百四十九話・そのまっとうな王様を、僕等しか知らない
夜、僕とリエラは抜き足さし足忍び足で王の間へとやって来ていた。
書斎完備の王の間では宰相のじっちゃんとさえない王様の密談が今、まさに始まったところである。
「さて、じっちゃん、どう思う?」
床一面に広げられているのは世界地図。
豪奢な王族服は脱ぎ散らかされ、部屋の隅へと投げ捨てられていた。
羽ペン片手に手の甲を顎に当て、四つん這いで状態で唸る。
「ふむ、話によればグネイアス帝国は魔王領の切り取りに躍起になっておるようで」
「ああ。僕もそう思うよ。ここの魔王を倒しに向ったらしいから、ここは多分奪ってる。んで、問題は次なんだけど……」
「おそらくここ、でしょうな。ただ……」
「ああ、ここは奥にある魔王の帝国が弱った瞬間奪いに来て三つ巴だ。どうすると思う?」
「英雄が使えるのでしたらそちらの国を先に暗殺させるかと」
「上手くいくかな?」
「どちらでもよいのでしょう。少しでも警戒感を与えられれば兵を差し向けた瞬間、無防備な首都を再急襲される危機感を持たせられれば、おいそれと他国に兵をだせますまい?」
「つまり、その隙にここを取る、か」
「さすがにこの国まで取られると、我が国としてもグネイアス帝国を脅威と見なければならんでしょうな」
「頭の痛いところだな。実際、この国が落ちるまでどの程度掛かると思う?」
「さて、英雄の実力次第、でしょうか。こちらの帝国が落ちればすぐにでも、落ちずとも警戒するならば近いうちに、英雄たちを早々始末し、反撃に打って出れば互いに滅ぼし合ってくれるでしょうが……」
「対策は立てておいて問題はない、ってところだな。とはいえ、僕らも僕らで問題抱えてるからね。僕の留守はじっちゃん任せだけど、大丈夫?」
「ええ。避難経路も確認済み、万一の時でも民を逃がせるようにしておきます。成功、願っておりますぞ、若様」
「その呼び方むずがゆいんだよ」
ふーん。駄女神さん、実際他の英雄って何してんの?
―― 今言ってた通りね。帝国の魔王真っ二つにして今帝国から逃げだしてるとこ ――
え、意外と凄くない?
―― 偶然に偶然が重なっただけだけどね。灼上君が意外と頑張ってるわね ――
おー、あのオタクっぽい人凄いな。
ね、リエラ。
『灼上さん、ですか、確かにグーレイさんも一目置いてましたね。確か小玉さんも彼がリーダーなら安泰みたいな事言ってましたし』
意外と有能な人物がまだ向こうに居たんだなぁ。
でも、魔王倒すって何気に凄いよね。リエラみたいに超人じゃないのに。
『わ、私だって別に最初は凄く無かったですし』
おっとつまり今の自分は超人だと認めるんだね。やるなぁリエラ。
『も、もぅ、バグさんからかわないでくださいっ』
恥ずかしそうにむくれるリエラ。可愛らしいのでついついからかいたくなってしまう。
「グーレイ殿たちを我が国に引き込むのは、どうでしょう? おいそれとグネイアスが攻め込んではこんでしょう」
「……いや、彼らは善意でこの国を救ってくれるんだ。それ以上求めるのはさすがに王としてどうなのって感じだよ。なぁに心配ないさ。最悪は国を捨てて敵を湖に沈めてやろう。王と民が残ってれば王国はまた作れるさ」
意外と、ちゃんと民のこと考えてる人かもしれない。
それに、グーレイさんたちへの義理もちゃんとある。
騙して協力させる程度はして来ても不思議でもなんでもないのに、誠実過ぎて逆に見捨てたくなくなるなぁ。
『じゃあ、この方々を助けます?』
具体的な危機向かえたわけじゃないから何とも言えないね。
一応グーレイさんに連絡かな?
悪いようにはならないと思うけど。
可能なら、この国救ってあげたいかな。王様結構いい人そうだし。
『ですよね、この人民のことしっかりと考えてるみたいです。国は滅びてもいいみたいですけど』
民優先で最初に避難させておく、という民優先の思考がポイント高いです。
問題点として、避難先の生活どーすんの? って話はあるけど、そうならないように手伝うくらいはしたげたいよね?
それからも考察が続いていたので、僕とリエラはそっとドアをすり抜けた。
これ以上聞くのは野暮ってもんだ。
『でも、ここの王様はいい人でしたね』
部屋を出てすぐリエラが感想を述べる。
ホントに、裏がないかと探ってみたけどむしろ真っ白でびっくりだ。
一応駄女神さんたちにもうちょっと見て貰うつもりだけど、従うべき王としてはグネイアスの王様よりこっちの王様の方が僕は好みかなぁ。
『私もそう思います』
よし、今回はこの国助ける方向で動くとするか。
と言っても僕はただ見学するだけなんだけど。
『ふふ、がんばりますね』
リエラもやる気みたいだし、今回の洞窟探索は簡単に終わりそうだね。




