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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1602/1818

百五十四話・その嘆きの湖に起こったバ……奇跡を、僕等は知りたくなかった

 魔王復活教団とか名乗る魔族が最後の一節を唱え終えた。

 すると、魔法陣が輝き始め、ひび割れて行くのが目に見える。

 封印はついに解かれた。この地に封印されていた水が、湖の水が封印を解かれて暴れ出す。


「ククク、ははははは! さぁ、出でよ我らが愛しき魔王陛下――――ッ!!」


 両手万歳で叫ぶ魔族の男。

 とことこと近づいて行ったアーデは彼の隣に並ぶと、おーっと両手を万歳。

 いや、万歳三唱してる訳じゃないんだよアーデ?


「……陛下は……いらっしゃらない?」


 ゴゴゴゴゴとやばげな音が鳴り響いている。

 これ、この洞窟もヤバいのでは?

 湖に沈んでデッドエンドとか笑えないぞグーレイさん!


「仕方ない。皆脱出だ!」


「急げお前らっ!!」


 自体を把握したグーレイさんとガーランドさんが皆を叱咤して走りだす。

 皆も事情を察して走りだすけど……アーデ、さっさとおいで!

 ああもう、この子は水に溺れる気か全く……いや、アーデが溺れる気が全くしないぞ? 水棲アーデに進化して普通に水底歩いてきそうだ。


 でも心配なのには変わりないから撤収で。


「おー……」


 えー、もうちょっと万歳したかったのに、といった具合で意気消沈のアーデを小脇に抱えて脱出。

 魔族さん? 勝手に封印解いたんだし放置でいいよね?


「なん、だと!? 空を飛ぶのかあの緑の魔物!?」


 あ、ちょっとアーデ、あんなアホみたいな魔族にバイバイはしなくていいから。ほら、リエラが待ってるから急いで急いで。


「クソ、あんなアホな理由で僕の国が沈むのか!?」


「同情禁じ得ないがそんなことを嘆いている場合じゃないぞ。一緒に沈みたくなけりゃ走れ!!」


 あああ、皆足速ぇ!? というか足が遅い組はGババァがピストン輸送で走りまわってる。

 なんであいつは僕らを放置してんの!? 一番後ろ僕らだよ!?


『バグさん急いでっ!』


『バグ君、急げッ!』


 なんだ? 二人とも随分急がせて……!!?

 刹那、自分の真後ろくらいの通路が破裂するように弾け飛び、水が勢いよく洞窟に飛び込んできた。

 嘘でしょ!? 


 やばい、飲まれるっ!? ってか逃げ切れるかぁ!?


『バグさぁーんッ!!』


 手を伸ばして僕に駆け寄ろうとしたリエラ。気付いたグーレイさんが咄嗟に彼女を担ぎあげて走りだす。

 ちょっと、せめてGババァくらい寄越し……あ、駄目だ飲まれる。


 背後から迫る濁流が僕の背中から襲いかかる。

 ぐごぶっ!? !!!?

 濁流が全てを飲み込む。かろうじて意識を繋ぎとめたものの、抱えていたアーデの感覚が消えている。

 マズい、この状況でアーデとまではぐれるなんて、それに他の皆の安否も、僕だってこのままだと死……


 嫌だ。

 死ぬのは……昔なら、喜んで死んだかもしれないけど、僕は見付けたんだ。

 居場所を、守りたい子を、一緒に居たい人を……

 だから――――


 バグれ。


 僕の全てを奪おうとするのなら、僕のバグを奪ってみせろ。

 バグれ鉄砲水。

 バグれ濁流。

 バグれ……湖ッ!!


 何が起こるかは分からない。

 求めるバグになるかも分からない。

 一か八かの賭けでしかない。

 でも、僕の思いを元にバグるのならば、前の世界のようなバグならば、アーデのためのバグにならない筈がない。

 皆を助けるバグにならない筈がない。

 そう信じて、放つ!


 そして、致命的な何かが……バグった。

 僕は濁流に飲まれて意識を閉ざす。

 アーデ……皆……無事で……――――


 ……

 …………

 ………………


『……ん……さんっ』


 声が、聞こえた。

 今、どうなってる? 僕は、生きてる、のか?


『バグさんっ』


 目を開く。

 水面から覗く太陽の日差しが揺らめく。

 沈み込んだ湖の底、女神のように綺麗な女性に膝枕され、僕は気を失っていた。

 ここは、天国かい、リエラ?


『もぅ、バグさんのバカ。死んじゃったかって凄く心配したんですからっ』


 水の底で気を失ってたんだから普通は死んでておかしくないんだけどね。

 これ、どうなってるの?


『よくわかりません、ただ、水の中で呼吸したりしゃべったりは出来るみたいです。皆で確かめましたけど、この町、水中都市になるらしいですよ』


 湖がバグって空気と大差ない感じになった、ってことかな?


「や、バグ君バグさん、状況は把握できたかい?」


 あ、グーレイさん。アーデは?


「まずアーデか、全く。彼女ならGババァが水の中に飛び込んで直ぐに助けて来たよ。そこで呼吸が可能になっている事に気付いたんで君を助ける事はなかったんだけどね」


 酷いな、オイ。

 っていうかさ、今のバグらせなきゃ僕死んでたってこと?


「ああいや、さすがにソレはないよ。Gババァも危険そうなら全力で助けに行っただろうし、私もそれ相応の力を使うつもりだったさ。ただまぁ、問題のないバグり方したのなら別にいいかな、と」


 人ごとだと思って酷いなこの人でなしっ! あ、神様だから人じゃねぇや。

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