百六十九話・そのバグが何を齎すのかを、僕も知らない
ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。
つ、ついた? 着いたよね?
『よく頑張りました。ちゃんと付いて来れましたねバグさん』
おっと、ありがとリエラ。肩お借りします。
既に女の方が逃げたらしい。
現場にはコハァと息を吐きだし艶々しているGババァと正気消失してしまった男が大の字で倒れている。
恐怖の顔で気絶しているのが恐ろしいところだ。
一体何を体験してしまったのか、僕には全く分からないぜ。
「ユーデリアっ!」
「信太っ!?」
月締君が呼びかければ、何処からともなく少女が現れる。
彼女に駆け寄った月締君はがしりと抱きしめ、もうはなさないっとばかりに力を込める。
彼女の方も満更じゃないようでしっかりと抱き付き、安心したように涙をこぼした。
「ごめん、僕が不甲斐ないせいでっ」
「うぅん、あれは仕方無いよ。でも、助けに来てくれた……」
「いいや、助けたくても、僕だけじゃユーデリアが何処に攫われたかもわからなかったんだ。けど、運が良かったのかな? ユーデリア、紹介するよ、僕の仲間だ」
そういって、彼女から離れる月締君。
うーん、なんかこう、嫉妬心がふつふつ湧いてくるのはなんでだろ?
『君ね、大量の妻貰っといて他のカップルに嫉妬するってどうなの? 妻たちに謝りなさい』
理不尽っ!?
「あの、ありがとうございます。貴方達が来て下さった御蔭で助かりました」
「気にしないでくれ、月締君とは同じ英雄仲間、困っていたら助けるくらいはするさ。おっと、初めまして、グーレイだ」
ユーデリアとグーレイさんが握手する。
指先合わせるんじゃないんだ?
「おい、グーレイ、悪いが自己紹介は後だ!」
「気配も消さずに大所帯ね。これ、全部その子関連?」
エストネアさんの言葉に反応したのか、次々と姿を現すおっさんの群れ。
「話が早ぇじゃねーか、俺らはそこのガキを拉致してこいっていわれてんのさ。人間どもを殺せとは言われちゃいねぇ、大人しく渡してくれりゃ、怪我しないで済むぜ? それとも、この人数と闘う気か?」
100人くらいいるなぁ。百貌のオッサンってところかな?
強面や盗賊面の魔族がずらりと居並ぶ、全員、隠蔽して周囲に張り込んでいたようで、かなりの手練だというのはなんとなく理解した。
「ふむ。全員男か。良かろう。ババァの口付けを受けたい奴だけ掛かってきたまえ」
「なんつー危険なこと言いやがる!? ええい、交渉決裂だ! 全員ぶっ殺せェ!!」
人数は確かにこちらが少ない。でも、質はどう見てもこちらが上だ。
「のっぴょーう!」
「よし、俺達の実力を今こそ見せる時!」
モザイク共もやる気満々、双方、わーっと怒声響かせ突撃して行く。
うん、なんだこれ、不良達の抗争か何かかな?
さすがに後衛部隊は突撃せずに後ろから魔法唱えてるけど、ラウールさんまで楽しそうに突撃してるし。
あれ? リエラ? あぁ!? リエラまで突撃してる!? 彼女はどうやら斬星君のフォローをするようだ。
前回の八本足の件で彼のフォローしながら攻撃していこうって話になったんだ。グーレイさん曰くなんかその方が面白そうだから、彼には知らないうちに英雄っぽく成って貰おう。とのことだ。
「絶対に、ユーデリアは渡さないっ!」
「良い決意だ小僧。斬星とは段違いだな」
「ガーランドさんこういう子好きだよな。まぁ、俺も熱い奴は大好きだ! フォローしてやる、あいつ等さっさと駆逐しちまおうぜ!」
ジャスティンとガーランドさんが熱血少年見付けて呼応するようにやる気になっているようだ。
あ、でもやる気になるのはいいんだけど杙家さん、さすがに魔族といえども人型は食べちゃダメですよ? ひぃ、駄目だっていったじゃん!? スライム型だからおーけー? そういう問題じゃないよね!?
はぁ、全く、なんか皆ノリノリじゃんか、こういう誰かを守る展開好きだよねー。ねぇユーデリアさ……
って暗殺者回り込んどるっ!?
まだ彼女も気付いてないようだけど、既に彼女の背後に黒づくめの暗殺者ルックの男が佇んでいる。
グーレイさんたちに叫ぶが、駄目だ。向こうは100人部隊との戦闘の喧騒で聞こえてない。
Gババァもリエラも反応してくれないし、月締君もまた見逃すつもりらしい。
なんでここで僕だけが気付いちゃってんだよ!?
「あっ」
気配で振り返ったユーデリアが黒づくめに気付いた。
黒づくめがユーデリアを捕獲しようと動く。
ええい、このままじゃまた拉致られる。ユーデリアを守るために、あの男を撃退出来るように……バグ、れぇっ!!
誰にも頼れないならば、僕がやるしかないじゃないか。
アーデだけはこっちに気付いてくれたけど、がんばれって応援しかしてくれないから救助は期待できない。
だから放ったバグ弾。目標は男の方だったんだけど、男が悲鳴を防ぐために、ぐっとユーデリアの喉を押さえて持ち上げたせいで、ユーデリアに吸い込まれてしまった。
……やっべ。