、致命的な欠陥は今のところ無いみたいだし、問題はないかな?」
月締君との恋愛フラグは?
「……問題は、ないかな?」
「魔族領の国かぁ、こっち側来んのは初めてだな、ギルドってあんのか?」
「うん、冒険者ギルドは魔族領にもあるよ。冒険者の一部は魔族も人族も関係なく世界中を旅してるからね。とはいえ、人族領ギルドとはちょっと違うみたいだよ、行った事ないから詳細はわからないけど」
ガーランドさんの言葉にラウールさんが答える。
なんか、説明役引き受けてからカエル男が生き生きしている気がする。
『でも、魔族の町ってどんななのか、ちょっとワクワクしますね』
そうかな? 基本人間の町とそう変わらないんじゃないかな。温泉宿場町みたいなとこあるらしいし。
「魔族の町は人の町とは違うのかい?」
「んー。国によって様々だね。私が知ってるところで変わった場所だと……北西の奥に氷の王国があるくらいかなぁ。ああ、あとモグラ人たちが鉱山にほら穴掘って生活してたな」
「昆虫人などは生態がまるきり違うから面白いわよ。普通の人族が過ごせる場所かどうかは別として」
基本の魔族は人と似たような街並みで住んでるらしい。ただ、亜人の一部は生態的にかけ離れた住処があるようだ。
「コウモリ系の王国だと家自体が逆さに作られてるのよ、アレは一目見とくべきね」
メロンさんが話に加わった。
自分の知ってる国を伝えるのが凄く楽しそうだ。
二人とも他の皆が魔族領に付いて知らないからって凄く嬉しそうに説明するなぁ。
「ちなみにこの先にある領地は普通の家だよ」
「確か、ドワーフの建築士が人族の家を真似て造ったんだったかしら?」
じゃーその国は普通の……
「ふんぬっ」
「ぎゃーっ!?」
普通に皆会話しながら歩いてるけど、襲撃者多くない?
「あー、月締君、襲撃者の頻度、多くないかい?」
「え? いえ、むしろ今は少ないくらいかと思うよ? 僕とユーデリアだけの時は倍近い数に追われてたし。多分こっちの動きが読まれてて戻ってくるならいいか、って思ったんじゃないかな」
それで襲撃者の数が減ったってこと? そんなバカな?
「ふん、ぬるいな」
アイアンクローでおっちゃんをぷらんと浮かせ、ユーデリアさんが告げる。
次の瞬間、ふんっとおっちゃんを頭から地面に植え付けた。
後には頭だけ地面に突き刺さった魔族の草が生えるだけとなった。
うん。これは草だ。ちょっといびつな草だ。
成長することは無いけど地面に埋まってるし草なんだ。
「ふむ。良い光景だ」
今の一撃で何かを察したユーデリアさんが刺客たちを次々に地面に植えて行く。
そしてずらーっと並ぶ草の群れ。
この人ヤバい、バグり過ぎだ!?
「あ、あれはユーデリア、あれはユーデリア。大丈夫、まだ大丈夫、素手で人を埋めるくらい普通だよ、うん、普通……」
いや、普通ではないと思うよ?
「見るがいい、見事な人華が咲きよったわっ! くはははははっ」
仁王立ちで笑わないであげてくださいユーデリアさん。月締君のSAN値がもう消えそうなんだよっ!? 彼は必死に現実と向き合ってるんだ。これ以上イメージを壊さないであげてくれっ!
「調子が出て来た、次は100人咲きに挑戦してみるか」
えげつない趣味に目覚めちゃった!?
趣味はアイアンクローで敵を頭から地面に植えることです。
どんな女の子だよ!? 絶対に彼氏できないよ。危なすぎるよ!? むしろ彼氏候補も一緒に埋められそうだよ!? 月締君逃げてーっ!?