百三十九話・その魔族の王国を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
「なんだここ……」
僕らは結局魔族の国へと来る事になってしまっていた。
やってきた国家はザンサツアールという魔王が収める帝国。
正直、国に入るだけでも命がけだった気がする。
なにしろ軍服着た魔族が逐一入出国を監視しているのだ。
なんとか彼らの監視を回避して侵入出来たのはシルバーたんとゴールドたんの手引きに他ならない。
そんな手引きで入り込んだ国内では、イービルアイの亜種がそこいら中を飛び交い、不正を見付けたら近くの兵士に報告するという完全監視社会。
同じ魔族であろうともびくびくとした生活をさせられているようだった。
人間がこんなとこ入って大丈夫? っていうかすぐ捕まる気がするんですが?
「ザンサツアールの国は完全独裁国家らしいわ。国内をコウモリ眼玉型使い魔で監視して、叛意を見付ければ兵士が殺到して来る。権力があるうちはこれでもそれなりに引き締まるでしょうけど……」
「なんでまた、こんなほぼ魔族領の中枢にまで侵略するわけ?」
「周辺国を切り取る際にこの国が出張ってくる可能性が高いのよ。完全な侵略国家だし、これ以上国力を上げさせると収拾付かないから、私達の国が侵略を行う前に危険な芽を摘んでおこうって理由らしいわ」
どっちも侵略国家だから考える事が酷いなぁ。
そしてその先兵をやらされてる英雄さんたち。
ふふ、折角異世界に来たのに馬車馬のように働けってか。しかも命がけで。
やってられんなぁ、このまま魔族領の奥にバックレちま……はぅぅんっ!?
「ん、がんばろ、信夫」
ご、ごごご、ゴールドたん、だめです、だめですぞっ!? そんな腕にまとわりついては、あ、当たって、当たってしまいます。も、ももも、萌えぇぇぇぇぇ――――っ!!
「しかしよぉ、今はいいが、ここからどー移動すンだ?」
「そうだな、矢田と同意見なのは気が進まんが、食料の問題もある。そう長い時間隠れる訳にも行かんぞ?」
「でも、動けばそれだけ危険なのよね……空の監視を回避して移動するのはちょっと難しいわよ?」
現実問題不可能なんだよなぁ。
方法としては陽動で耳目をどこかに集めさせるべきなんだけど、隠蔽も出来ないから誰も本命の暗殺は……
「あー、その、付かぬ事を伺うのですが、美樹香たん」
「私? 何よエロデブ」
ぐっほぅっ!? い、今の言葉、僕の心にワンショットキル。クリティカルに抉られた気がするっ!?
「隠蔽などで周囲の視線をそらせること、できないかな、闇の英雄能力とかで……」
「……つまり、私に魔王暗殺して来い、っていうのね?」
「い、いや、その、ちょっと参考に聞きたかっただけで……」
「……いいわ。私も考えてみたけどそれが一番楽そうだったし現実的だったもの。ただし、私だけだとさすがに無理だから、エロデブも付いてきなさい。身体強化使えば付いてくるくらいできるでしょ?」
「居場所バレだら意味ないんですが?」
「あんたくらいなら纏めて隠蔽出来るわよ。どうする? 命を掛けること、あんたもできんの?」
さすがに即答はできんよな。
でも、現状一番現実的なのは魔王の暗殺だ。
これだけガチガチに警戒している以上自分も暗殺を一番警戒してる筈だ。
レジスタンス等が出来れば一番に狙われるのは自分だし。
そうなると、彼女一人行かせたところで何らかの罠が待っている可能性もある。
ソレを回避するなら確かに、僕が実際に罠が無いか判断する方がいいだろう。
その方がちょっと罪悪感も無いし。
最悪、まだ見せてない奥の手を使えばワンチャン……
「分かった。んじゃ他のメンバーはここで待機。決して陽動とかは仕掛けないでくれ。明日まで待って僕らが帰って来なければ捕まったか死んだと思ってくれていい。その時は……リックマンさん、リーダーをよろしく」
「わ、私か!?」
シシリリアたんに任せたら確実に矢田を葬るし、矢田に任せたら暴走しかねない。ここはリックマン氏一択だ。光来? リーダーさせられるわけがないだろ?
「仕方ない、一日は動かなくていいんだな?」
「ええ。美樹香たんと僕とで魔王城に乗り込むので、あとはお任せします」
「ん、付いてっていい?」
ゴールドたんが!?
おもわず美樹香たんに視線を向ける。
少し困った顔をした美樹香たんは少し考え、告げる。
「いいわ、でも大人しくしてて。下手に足手まといになるなら囮にして魔王の前に蹴りだすから」
「ん」
三人で行く事になった。
っていうか美樹香たん、三人でいけるなら全員で行っちゃう方がいいのでは……あ、ハイなんでもないっす。すんませんっ。
そうっすね、ワイワイ気分で向ったらそりゃバレる可能性ありますもんね、決して矢田達と一緒が嫌とかそういうわけじゃないんすね。了解っす。はい、もうなんも言わないっす。




