百四十一話・その二人の容疑者を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
美樹香たんとゴールドたんと共に城へと潜入する。
内部に入るまではなんとか見付からずに来れたけど。ここから先はどうだろう?
「さすがに城内に気付かれず潜入は難しいわね」
「でも普通に出来てるのがさすが美樹香たん。その隠蔽力に脱帽です」
「私だってできる」
ふんす、っとなぜか対抗するゴールドたん。
美樹香たんが舌打ちしてさっさと移動を開始する。
って、普通に兵士達が見回ってるんですが、大丈夫なのかこれ?
「大丈夫よ、気付かれてもないでしょ? 私の隠蔽スキルはかなり高いのよ。見付かるなんてそうそ……何この手?」
思わず彼女の口を塞ぐように手を当ててしまった。
「失礼、お約束フラグが口から洩れそうだったのでつい」
「フラグ……ああ、死亡フラグってやつ? 大丈夫よ、あんなもんアニメの中だけだからさ」
いや、そう馬鹿に出来……あー、その、美樹香たん? あいつ、こっち見てない?
「は? そんな訳……」
「貴様等、そこで何をしているッ!!」
軍服着た魔族が一人、ずんずんとこちらにやってくる。
見付かってんじゃん!?
ほら、言わんこっちゃない、どうす……音もなく糸の切れた人形みたいに崩れ落ちた!?
「尻ぬぐい、乙」
いつの間にか魔族の後ろに移動していたゴールドたんがうなじに手刀当てて意識を奪ったようだ。
そのままソイツを引き連れ戻ってくる。
「人気のない場所に捨て置く」
「了解っす」
何気に優秀じゃんゴールドたん。
情報収集係なだけあってこういうのは得意らしい。
美樹香たんが凄く悔しそうにしている。
「死亡フラグは現実にもあるんだ、美樹香たん」
「できるだけ言わないようにしておくわ。さっさとボロが出ないうちに行くわよ」
「了解」
少し移動すると、くぼ地のような場所を見付けた。
折角なので気絶したままの男をそこにお供えしておくことにした。
この軍服だけはちょっと貰って行こうかな。いや、やめとこう。階級があるってことはフラグ的に入っちゃいけない場所に下位階級の軍人さんが入っちゃうというお約束に繋がり大ピンチに陥りかねないし。
「もしもの時用に回収しときましょう」
だからフラグぅっ!?
僕を無視して気絶したままの軍人さんから軍服を引っぺがす美樹香たんと、何故か一緒に参加するゴールドたん。
意外と二人とも息ぴったりだね?
「何人か隠蔽を看破出来る奴がいるみたいね。おおごとになる前にさっさと魔王の居る場所に向かいましょ」
「同感」
ただ、問題は何処に魔王がいるかってことなんだよなぁ。
見た感じ入口から真っ直ぐ行った場所に大きな扉があるし、そこが謁見の間だと思うんだけど。
この城の形状から考えて、体育館みたいに二階から見下ろせるところがありそうなんだよなぁ。
あ、階段発見。
「え? 昇るの? まぁいいけど」
美樹香たんにお願いして二階へ昇る。
螺旋形の階段が中央の通路の左右にあったので、とりあえず左側を昇ってみる。
巡回兵がそこいら中にいるので、これが行き過ぎるのを待ち、そっとそれっぽい扉を開く。
多分ここだ、とゲーム知識から当たりを付けた扉を開くと、案の定、謁見の間の二階にある窓を拭くための通路に出た。
誰かに気付かれないようにと三人忍び足で中へと入る。
そっと謁見の間を覗くと、玉座に座るバケモノが一人。
あとその側近だろう、紫肌のおっさんが傍に立ってる。
「あの二人だけ?」
「謁見、してる」
彼らの対面に頭を垂れてる軍服の魔族が一人。
僕らはそんな光景を見ながらゆっくりと進んで行く。
もう少し近づいた方が奇襲は成功しやすいだろう。
「いけそう?」
「どうかしら? あの軍人は強そうだし、居なくなるまで待ちたいわね」
「バレる可能性もあるからタイミングは気を付けて」
僕としてはこれ以上近づくのは嫌な予感しかしないなぁ。
あの軍人さん、絶対歴戦のコマンダーって感じだし。
それに護衛が居ないのが気になる。
まるで襲ってくださいと言っているような……
はて? なにか違和感が?
「なんだろう、違和感がある」
「違和感?」
「ん?」
なんだ、何がおかしい?
思い出せ何か、今までの経験からしておかしな点がある。
あのバケモノだ、アレが何かおかしい気が……
っ!! 肖像画だ!
この国の至る所に描かれた肖像画は人型の魔族軍人だった。謁見してる方だ。
目の前の玉座に座るのはどう見てもバケモノで、醜悪な太ったトカゲと言ってもおかしくない。
肖像画と全然違う。
「どっちだと思う? 肖像画の人物、そこで謁見してる軍服のおっさんっぽいんだけど」
「言われてみれば……アレが魔王? それとも玉座のが魔王?」
「どうする? 一人なら、暗殺可能」
どっちを暗殺する?
それ以前に暗殺できるのか?
これが人族領ならあの軍人でいいんだけど、魔族領だから玉座の奴が魔王でも全然問題無いんだよなぁ。これは面倒だ。




