百六十一話・その村の名物になったことを、僕等は知りたくなかった
「どぎゃーっ!?」
フェアリーサークルを出た僕等は、突然響いたおっさんの汚い悲鳴を聞かされることになった。
見れば、地べたに尻もち付いてこっち見て唖然としているおっさんがいる。
姿から農作業お終わらせてちょいと一服しようか、と酒場に向かおうとしたおっさんって感じである。
「な、なんだぁ? お、お前さん等、今、どっから現れた!?」
「おぅ、悪いなおっさん。ところでここって何処だ?」
「こ、ここか、ここはモロミ村だぁ」
「聞いた事ねぇな、あーっと、そうだ。領地は何処の領主の地で国はどこになるんだ?」
「く、国か? えーっと、ああ、エッサホイサ辺境伯領のモロミ村で、ええと、なんだぁ、ブラックマーク王国だったかだべや」
ブラックマーク……黒マーク、黒幕王国……まさかなぁ。
「嘘でしょ!? ブラックマーク!? 西の国じゃない!? なんで東方面の国々回ってたのにこっちに出てくるわけ!? 方角的にはグネイアスかヘクロクロシアに出る筈じゃない!」
つまり、裏世界は空間的にもおかしいってことか。
「参ったね、これでは相方君が合流出来ないんじゃないかい、カッパーく……なんで二人いる!?」
「え? だって丁度交替しようかって時にあのフェアリーサークルだっけ? 入ったじゃない」
「ん。一緒に入った」
マジで!? 僕も気付かなかったよ。
え、リエラ知ってた?
『あはは、お二人って結構頻繁に変わってますよ。それに新しい町に着く時は大体二人揃って付いて来てますし』
ソレに気付いてるリエラも凄いんですが!?
そんなに変わってたのか。グーレイさんが話しかけた時とかは変わってたの分かってたけど、それもごく一部だったんだ……この二人、できる!!?
「しっかし、フェアリーサークルはちょっと報告し辛いわね」
「うん。きっと陛下なら軍事利用しちゃうよ、でもあんな場所兵士が通ったらどうなることか……」
下手したら全軍纏めて消失するかもしれないよね。それはそれで帝国が他の国侵略しなくなっていいのではなかろうか?
「この周辺は侵略国家も居ないですし、私達も情報不足です」
「ゴールドたちなら何か知ってるかもだけど、この周辺は私も来た事ないのよねー」
「ふむ。人族の国にはあまり行かないからなぁ、でもこの辺りだと魔族領の方に温泉街があっただろ」
「そういえばあったわね。魔王がろくでもない奴だった気がするけど、父とかなり険悪だった気がするわ」
ラウールさんとメロンさんの会話が耳に入る。
温泉街、良いと思います!
グーレイさん、行かない?
「行くのは良いけど、魔族領は私達が向っても大丈夫なのかな?」
「ん? 道中は分からないけど温泉街は人も結構いるよ」
「へぇ、それはいいね」
「魔族領のリゾートかよ、さすがにそっちは行った事ねーな」
「んじゃ、折角近いらしいし、ちょっと向ってみようか、こっからだと北側でいいんだよね?」
「ああ。魔族領の事なら任せてくれたまえ、僕が案内してあげよう」
カエルさんがドヤ顔していらっしゃる。
「さて、とりあえずここのフェアリーサークルは潰しておこうか。村の中央に八本足とか出てきたら大変だし」
「そりゃそうだな。どうすりゃいい?」
それ。
僕とアーデが揃って石を蹴り飛ばす。
よし、これで道は閉じた。
「おー!」
「ぴるるるるる」
最後にパッキーがとりゃっとばかりに石を鰭でひっぱたく。
……あ。
「あ」
丁度ひっぱたかれた石が転がることで再びサークル状になった小石でできたサークル。
さっきと位置がちょっとずれちゃってる。うん、これ、なんかやな予感が……
そこから、何かが現れる。
「なんでやった、お約束っ!!」
「八本足にゃーっ!?」
まるでこうなるに決まってんだろ、とでもいうように、現れた八本足の名状しがたき生物。
この世界に着た瞬間咆哮を迸らせる。
「ひ、ひぃぃ!?」
そういえばおっちゃんまだいたんだっけ?
「ぜ、全員戦闘配備! 絶対にフェアリーサークルから出すな!」
「貫波!」
「カバーっ」
「ジャスティン、合わせるにゃ!」
即座に動く皆。
尾道さんの一撃を喰らいながらも八本足が足を振るい、尾道さんを守るようにピピロさんがガードに入る。
ニャークリアさんとジャスティンさんが走り、それを追い越し突撃するGババァ。
「ドッルァ!!」
「アイシクルランスッ!」
「ゲイルハンマーッ」
「ウォーターレイザー!」
Gババァの突撃に足で対処する八本足。
その隙に足元に近づいたガーランドさんが斧の一撃。
さらにエストネアさんメロンさんラウールさんの魔法が襲いかかる。
遅れ、グーレイさんのレーザーが側頭部を貫通。
「嘘、まだ動いてる!?」
「こっちの足は任せて! 私の食事っ」
「こっちは俺が解体する!」
「足を狙うくらいならっ」
まだ動く八本足に、さすがにヤバいと英雄たちも参戦。杙家さんが足の一つにかじりつき、別の一本を包丁で解体する小玉君。
そして斬星君もまた、剣を構えて走りだす。
『角龍乱舞ッ!!』
って、そこ丁度リエラが走り寄ってた場所だよ斬星君!?
斬星君が剣を振るったその刹那、八本足が超高速で解体された。
「……へ?」
剣を振り下ろした斬星君唖然。
皆も驚き、おっちゃんは圧倒的な存在を見せつけられた。
「勇者……様?」
「は? え? あれ?」
てい。
再びフェアリーサークル壊して追加が来ないようにしておく。
うん、まぁ、なんだ。
農民のおっちゃんから見たら斬星君がトドメ刺したみたいに見えたよね、今の。