百三十七話・その呪いとバグの闘いを、僕等は知りたくなかった
―― ワールドアナウンス:世界の敵呪人が出現しました。世界を滅ぼす危険性を持つ存在です。早急な討伐を行ってください ――
ソレは世界の敵だった。
ソレは全てを呪う存在だった。
ソレは呪いで出来た人型だった。
ソレは全てに感染するナニカだった。
「これは酷い。私が生まれた瞬間に排除かい」
顔が無いのににやにやとしているのが分かる。
呪人は視線をグーレイさんへと向ける。
「なぁ、神よ、私という存在は生まれながらにして世界の遺物らしい。随分と酷い扱いだと思わないかい?」
「いきなり私に話しかけるのかい。初めて見る種族だが、危険な存在だと言うのは私も理解できてるよ。その体。人に似せてはいるが、濃密な呪詛の塊だね? 感染もするのか」
「そのようだ。私は私という存在をよく知らないが、何のために生まれたかは理解している。私が生まれた理由、強い憎悪の念。人類至上主義者、許すまじ」
それ、ノヴァルディアさんの呪詛じゃね?
「ゆえに人類は皆殺し……いや、我が呪詛にて棒人間に変えてくれよ「のっぴょろーんっ」……ん?」
―― ワールドアナウンス:世界の敵モザイク人が出現しました。世界をバグらせる危険性を持つ存在です。早急な討伐を行ってください ――
人類至上主義者にバグ打ち込んだらモザイク人になりました♪ ……どうしよう。
「何してんだバグぅーっ!?」
思わず叫ぶグーレイさん。皆小首を傾げてバグ? と疑問に思ってるようだ。一部の人しか分かってないよグーレイさん。てへぺろ?
「神よ、なんだソレは?」
「あー、その、人類至上主義者?」
「そんな人類至上主義者がいるかっ」
「のっぴょろ~ん」
もはやカオスか?
モザイク人走りだす。
幸い周囲に被害が及んでいないようで、地面や空気がモザイク化するほどのバグではないようだ。
呪人の方がその点では危険だろう。
何しろ彼が動いた、彼、でいいんだよね? 彼の動いた場所が呪われたようで、草木は萎れ、空気は淀み、怨嗟の声が聞え出す。
思わず皆距離を取る。
結果、呪人とモザイク人は誰憚る事なく対峙し、互いを敵だと認識した。
「まぁいい、人類至上主義者だったことは分かっている。呪詛で死ね!」
「のっぴょーぅっ」
拳を引き絞り、踏み込むと同時にモザイク人を殴りつける呪人。
その瞬間、バグと呪いが混じり合う。
呪詛によりモザイク人が呪われ棒人間へと化して行く、そしてモザイク化により呪人の腕がモザイクへと変化する。
「なんだと!?」
「のぴょぅっ!?」
互いに想定外の被害に驚き距離を取る。
「よかろう貴様の浸食より早く貴様を呪いで染めてやる」
「のっぴょろろろーぅッ!!」
なんだ、これ?
なんかすっごい世界の危機っぽいのに、闘いはどう見ても相撲です。
モザイクと呪人が抱き付きあって投げ飛ばそうとしては互いに踏ん張っている。
「あー、グーレイ、これって、なんなんだ?」
「……さぁ?」
あー、そうこうしてるうちに互いの身体を浸食し終えちゃったよ。
「……お前、やるな?」
「のっぴょぅ」
そして肩組んで意気投合するモザイク棒人間が二体。
うん、どうやらあの呪詛、本当に触れたら棒人間になるらしい。
そしてモザイク人は触れた人物をモザイク化するバグ生物。
つまり、互いに浸食した結果、モザイク化した棒人間と棒人間化したモザイク人、結局モザイク棒人間二体となっていた。
「よし、共に世界を蹂躙しよう」
「のっぴょぅ!」
「って、なんか雲行き怪しくない?」
「こっちに視線向けてんぞグーレイ?」
「あはは……これはマズいかも?」
やべぇ、なんかモザイク棒人間という意味不明生物が二体に増えただけだった。
これ、どうなるんだ? 止める術とかあるのか?
ごめんグーレイさん、やっぱバグは軽はずみに人に向けちゃ駄目な奴だった。
「今更過ぎるだろ。ええい、攻撃して何とかなるのか?」
「おー!」
って、アーデ!? なんで突撃しちゃうの!?
「まずはお前か!」
「のっぴょろーんっ」
モザイク棒人間達が駆け寄るアーデに手を伸ばす。
慌てて僕らが駆け寄るが、二人がアーデに触れる方が早かった。
ああ、アーデがモザイク棒人間に……なってない?
―― ワールドアナウンス:世界の敵呪人ならびにモザイク人は互いに相殺しモザイク呪人になり世界の敵ではなくなりました。世界の危機は去りました。皆様お疲れさまでした ――
駄女神二号の声が機械的に鳴り渡る。
多分だけどこれ、世界で一定以上の脅威と認定されたら自動でワールドエネミーに認定される設定なんだろうなぁ。
「馬鹿な!?」
「のぴょっ!?」
アーデに触りまくる二体だが、モザイク棒人間として浸食が拮抗して無効化されたらしい二体が他の生物を浸食することは無くなっていた。
つまり、二体は新たな生命体モザイク棒人間として生活するしか出来なくなったのだ。
……なんだこの結末?




