百四十三話・その剣の存在を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
「うぉっしゃぁ、脱出完了!」
「やるじゃない信夫! ゴールドさん回収したわ、さっさと逃げるわよ」
あの軍服の実力を鑑みて、美樹香たんは自分では勝てないと悟ったらしい。
さっさと逃走を決め込み、僕を放置して走りだす。
って待ってェ!?
身体強化使ってなんとか後を追い始めた僕の背後で、僕が開けた穴から何かが落下して来た。
後ろを振り向けば、げぇ。あの軍服追って来やがった!?
「私相手に大したものだ。だが既に我が国は厳戒態勢。逃げ切れると思っているのか?」
「サンダーブラストッ」
広範囲魔法を後ろに放って速度を上げる。
くっそ、麻痺効果は無理か。会心率引き上げて状態異常付与率爆上げしたのにあのおっさん普通に歩いて追って来やがる。
「もっと速度あげなさいよっ」
「いや、これ以上速度上げたら美樹香たん追い越しちゃうでしょうっ!?」
「それでいいのよっ。ほら、ゴールドさんアンタに預けるからさっさと逃げなさいっ」
えぇ!?
驚く僕にゴールドたんを渡して来る美樹香たん。覚悟を決めた顔でその場で踵を返す。
絶対殿務める気だったのでその腕をひっつかんでさらに加速する。
「ちょ、ちょっと!?」
「あれはヤバい。あれはヤバいから。ここは俺に任せて先へ行けフラグはデスフラグ。あるいはあっちの味方になって機を伺うつもりかもだけど駄目だから。アレは絶対完全に忠誠誓うまでなんかヤバいことやってくるタイプだから。最悪レイプされて強制隷属からの洗脳プレイだよっ」
「うっわ、キショ。その発想が出るだけでキモ」
ええぇ!? 僕はあり得る事告げただけなのに!?
「クックック。凄いじゃないか。そこまで看破されると楽しくなって来るな。君は容姿こそ残念だが随分と頭が良いらしい」
「え? マジなの!?」
「どうかね? 私に忠誠を誓ってくれるなら好きな女を抱かせてやるぞ?」
な、なんと魅力的なご提案!? ケモッ娘はありですか!?
「はっはっは、御冗談を。こっちにも美少女はいますからなっ。あいにくと間に合っておりますぞーい」
「どんな言葉よ。強がりなのは良く分かるけど」
言わないでっ! めっちゃ揺らいじゃうからっ。
「参ったな。随分と魅力的な提案だと思うのだがね。我が軍で元の世界へ帰る方法を探すことも可能だぞ? 至れり尽くせりだと思うがね?」
さっきこっちの不安要素を全てやりますとかのたまった魔王に忠誠なんざ誓えるかっ。
こいつにつけば女は襲い隷属化して洗脳するし、男は隷属化して洗脳するけど自由にさせてやるから忠誠しろよ、とか意味不明過ぎるわ。
「こっちだ、声が聞こえるぞ!!」
げぇ、挟み打ち!? 兵士達も既に僕らを捜索中らしい。
「信夫、こっち!」
そっちは個室じゃんか!? どうすんの美樹香たん!
ええい、仕方ない。
僕は美樹香たんを追って部屋に飛び込む。
「さっきの一撃で床砕いて。下層に一気に下りましょ!」
「なるほど、ではゴールドたん再びお願い。いざ、メテオストライクッ!!」
一気に床を割り砕く。
一層だけだとすぐ追い付かれそうなので思い切り地下深くまで急速落下。
美樹香たんが瓦礫を足場にしながら後を追って来る。
「人間掘削機とかあんたほんと多才ね」
それ、褒め言葉っすか?
―― ほぅ、客人とは珍しい ――
な、なんだ?
「ちょ、今の何? これ以上のイベントはいらないんだけど!?」
「あそこ、何かある」
おお、ゴールドたん声出せる状態だったのか。
えーっと、あれか。これまた御大層な魔法陣が描かれた中央に安置されているなぁ。
一振りの剣がそこには存在していた。
喋る剣とかいかにも冒険が始まりそうなイベントだけど今はラスボスに追われてる最中なんですが!?
「参ったな、まさかここに来られるとは思わなかった。狙ってやったのかね?」
クソ、追い付かれた!?
しかもここ出口がないじゃないか。
って、あった、軍服の後ろに……詰んでね?
自然、彼から距離を取る僕らは封印された剣っぽい物の元へと寄り集まる。
「参ったわね、逃げ場が無くないかしら?」
「はは、この剣実は魔王を倒せる唯一のイベント武器、とかご都合主義じゃないか?」
「それが本当なら最高ね」
―― 封印を解いてくれるのならば手伝ってやるぞ? ――
え? マジで?
どうやって封印解くの? とりあえず手にすりゃいいのか?
でも、なんかこの魔法陣に呪われそう。あ。そっか。壊せばいいじゃん。
そーれもっかいメテオストライク!
「ちょ!?」
「なんだと!?」
真上に飛び上がった僕のボディプレスが地面を割り砕く。
地面に描かれていた魔法陣も飛び散り、刀身が露出する。
―― やるじゃねェかおデブ! さぁ、嬢ちゃん俺を手に取りな ――
「え? 私!?」
「止めておけ人間、それはお前達が求めるようなモノではないぞ。我々もどうしようもなかったから封印しているのだ」
「どうすればいい?」
―― 俺の特性は、淫欲だ。脱げ、さすれば道は開かれ…… ――
美樹香たんは思い切り剣を投げ捨てた。




