百五十話・その洞窟探索の心得を、僕等は知らなかった
翌日、僕らは件の洞窟前に集まっていた。
王族が使う洞窟だからか入口前には兵士が二人立っていて、立ち入り禁止になっているようだった。
「兵士配置してないと盗掘のために冒険者が入ったりするんだよ。無駄に強い魔物らしくて油断してると死にかねないから兵士が警護することになったんだ」
カルラシュト王が教えてくれる。
って、王様? その全く目立たない一市民な服装で行くの?
「いや、王様よ、さすがにその服装はどうなんだ?」
「え? でも一応お忍びだし?」
「これから洞窟入んだろうが、なんで市民服なんだよ!? せめて防具着ろよ!」
「ああ、ほんとだ」
ガーランドさんが天を仰ぎ、カルラシュトがぽんっと手を叩いて君、冴えてるね。とガーランドさんを褒める。
王様ェ……
宰相さんの苦労が伺える……はいよ、グーレイさん。適当に買ってた小玉君の防具のお古。やっぱりとっといて良かったでしょ?
「カルラシュト王、こちらを着てください。お下がりですが、それなりの防御力はあります」
「え? いや、いいの? でも誰かわからない人が着てたのはなぁ……」
「あー、すいません、それ俺が少し前に着てた防具っす」
「あ、君のなのか、背丈的に似た感じだし、確かに僕でも着れそうだね。うん、ありがたく着させて貰うよ」
誰が着たのだったら遠慮してたんだろうか? グーレイさんの? なんか得体のしれない汁とか付いてそうだもんね。
『バグくん、それは挑発と受け取っていいのかい? 買うよ? 思いっきりピチュンっと行っとこうか?』
すんませんっした!
―― いやー、稀に見る良心的な王様だったわ ――
―― 普通こういう王様は即座に暗殺されたり宰相たちに弾劾されたり他国に侵略されたりするんだけどねー ――
駄女神共はほんと一言余計なんだよ。
「んじゃ、洞窟入ってみるか」
「浅い場所はコッコラとメタル系だけど、奥の方は行ったことないから分からないよ?」
奥は未知数か、まぁ、いつも通りだよね?
「折角だ、パーティーに実力を見せる意味でも先行しよう」
「のっぴょぅ」
棒人間どもが我先にと洞窟へと入って行く。
ちょっと、洞窟の中真っ暗だよ? 君等入ったら保護色入って見分けつかなくなるからっ!
「あー、エストネア、光頼む」
「はいはい、ライトボール」
「ぎゃああ目があぁぁぁっ!?」
「のっぴょぉぉぉう」
いや、お前ら目、ないだろ。
光が急に生まれたことで顔を押さえてのたうちまわる二体のモザイク棒人間。それがお前らの実力か?
「えーっと、ごめん?」
「大丈夫だエストネアさん。こいつら目、ないから」
「はぁ!! そうだった!!」
「のぴょ!?」
棒人間どもが普通に起き上がる。
いや、マジでなかったの!?
「さて、これで光源は確保できた。あとは敵影の状況かな。どれくらいの出現率になるんだい?」
「ま、その辺りは探り探りだな。こういう洞窟ダンジョンは先にどれだけ魔物がいるかわからんから少しずつ探索するんだ。退路は常に確保しておく。最悪洞窟内で逃げ込める袋小路を探しとけ」
「え、袋小路? そんなとこ逃げ込んだら詰むんじゃ?」
「斬星はわかってないにゃぁ。いいかね、にゃーさんがしっかりと教えてしんぜよう。まず、洞窟内で逃げざるを得ない状況というのは相当追い詰められているってことにゃ。つまり放置すれば死ぬ。ならば死ぬよりはまし、あるいは生存の可能性を作るのが最優先。袋小路は魔法で道を塞いでしまえば魔物が侵入してこないにゃ」
おおー。確かに、魔物を退治出来ず出口にも戻れないなら袋小路で退路を断って全周囲壁にすれば魔物に襲われることは確かに無くなる。
でも、通路壊して壁で塞いだら密閉状態で窒息しない?
「そんなことしたら窒息で死ぬじゃん」
「だぁかぁらぁ、そこまで追い詰められたって想定での逃げ場なのにゃ、つまり自力での生還を諦め、人事を尽くして天命を待つ戦略にゃ」
「一応高ランク冒険者ってのは近くのギルドに日程を提出してんだ。いつからいつまでここに潜ってるってな。つまりその日を過ぎて戻ってこない場合は捜索隊が組まれる。その捜索隊には洞窟をよく知る案内役が数人入るんだ。んで、ダンジョン内で通路の筈の場所が瓦礫で塞がってた場合そこを重点的に捜索する。袋小路に逃げ込んで助けを待ってる場合があるからな」
「な、なるほど……」
つまり、本当にどうしようもなくなった場合に魔物にやられず助けを待つための場所ってことか。最悪を想定した方がいざその状況になった時に動けるからなぁ。
冒険者たちの暗黙の了解ってのは結構新人さんは知らなかったりするからなぁ。こうして高ランクパーティーから教えを請う機会って結構珍しいのかも。
「へー、そんな暗黙の了解あったんだ。冒険者の生きる知恵って奴だね」
王様が素直に感心してるし。




