百三十二話・その一蹴りが何を齎すのかを、彼等は知らない
「クソ、なんなんだこのにっちゃうども! 無駄に強いっ」
「しかも数が多い、ええい、魔物は死ねぇーっ」
あいつらほんとぶれないなぁー。
でも、このままだとこいつ等こっちに来ちゃうだろうし、何か良い方法……あ。
『どうしましたバグさん? なんだかすっごく悪い顔してるんですけど?』
リエラ。僕は今、悪魔と契約してしまったかもしれないよ。
物凄い解決策を見付けてしまった気がするよ。
『え?』
アーデをひょいっと持ちあげる。
「お?」
皆こっちだ! 奴らが気付く前に行くぞーっ。
「おや、アーデが動きだしたねぇ。ほらパッキー、ハム太、行くよ」
ひょいひょいっと二匹を捕まえたGババァがニャークリアさんを抱えてアーデを追って来る。
後はもう僕を見て動きだしたくねくねちゃんしかいないので、僕らは誰も欠けることなくそこへと到達する。
「っ!? おい、貴様等何処へ行く気だ!?」
人類至上主義者の一人が気付くがもう遅い。
こっちに来ようとしても青いにっちゃうに阻まれ満足に動けない。
結果、僕らは迷うことなくフェアリーサークルの上に乗る。
誰からも止められることなく、僕らは全員揃って元の世界へと戻ってきた。
そうなんだよ、あいつらが向こうの世界に来たんなら元の世界に戻っちゃえばいいんだよ。
はい、皆外でてぇーからの、蹴り。
『あ』
皆がフェアリーサークルから出たのを確認して、僕はフェアリーサークルを蹴り飛ばして破壊する。
「な、なななな、なんだったにゃーっ!?」
あ、ニャークリアさんがようやく覚醒した。
余りにも想定外過ぎて思考回路が止まってたらしい。
「なんじゃい、大声だすでないわい」
「ごめんなさい? って、そうじゃないにゃ! なんだったにゃあの世界はぁ!! そ、それに人類至上主義者、まだ追って来てたじゃん、しつこいっ」
いやー、アレは多分この村に来てただけで僕等は完全に撒けてたと思うよ。
斬星君にお願いされてなかったら既に次の国に行ってたし。
「おー……」
折角のフェアリーサークル、じゃないよアーデ。
まぁ今回は諦めなよ。タイミングが悪かったんだって。
それにあの人数だし、下手したら僕らの方に死人が出てた可能性だってあるんだから。
『えーっと、これって、あの世界に、その、人類至上主義者さんたち、閉じ込めちゃった……』
仕方ないでしょ、あのままだと僕らが危険だったんだし。それにこれ以上襲撃されたくないでしょ。
『確かにそうなんですけど、なんなら私が倒しますよ?』
それもそれで脳筋思考……リエラもリエラで野蛮でした。
「さぁさ、孫や、ヘンルーダを採取しなおそうかねぇ」
「お? おぉーっ!!」
アーデ、もしかして既に忘れてた?
ヘンルーダの花畑にうずもれてたバスケットを拾い直し、アーデが天高く掲げる。
「おーっ」
やるぞーっと気合を入れ直すアーデに触発されて他のメンバーもヘンルーダを採取し始めた。
これだったらそこまで時間は掛からず依頼達成できそうだ。
Gババァが光になって採取しまくってるし。
と、思ったんだけど結局なんやかんややってるうちに夕方になってしまった。
なんでこんな時間になったかと言えば、やっぱりヘンルーダイーターが邪魔して来たせいだろう。
意外とお邪魔虫だった。
特に沢山ヘンルーダ取ると優先的に狙って来るようになるのが、ね。アーデに群がって来た時は思わずバグらせようかと思ったほどである。
ヘンルーダイーター。同じ場所にヘンルーダが多くなるほど寄ってくるとかほんと依頼を失敗させる為だけに存在するような生物だよ、全く。
それでもまぁ、依頼をこなせる位には溜まったし、そろそろ帰ろうか、斬星君も正気戻ってるだろうし。
『そうですね。そろそろいい時間かと』
「お」
アーデも賛成?
じゃー、ヘンルーダイーターがこっち来ないうちに帰ろうか。
とりあえずGババァにヘンルーダのバスケット持たせて先行して貰う。
まさに閃光となって移動したババァにヘンルーダイーターが追い付ける訳もなく、凄く哀しそうに光速移動するヘンルーダの束を見守っていた。
こいつ等ほっといてもわんさかでてくるんだよねー、どっから湧いてんだろう?
実は土の中に本隊が居て、ソイツ倒すまで出現し続けるとか?
なんて一瞬嫌なもの想像してしまったので心のゴミ箱にそっと捨てておいた。
―― ちょっと、また連絡出来なくなってたでしょ ――
んあ? 駄女神さんか。
人類至上主義者たちに襲撃されてフェアリーサークルに逃げ込んだんだよ。
隙を見て転移で戻ったあとフェアリーサークル潰したから問題解決だよ?
―― え? 置き去りしたの!? えげつない ――
だってほっといたらアーデに危害加えようとするし、まだまだ軽い処置だよね?
―― そうだった、こいつただの保護者じゃなくてモンスターペアレンツだった!? ――
えー、どこがモンスターだよぅ、普通の保護者だよ、失敬な。




