百五十七話・その裏世界の状況を、僕等は知りたくなかった
「なんっつー世界だ」
その世界はあまりにも圧倒的だった。
紫色に無理矢理染められた空。
青いペンキをぶちまけた草原。
空気は重く、来るものを拒むような雰囲気が常に漂っている。
「これは凄いな……魔物は……アレか?」
なんかSAN値がごっそり削れそうなヘドロ人間みたいな生物が少し遠くをゆっくりと歩いているのが見える。
出来れば遭遇したくないなぁ。
あの青いにっちゃうっぽいのはこの近辺には居ないようだ。
代わりに、鶏がいる。また鶏だ。この周辺は鶏づくしみたいだ。
こっちも前回の封印洞窟に居たコッコラと大体同じくらいの三メートル大の鶏だ。
ばさっと羽を広げたらムキムキマッチョな鳥胸があらわになるなんかごっつい鶏。
眼つきも鋭いのでちょっと怖い。それと、全身真っ赤で鶏冠だけ白い。
この色合いもまた気持ち悪い。表世界のコッコラと比べるとまさに色違いって奴だね。
「……何アレ?」
「あはは。これはまた凄い世界に来たもんだ」
ラウールさんホントに付いて来て良かったの?
普通こんな辺鄙な世界には来ないでしょ?
「くぉくぇぇぇぇコッコォォォォゥ」
なんか巻き舌っぽいコケコッコーだな。
って、飛んだ!? 今飛んだよ!? グーレイさん、裏世界の鶏って飛ぶんだよ!!
「あー、はいはい」
「今回も、Gババァさんの傍には誰も寄ってくる気配ないにゃ」
「光る婆さんは奇妙過ぎて裏世界ってところの奴らも二の足踏むんだなぁ」
そう言いながらGババァから距離を取るジャスティン。
だいぶトラウマになって来てるみたいだ。
「さぁ、ぼーっと景色見るのはその程度にしよう。早く別のフェアリーサークルを見付けよう。ここの魔物達は向こうの世界より強いからね」
「一応世界的にリンクしてんのかな、ここ?」
「赤い鶏……美味しいかなぁ」
杙家さんは何でもかんでも食べようとしないでください。
「おや、グーレイさん、あそこはもしかして町ですかね?」
うわ、尾道さんまた町見付けたの!? 絶対近づかないでよ、なんかやらかす未来しか浮かばないよ。
「前回ピピロさんと尾道さんが来た時にも町があったんだっけ?」
「あ、はい。でも尾道さんの交渉むなしく殺しに来ましたから、会話は成立しないかと思います」
「いや、それ以前だろ。見ろよ町の住人、どう見てもゾンビじゃねーか」
うわ、ホントだ。ガーランドさんこの距離でよく気付けたたなぁ。スプラッターなのに動いてるじゃん。こわっ。アレは近づかないようにしておこう。
「やっぱり、こちらの世界では魔物しか居ないみたいだね。あの町には近づかないように……あちらに向かおうか?」
グーレイさんが指針を示して歩きだす。
道中、ムキムキチキンな鶏さんが稀に近づいて来たけど、攻撃とかはしてこずに、何故か僕等に向けて羽を広げてむんっと鳥胸を見せびらかしては去って行った。
何がしたいのか分からないけど、アレかな? 筋肉を見せびらかせたいってだけなのかもしれない。
ただ、やり方が羽広げて鳥胸見せつけて来る行動だから露出狂の群れにしか見えないんだけど、多分気のせいだろう。
そんな鳥たちの群れを掻きわけ、危険と思しきショッキングピンクの森を迂回。
黄色い草原に差し掛かった辺りで生態系が激変した。
「じょろろろろぉん」
意味不明な生物が変な声上げながらカエルみたいに飛び跳ねている。
人間にしか思えない身体付き、肥大化した目がぐるぐる回る。保護色のため黄色い体躯。
うん、正直意味がわからん生物だ。
「舌が長いのはカエルっぽいですよね?」
「アレをカエルだと言い張るかいピピロさん?」
「……無理です」
「私の近縁種だと思われるのはちょっと……」
ラウールさんカエルの亜人だったね。これは見たくなかった近縁種を見付けちゃったかな?
「草の背丈が高いな。アレと遭遇する確率が高そうだぞ?」
「Gババァを中心に据えたら来ないんじゃないかしら?」
「そんな蚊避けみたいな……」
いや、でもGババァが意外と乗り気なんだけど?
まぁ、折角本人やる気だし、皆一固まりで移動しようか?
草は切り裂いて大丈夫でしょ。
ガーランドさんとラウールさんが率先して草刈りを行う。
途中カエルっぽい生物を切り裂いてしまったけど、驚いたカエルっぽい生物が慌てて逃げだし叢に消えてったので攻撃されることはなかった。
意外と襲ってこない魔物なのかな? ヒエラルキー的に下だから基本逃げてるだけとか?
あ、空飛んでる魔物がいる。
結構低空だな、もしかしたら急襲してく……舌がびょーんっと伸びて空を飛んでたモンマンっぽい未確認生命体な魔物が捕食された。
カエルっぽい生物、意外とヤバいな。アレ丸のみしちゃうんだ。
口から下半身出てるのシュール過ぎる。
「あの舌、巻き付かれないように気を付けないとな」
「正直Gババァさんがこんなに頼りになるとは……思ってもなかったよ」
斬星君はGババァの恐ろしさが顔面だけだと思ってたのか、こいつホントにこの中でも一、二を争う実力者だからね。