百五十九話・それに兄弟がいることを、僕等は知りたくなかった
「ここ、おでらの家。狭いげど、好き」
狭い、かなぁ?
普通に僕らが入れるくらいの大きさ、というか、むしろ全てにおいてデカい。
「入口からして10メートル大の存在を想定して作られてるね」
「木造建築なのは良いけど、よくこんな幅広い板あったな?」
「削って作っだ。近ぐの森の木はこれぐらいだぞ」
言われて周囲を見れば、確かに少し離れた場所にある森は異常増殖したように巨大な樹木が立ち並んでいる。
分かりやすくいうならば、この木何の木なすっごく気になる木が群れを成して乱立しているような森である。
巨人族からすればこれでも小さいくらいだろうけど、この筋肉達磨な第一村人くらいの大きさだと丁度良い建築資材のようだ。
「おで、ギガズ。こごで兄者と生活じでる」
「ご、ご兄弟、いらっしゃるんですか」
「入口、兄者に合わぜだ、これでも頭ぶつけで困る」
これでも頭ぶつけるって、つまりお兄ーさんってば10メートル大の筋肉達磨……
「弟者ァ――――ッ!!」
その時、大地を揺るがすような怒声が谷底より響いた。
「……あ、おで、あそこで獲物待づ役しでだんだっだ」
もしかして、お兄さんブチ切れちゃってる?
なんか物凄い殺気が近づいてくるのがなんとなく理解出来た。
次の瞬間、谷底から駆け上がってきたらしいお兄様がずだんっと僕らの傍に着地した。
勢いよく崖を駆け上ったせいでそのまま空飛んだみたいになっちゃったらしく放物線描いてこっちまで飛んで来たらしい。
「兄者、すまね、おで、はじ……ぶべごっ」
いかりそのまま、お兄さんと呼ばれた名状しがたき10メートル越えの人型筋肉達磨がノ―モーションの右フック。ギガズ……訛ってたしギガスかもしれないけど、とりあえずギガズと呼んでおこう。そのギガズ君は言い訳すら喋らせて貰えず吹っ飛んだ。家に向かって。
「ああ、家が!?」
「クゾが! 獲物待っでろっづっだだろうが!! 魔猪取り逃がしただろが、ぶち殺ずぞ!!」
彼らの自宅、せっかく立派なの立ってたのに見付けて一分と立たずに崩壊したんだけど、いいのかこれ?
「あ、兄者、ずまでぇ、おで、舞い上がっぢまって」
「舞い上がるだぁ? 何訳の分からんこ……ンだぁ? でめぇら?」
そこでようやく僕らい気付いたギガズのお兄さん。これをお兄さんと呼んでいいのか華はな疑問だけど、むしろ全体が丸い筋肉達磨と呼ばせて貰った方がしっくりくるんだけど?
「あー、っと、話は可能かい?」
「……ああ。チッ、ただサボっただけじゃぁねぇのか」
「兄者、ひでぇ、おでサボったごどない」
「あぁん? 待づのが暇で寝でサボってだろうが!!」
「……」
さっと顔を背ける弟君。だめじゃん、普通にさぼってるじゃん。
「ああ、ずまん、あんだらぁ、なんだ? 初めて見る種族だな?」
「弟さんと話してたんだが、どうやらこの世界の裏側に私達のいる世界があるようなんだ。詳しく話を聞こうとご自宅に案内して貰っていたところだよ」
「ほーん? なんがぁよぐわがらんが、表世界だぁなんだというのは知っとる」
一応知ってるんだ。弟さんより頭はよくないのかな? いや、むしろ二人とも知識はあるけどソレを有効活用するのは自分の生活に関係ある事だけってことか。
どうでもいい事は殆ど覚えてるだけってことだな。
……あれ? それって僕とそう変わらない……いや、この問題は深く考えちゃダメだ。
「んなら、家で話でも……おおぅ!? なんで家が壊れどっが!?」
「兄者、それ兄者がいっちゃ駄目な奴だぁ」
自分で壊しましたもんね。
「しゃーねぇ、ここで話すっが、んでも家、どーっすか?」
「おー!」
どんっと自分の胸を叩くアーデさん。どったのアーデ?
とことこっと歩きだしたアーデは家のあった場所に向かうと、弟君におどきっと可愛らしくアピール。
ギガズ君が困惑しながら起き上がり、瓦礫から脱出すると、アーデがその場にしゃがみ込み、ん~っと力を溜める。
ぱぁっと両手を真上に掲げながら勢いよく立ち上がると、綺麗な虹色の蔦が無数に出現。
あ、これ、アルセもやってたマーブルアイヴィの蔦……っていうかツタの色がおかしい!?
「ぎらぎらした虹色ってちょっと……」
「あ、でも凄い、家みたいに絡み合ってる」
さすがアルセの端末なことはあるなぁ、蔦で家を造っちゃったよ。
「す、すげぇ!? ちっごいの、おめさんすげぇな」
「おー」
「どうだぁ、嫁さぐっが?」
あぁ? 殺すぞ筋肉達磨?
『ってこらこら、いきなりバグ弾撃とうとしないの』
「悪いんだけど、アーデは魔物だよ?」
「なんでぇ、魔物だったが。んじゃ今のは無しで」
あぁ!? ウチのアーデの何が気に入らんってんだテメェー、バグるか?
『いや、どっちなんだよモンスターペアレンツ……』
ウチのアーデは嫁にはやらんっ。