百六十七話・その彼を見放す理由を、彼らは知らない
温泉街が魔族領にある。
という話を聞いたので、僕らは一路、魔族領向けて北上することを決めた。
そして、魔族領にラウールさんの手引きで入ったあと、最初の町屁と向かう道に、彼は居た。
所在無げに佇む一人の少年。
見た目が年齢より幼く見える、槍を携えた少年に、僕らは思わず足を止めた。
代表して、グーレイさんが尋ねる。
「あれ? 月締……君じゃないかい?」
グーレイさんの声が聞こえたらしく、はっと我に返ったように振り向く月締君。
グーレイさんの姿を認識すると、何故がぶわりと涙が溢れる。
ぎょっとするグーレイさんにおぼつかない足で歩み寄り、その場に膝を突く。
「ぐー、れい、さん?」
「ああ、やっぱり、そんな場所につったって何して……」
よかった。ちゃんとこっちを認識してくれてる。
バーサーク化してるかとちょっと焦ったよ。
でも、だったらなんでこんな場所に?
不用意に近づいたグーレイさん。
すると、月締君は膝立ちのまま、グーレイさんに縋りつくように、抱きついて来た。
驚くグーレイさんを見上げ彼は涙ながらに告げた。
「助けて……」
「月締君?」
助けを呼ぶその声に、グーレイさんが固まる。
「僕だけじゃ、駄目なんだ。ユーデリアを、助けて……っ」
ユーデリアって誰だろう? ただ……この切羽詰まった嘆きの感覚、僕は、知ってる。
どうにもならなくて、自分以外頼る人が居なくて、自分一人じゃどうにもならなくて、あがいてあがいてあがいて……誰でもいいから救ってほしい。そうやって伸ばした手は空を切る。
僕はそれで、生きるのを諦めようとした。
でも、この世界に来れたから。アルセやリエラに会えたから。
だから……救うしか、ないだろう。
グーレイさん……
『言われずとも、分かっているさ。そもそも英雄仲間の月締君が恥も外聞もなく縋りついて来たんだ。助けるに決まっているだろう?』
「ガーランドさん、他の皆も、私はユーデリアさんという方を助けに行こうと思う、皆は、どうする? 無理に付いてくる必要はないし、助け終わったら温泉街に向かうけど?」
「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。一蓮托生だっつっただろ」
バシンッとグーレイさんの背中を叩きガーランドさんが白い歯を見せてサムズアップ。
「人助け、最高じゃないっすか。久しぶりだなぁ、こういう救出依頼」
「相手が気になるけど、まぁ人攫いだし、卑劣な組織なのは確かね」
「時間が勝負にゃ。傷物にされる前に助けるにゃ」
―― Gババァ、こっちから相手の位置送るわ。先行しちゃっていいわよー ――
そうだった。英雄たちの動きは逐一駄女神さんたちが見てたんだった!
ちょっと、そういうことなら情報提供してよ! 気が利かないなぁ駄女神さんは。
―― うっわ、そういうこと言っちゃうの!? 教えようと思ったけどやっぱやーめた ――
―― わ、私は駄女神じゃないですから教えちゃいますよバグ君。ユーデリアっていうのは魔王の娘さん。英雄たちが最初に暗殺した魔王の娘で月締君が匿って逃亡してたの。双方恋愛感情もあるみたいだけど、皆が向おうとしていた温泉街周辺を収める魔王に目を付けられて逃げてる最中だったみたい。捕まったのもついさっきだからそこまで遠くには行ってないわ ――
さすがパンテステリア様! 隣の駄女神とは違いますね!
―― は、はわわわわ、聞きました!? 聞きました駄女神さん、私の名前、バグさんがちゃんと一言一句間違えることなく言えちゃってますよ!! ――
―― つまり、今までは名前分かってたけどパンティちゃん呼ばわりしてたのね ――
失敬な。ソレは最初の方だけでしょ。今は殆ど駄女神二号だったでしょ?
―― 悪意があり過ぎじゃないかしら? まぁいいわ。はいよGババァ ――
Gババァに位置を送ったらしい。
光となったババァが少女の危険に立ち上がる。
大空向って走りだし、空へと駆けのぼる一筋の光。
「ふぇっふぇっふぇ。任せなぁ。孫のピンチにババァ参上ってのぉ!!」
奇妙な笑い声だけを残して去って行く。
うん、ユーデリアさんとやらGババァに任せれば問題無いでしょ。
誰があの光速移動ババァから逃げ切れるってんだ。
グーレイさん達が月締君からいろいろと聞いている間に、既に動いちゃってるGババァ。
皆気付いてないみたいだけど、多分誘拐に関してはすぐに解決するんだろうね。
問題は、この後も誘拐を行う奴が居るってことか。
駄女神たちの話だと月締君達とトラブル起こした魔王が凄く面倒な奴みたいだからね。
駄女神一号さんはああいう白蛇みたいなのあちし嫌いなんだよねー。とか言ってたけど、何処をどうやったら白蛇が出てくるのか意味不明過ぎると思う。
本人には通じてるんだろうからスルーしてあげるのが大人な対応かな?