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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
 第二話 その町の名を彼は知らない
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その神父の性癖を彼女は知らない

「どうでした?」


「べつに。ただ親指が痛かったかな」


 と親指の傷を見せる。


「なんでそんなとこに傷が?」


「血が必要なのよ。ほら、アルセの胸元見て。アレがあたしの紋章」


 全く、不思議な事もあるものだ。

 あの血が自分家の紋章に変化するなんて。


「で、そっちはどう?」


「ああ。リエラと二人でいいの無いか見てみたんだがな。手頃な依頼って奴がないんだ。迷子のにっちゃう探しでもするか?」


「にっちゃう飼ってる奴いるの? 絶対ムリでしょ。どっかで餓死してるのが関の山ね」


「えー。でも可愛いじゃないですかにっちゃう。私あれ好きですよ。真っ白ふわふわで人肌温度の柔らか肌だし」


「でもさ、排泄器官も口もないのよ。何を主食にしてるか分からないから数日で餓死するし」


 よくわからないが、ペットみたいなものだろうか?


「ほら、あの【にっ】って鳴くところがもうなんともいえないじゃないですか」


「野生ので我慢しとけよ。あの魔物攻撃力ねぇし」


 どういう魔物なのか凄く気になる。

 なんか三人とも可愛いと言っているし。

 愛玩動物みたいな容姿なのだろうか?


「ところで、何処に向ってるんですか?」


 すでに彼らは外に出ていた。

 ギルドから出るまではぎゅうぎゅうの道なき道に手間取ったが、外に出れば後はスムーズに進めた。


「教会だよ。俺は身体に壊れてるとこねぇか調べるため」


「リエラはその弾に魔法込めるんでしょ?」


「あ、そうですね」


 しばらく歩くと、その建物は容易に見つかった。

 大通りを割り裂くように中央にそびえ立つ十字架を持つ建物。


「あれ? こんなとこにも教会あるんですね」


「ああ。リエラの知ってるのはギルドに紹介されてる城の前にある奴だろ。あそこはちゃんとしてるけど形式的過ぎて俺らにはどうにもな」


「こっちの神父とシスターは変わり者だけど信頼はできるわよ」


 変わり者……なのか。あまり逢いたくないな。

 まぁ、僕の姿が分からないから別に気にする程じゃないんだけど。

 先行するカインが扉を開くと、なんだか厳かな雰囲気のある音楽が聞こえ出す。


「これは……ピアノ? いや、オルガンの方か」


 僕はアルセを連れてカインたちに続いた。

 室内は二階部分が端を伝う通路以外吹き抜けになり、空間の広さを強調しているようだった。

 入口から赤い絨毯が延び、教壇まで続いていた。


 その左右には長椅子が幾つも設置されていて、ちらほらと祈りに来ている人が座っている。

 何人かは手を合わせお祈りをしているが、他は音楽を聞きに来ているのか、目を瞑って耳に意識を傾けているようだった。


 教壇の後ろには神父が立ち、その後ろには部屋全体を改造したような巨大なパイプオルガン。その鍵盤を弾くシスターが一人。

 神父は音楽に合わせ何かを囁いている。

 その囁きを注意深く聞いてみると、どうやら讃美歌を歌っているらしい。


「今は……話しかけるのは待った方が……」


「丁度祈りの時間か……少し待とう。あの辺りに座るぞ」


 カインに言われ、全員で椅子に座る。

 僕は安全を兼ねて後ろの席に座ることにした。

 が、それに気付いたアルセが、リエラの横を離れ、僕の隣へとやってくる。


 見ていたリエラがまた訝しげな顔をする。

 やばい。見てる。めっちゃ見てる……

 睨まれるような視線を浴びて縮こまっていると、リエラは前を向き、首を捻る。


 確証は持てないのだろう。

 確かめてみたいが大衆の前でそれをするのは危険。

 万一誰もいなかった場合気違いに思われる。

 だから確かめられずもどかしい。

 そんな思いが僕まで届いてきそうだった。


 讃美歌を聞き続けること二分弱。ようやく音楽が止まる。

 信者たちが帰って行くのを待ち、カインは神父のもとへと歩み寄る。

 人の良さそうな神父は、カインを見つけると、両手を広げて微笑んだ。


「やあ、カインさん。我が教会にようこそ」


「とりあえず内臓見てくれないか? キルベアに体当たり喰らったんだ」


「それはそれは大変でしたね。シスター・マルメラ。彼を治療室へ」


 オルガンからこちらへとやってきたシスターがコクリと頷く。


「ケッ。クソガキが無様に生き延びやがって。さっさと来な。テメェの×××を×××してやるからよぉッ」


 暴言を吐き散らしてシスターは笑顔で右奥へと消えていく。

 カインがそれに付いて行くのを見送りながらリエラが唖然とした顔で神父に視線を戻していた。


「おや、初めての方ですかな。シスター・マルメラは少々・・口が悪いのですが、信心は深いですから広いお心で見てあげてください」


「は、はぁ……」


「それで……今日のご用件はカインさんだけ……」


 と、そこで神父はアルセに気付く。

 しばらく無言で見つめ。

 突然鼻から血を噴き出す。


「あ、あの……」


 驚いたリエラが慌てるが、ネッテは溜息を吐くだけだ。

 最初からこうなると分かっていたらしい。


「や、やぁお嬢さん、アメをあげよう」


 鼻血を垂れ流したまま神父は懐からアメの包み紙を取りだす。


「変な物入れてないでしょうね」


「何をおっしゃるネッテさん。仮にも神に仕える者として、危険なものを混ぜる訳がないでしょう」


 アルセは貰ったアメに首を捻る。

 食べ方が分からないのだろうと気付いて包み紙を取って口に放り込んでやると、そのままゴクンと呑みこんでしまった。


「……呑んだ。今、舐めずに呑んだよアルセッ」


「ちょ、喉に詰まったら大変じゃない。神父さん、なんてものあげてるのよッ」


「そ、そんな。私のせいですかッ!?」


 ゴメン。多分僕のせいだ。

 うろたえる神父に一応謝って、アルセの様子を見る。

 別段先程と変わりなく、銃をカチカチ鳴らしている。


「ま、まぁいいわ。とりあえず、リエラの持ってる弾に魔法込めてくれます?」


「魔法……ですか? 構いませんよ。何になさいますか?」


 と、教壇から何かのプレートを取りだす。

 そこに書かれている文字は全くわからないけれど、込める魔法の値段だろうと思う。


「うわっ、結構高い……」


「初期魔法は威力が少ないので安めですがね。さすがに威力が強大だと、用途次第では問題がありますから。こちらは信用だけですからね。余程必要でないかぎりは手に入らないようにさせていただいております」


「まぁ、それでももう一つの教会よりは安いわよね」


「ええ。別にお金が欲しい訳ではありませんので」


「うーん。できれば回復魔法の最上級一つ欲しかったけど……」


 どうやら買えなくはないらしい。

 それでも高いという事実が手を出すことを躊躇わせているようだ。

 仕方ないな……


 僕はアルセを連れて神父の前へとやってくる。

 アルセに彼女の指を咥えさせ、神父に顔を向ける。

 神父が気付いた瞬間、アルセの顔を傾げさせる。


「ほら、アルセからももう少し下げてって言ってるわよ神父さん」


「うぐ。し、しかし神の御前で誘惑に屈す訳には……」


 アルセの頭を戻し、今度は神父に視線を固定。

 ……数秒

 神父は鼻から再び血を滴らせ、悶えだす。


「十分の一……の値段に致します」


「やったぁっ」


 破格の安値だった。

 これはもう確定だろう。このロリコン神父め。


「じゃあ、キュアラ・オールと、ラ・ギライ……」


「炎よりは電撃か氷結がお勧めよ。コル・ラリカとかどう?」


「えっと、じゃあ。クリア・オールとキュアラ・オール。それからコル・ラリカお願いします」


「承りました。では弾丸をお預かりいたします。明日には込めておきますのでまた来て下さい」


 リエラがお金と銃弾を引き渡すと、良いタイミングで治療が済んだらしいカインとシスターが戻ってきた。


「あー、くそっ。やっぱ骨折れてやがったよ」


「肋骨は折れやすいからな。まぁ回復魔法で元通りだ。さっさと死んでりゃ楽だったのによぉ。要らぬ作業増やしやがってファッキン野郎め」


「うるせぇよ。怪我すんのは仕方ねぇだろ。治すのがお前の仕事だろうが」


「うぜぇ。私の仕事はペド神父を顎で使う事だけだ」


 帰ってくるなりやかましい二人である。


「終わったか? さっさと帰ろうぜ」


「はっ、とっとと帰ってクソひり出して野垂れ死ねクソッタレ。そしてクタバレ」


 シスターに罵声を浴びせられながら、カインがさっさと教会を出て行ってしまう。

 仕方がないので他の二人も後を追う事にしたらしい。

 僕もそれに続いてアルセと共に外へ向った。

 アルセが外に出る最後の時まで、シスターの罵声が途切れることはなかった。あのシスター、なんでシスターのままでいられるのだろう。不思議だ。

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