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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1614/1818

百六十六話・その合流の可能性を、彼らは知らなかった

SIDE:月締信太


 クソ、またか。

 おもわず悪態付きながら、僕は襲ってきた魔族を迎撃する。

 温泉街で変な奴に絡まれて以来、暗殺者と思しき奴らが大量にやってきた。

 奴らは僕を殺すことともう一つ。ユーデリアの捕縛も任務らしい。

 捕まえた奴を尋問したら普通に喋りやがった。守秘義務とかは無いらしい。

 というか、僕にバレたところで問題はないらしい。


 ああもう、嫌な感じだ。

 あの占いの魔族の言葉が脳裏にちらつく。


 ―― もうすぐ運命の相手が現れるでしょう。貴方を必要とし、貴方もその少女に恋心を抱くでしょう。ただし、その運命は茨の道、自分たちの力だけでは決して救いはないでしょう ――


 確かにじり貧だ。

 このままだとユーデリアが拉致される可能性もあり得る。

 早く魔族領を抜けないと。


 もう少し、あとはここの領地を抜ければ人族領だ。

 それまで持てば……

 でも、ユーデリアの身体は既に限界近い。

 休みもろくになく逃げてるんだ。後少しだからって気は抜けない。


「大丈夫、ユーデリア?」


 倒しきった刺客に生き残りが居ないことを確認してからユーデリアを確認する。

 歩き詰めで足が腫れてるのだろう。歩くたびに痛そうにしているのが痛ましい。

 助けてあげたい、でも、僕だけじゃ彼女にまで回す余力がない。

 刺客を撃破するだけでも限界が近いのだ。

 あの時、判断を誤ってしまったのだろうか?

 何が、英雄だよ。こんな体たらくで、好きな女の子一人守れないなんて……


「おーおー、派手にやったなぁ」


 なん、だ?


「こいつが次の殺害相手? まだガキじゃん」


「あーあー、あのおっさんに相方が見染められたせいで災難だね君等」


 クソ、まだ居たのか。

 追加の暗殺者とか望んで無いんだよッ。


「ユーデリア、もうちょっと、頑張って」


「ええ。貴方に命を預けるわ」


 さぁ、負けられない闘いだ。

 槍を構えて相手を見据える。

 三人組の男達。

 魔族なので実力はかなり高い。

 死闘になるだろう。


 ユーデリアに構う余裕は無くなるけど、やるしかない。

 やらなきゃ、どっち道ユーデリアが攫われるんだからっ。


 突撃して来る左右の男たち。

 真ん中の魔族は後衛か。

 ナイフを飛ばしてきた。

 ナイフを対処すれば二人の男が、二人の男に対処すればナイフが突き刺さる面倒臭いタイミングだ。


「トライデントストラッシュ」


 突き出すだけで三方向にダメージを与えるスキルで纏めて相手取る。

 まさか同時に対処されるとは思ってなかったらしく、男二人が串刺しに、ナイフは穂先に弾かれ地面に落下した。


「なんだとっ!?」


「相手は油断してくれてるから初手は大体こちらが取れる。ここで徹底的に有利に立てれば後は消耗戦だ」


「ざけやがって!」


 痛みで呻く男達にトドメを刺しつつ、最後の一人の動きに注視する。

 なんだあれ? 爆弾? いや、煙玉ッ!?

 しまった。


「ユーデリアっ!!」


「あはははは、後ろがおろそかよお馬鹿さんっ」


 こいつら、三人組じゃない、四人組か!?

 女性の声が聞える。慌ててユーデリアの居る場所に向かおうとしたが、残っていた男の投擲ナイフが行く手を阻む。


「じゃーなぁ人間! お前は死んだ事にしといてやるよ」


「ふざけんなっ!」


 くそ、煙で何も見えない。ユーデリアッ! ユーデリアァッ!!

 なんとかしたいが煙が邪魔だ。

 下手に動くとナイフが飛んでくる。

 だから、煙が収まるまでただただその場にいるしか出来なかった。


 そして。煙が晴れた時、僕の周りには誰一人残っていなかった。

 刺客の男も、声しか分からなかった女の刺客も、そして、ユーデリアも。

 クソ、やられたっ! 結局僕は、彼女を守り切れなかった。

 やっぱり一人だけじゃだめなんだ。

 でも、助けなきゃ。向うべき場所は分かってるんだ。でも、僕一人だけじゃ……


 ―― その運命は茨の道、自分たちの力だけでは決して救いはないでしょう ――


 煩いっ。クソ、だったらどうすりゃいいんだよ!? あの占い師、肝心な所を言ってないじゃないか! 僕たちだけで駄目なら、だったら、誰が居ればいいんだよ!? 

 誰だったら助けてくれんだよ! 僕は、僕はッ……


「あれ? 月締……君じゃないかい?」


 不意に、その声は聞こえた。

 はっと弾かれたように声に振り向けば、そこにいたのは銀色の肌の未確認生物。

 アーモンド形の黒い目に申し訳程度の小さな丸眼鏡。

 地球外生命体にしか見えない、僕と同じ英雄の一人、グーレイさんがそこにいた。

 いや、違う、グーレイさんだけじゃない。

 居なくなった筈のピピロさんも、杙家さんも、小玉さんも尾道さんまで、そこにいた。


「ぐー、れい、さん?」


「ああ、やっぱり、そんな場所につったって何して……」


 ああ、どうしよう、なんかよくわからない感情が溢れて来て、目が滲んでいく。


「助けて……」


「月締君?」


「僕だけじゃ、駄目なんだ。ユーデリアを、助けて……っ」


 その場に力無く膝付いて、僕はただただ懇願するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良かったな、月締くん そこにいるのは希望のような神のような バグだよ
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