百六十二話・その英雄が偽りであることを、彼らは知らない
やんややんや、やんややんや。
今、村の中は歓声で一杯だった。
初めて見るような醜悪な八本足のバケモノを、たった一振りで細切れにした英雄様の出現なのだ。そりゃあもう、飲めや歌えの大騒ぎ。
なんかおっさんたちが酒盛り初めて、おばちゃんたちが食事の準備初めて、村の中央ではお祭りが始まってしまっている。
その中心にいるのは、なんと斬星英雄君。
うん、リエラが角龍乱舞で細切れにしたときタイミング良く剣振るっちゃったことで身に余る程の大歓待を受けちゃってます。
凄い困惑しながらこれ、僕が受けちゃってホントに良いの? 絶対別の誰かがやったことだよね? と、たびたび僕等に視線を向けて来る斬星君。
いや、むしろ誰か助けての合図かもしれない。
なんか次々にビールジョッキという名の小さな酒樽になみなみお酒注げられてるし。わんこ蕎麦ならぬわんこ酒である。
僕らは少し離れた場所でお祭りに参加しながら、騒ぎの中心になってる斬星君を苦笑いで見守っている状況だ。
うん、なんかむしろあの状態だと羨ましいとかリエラの功績取りやがって、という想いよりも、なんか、ごめん。っていう申し訳なさが先に来てしまう。
「しっかし、お約束過ぎて驚いたよ」
「あはは。でも問題無く倒せてよかったじゃん」
「ですが、グーレイさんが脳天を撃ち抜いたのに、動きましたね」
「尾道の一撃にも耐えてやがったしな」
「気付いてたかしら? パッキーの一撃も弾いてたわよ」
意外と強かったんだよなぁ、あの八本足。
一人きりで倒せるの、結構限られてたくらいには強かった。
あと相手が攻撃する前に倒せたのも良かったと思う。
「んで、グーレイ。一応これからの目的地は魔族領でいいんだな?」
「そう、だね。君たちはどうする? さすがに魔族領にまで付いて来いなんてことは言わないよ?」
「は、言っただろ、付いてくってよ」
「全く、何がそんなに気に入ったのやら。まぁいいか。折角だ、温泉街でしばらくゆったりしようじゃないか」
「そう上手くいくかしら?」
グーレイさんの言葉に反応したのはメロンさん。
凄くなげやりな態度から、絶対なんかやらかすだろーという諦めの境地みたいな態度が見え隠れしている。
うん、可能性が無いとは言い切れないけどさすがに湯治に向かってトラブルに巻き込まれるのは御免被りたい。
もしも向こうからトラブルが来るようならバグらせる所存でございます!
そういえば、バグった二人組が大人しいな。
そこのモザイク棒人間ども、どーしたね?
「ん? ノヴァたちはどうしたんだい?」
「神か……ふふ、自分の不甲斐なさに嘆いているのさ。俺達は互いに最大の攻撃であるモザイク感染と棒人間化を中和させちまった。その後に残ったこの体。攻撃に使えるのは棒の腕や足のみ。あの八本足相手に、自分たちが全く役に立たない事に気づいてね、なんという無様。呪いなくばステゴロすら出来ない存在なのだ我々は」
そういえば八本足戦の時この二人見掛けなかったな。
何処にいたんだ?
『あー、その、一応立ち向かってはいたんですよ? 足に吹き飛ばされて戦線離脱してましたけど』
ああ、成る程……
そりゃ二人とも落ち込むわなぁ。
キャットハムターみたいにアーデと応援だけしとく訳にはいかないみたいだし。
あれ? でもくねくねちゃんも参加してなかったんじゃない?
『くねくねちゃんは近くにいた農民のおじさんに被害が及ばないようにしてましたから』
マジっすか!? やるじゃんくねくねちゃん。
あ、しまった、僕が褒めたせいでくねくねしはじめた。
照れてるからってくねくねしたら変な効果の踊りになるから止めてあげて!?
「ちょっと、皆、なんで誰も助けてくれないんだよ!?」
「え? 助けるも何も斬星は持て成し受けてるだけじゃんか。存分に飲み食いしなよ」
「小玉、分かってるだろ! あれは僕じゃ……」
「ほらほら、勇者様、こいつぁこの村一番の良い酒だ。ほれぐぃーっと」
「え? ちょ、やめ……んぐぶっ」
あー、これはもう一番最初に酔い潰れるな。可哀想に。
リエラ、一応酔い潰れた時にお持ち帰りされないように見ておいてあげて。
さすがにトラウマが生まれそうなことは起こさせない方がいいだろうし。
『そうですね。男性好きの変態さんがいないとも限りませんし』
おっさんずラブはもういいよ。前の世界で散々やっただろ。あの王国早々に潰れてくれてマジでよかったっす。ワルセデスたちに感謝。
「しかし、このミードはいいね。私は好みだ」
―― いーなぁグーレイさん。私も飲みたいっ ――
「駄女神共はアシク茶でも飲んでな」
あ、そういえば駄女神さん達との会話も開通済みだっけ、通信回復したのに今まで連絡してなかったから存在自体忘れてたよ。