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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1577/1818

百二十九話・そのスローライフが過酷であることを、僕等は知りたくなかった

 コドクニシズム村へとやってきた。

 ここの郊外に斬星英雄君がいるらしい。

 冒険者ギルドに寄って場所を聞き、僕らは早速英雄君のいる家へと向かった。


 へー、意外と広い土地だなぁ。

 森もあるのか。

 村の門に囲まれてる御蔭で外の魔物は入って来ない。

 御蔭で居場所を追われた普通の小動物が生息してるみたいだ。


 結構実が付いてる木があるなぁ。

 取り放題じゃん。


「アレはリンゴか? あっちはミカン、モモや栗もあるぞ? ここらの植生どうなってんだ?」


「ファンタジー世界なんだからそこはツッコんじゃ駄目な所じゃないかな」


 小玉君は食べれる食材に反応し、珍しく杙家さんがツッコミ役になっていた。

 にしても、小川も流れてるし、畑はあるし、森もある。

 一軒家で周囲に他の家もない。

 なんか、凄くスローライフに適した家だなここ。


「終の棲家にゃぁ、丁度良いな。いいとこ見付けたじゃねーか英雄さんよぉ」


「はは、英雄君自身が英雄だからなんか変な感じになってるね。でも、確かにスローライフするにはいい場所だ」


「野菜は丁度芽吹いたところね」


「うにゃー、変な形だにゃ」


 気のせいかな、このキャベツ、猫の形になってない?


「おや、この小川、魚もいるみたいですよ」


「わー、釣りも出来るんですね。いいなぁここ」


 皆、斬星君の家を見て感嘆しながら家へと向かう。

 全くこの状況で斬星君は一体何があったんだ?

 

「斬星君、グーレイだ、居るかい?」


 あれ? おかしいな。二度のノックとグーレイさんのちょっと大きめな声に反応がない?


「ドア、開いてる……」


 鍵が掛かってないドア。

 ほんとにナニか、あったのか!?

 襲撃されたとか!?


「入ってみようか」


 グーレイさんが警戒しながら家へと入る。

 木造建築のログハウスって感じてなかなか味のある家だ。

 パチパチと爆ぜる音は暖炉の音だろう。

 暖炉の火は燃えてるのか。ってことは家の中に斬星君いるってこと?


「ここにはいないな?」


「風呂場にゃ居ないみたいだぞ?」


「トイレもあるわよここ、でも人はいなかったけど」


「あとは、あそこが寝所かな?」


 扉を開き、グーレイさんが部屋へと入る。

 折角だから僕も、っと、あ、アレじゃないグーレイさん?

 部屋の隅っこで布団を被って震えている何かを見付けて指差す。


「斬星君?」


「……っ!? ぐ、グーレイ、さん? 本、物? 幻覚、じゃ、ない?」


「ああ、ギルドで君の伝言を聞いて来たんだ。何があったんだい?」


「グーレイ、さん、グーレイさんっ。グーレイさぁぁぁぁんっ」


 本当にグーレイさんがやってきたと理解した斬星君が布団を投げ捨て飛びかかってきた。

 唐突な事に反応出来なかったグーレイさんの腰元に抱きつくようにがしりとホールドして押し倒す。

 そのままお腹にぐりぐりと顔を押しつけ号泣を始めた。


「な、何が起こった?」


「おうグーレイ見付かったか!? って……なにやってんだ?」


 ガーランドさんが一瞬ぎょっとしたものの、探していた人物に敵意はないと気付いて呆れた顔になった。


 ……

 …………

 ……………………


「すみません……」


 ホットコーヒーならぬ白湯を飲んで落ち付いた斬星君。

 皆は人数が多いので床に直座りで彼の言葉を待つ。


「それで、何があったんだい?」


 グーレイさんが代表して尋ねると、斬星君は静かに首を横に振る。


「何も、なかったんだ」


「何もなかった?」


「初めは、スローライフだって、楽しんでたんだ。ずっと憧れてたし。一人きりでゆったりできるって、でも、違った。僕はスローライフを甘く見てた……」


「う、うん?」


「耳鳴りがするんだ。静か過ぎてずっと鳴ってる。鳴りやまない。一人きりだから喋る相手もいなくて、仕事の依頼で受付嬢さんと二言三言交わすくらいで、それ以外ずっと無言なんだ。農業は面倒だし一人でやってもあんまり進まないし、植物の育成は気長すぎるし」


「お、おぅ……」


「三日位経ったらもう、無理だったんだ。誰も居無さ過ぎて耐えきれない。たった一人で頼れる人も居なくて病気になったらどうしよう、怪我したらどうしよう。怖くて森にも入れない。食中毒になったら一人寂しく死んでいくんじゃないだろうかって果実も食べるの恐くなって、最初の一個虫食いで腐ってたし。魚を捌こうとしたら身や内臓から白くて細いのがうじゃあって」


「あぁ~……」


「無理だよ、僕には無理だ。一人でスローライフなんて土台無理な話だったんだっ。静か過ぎて幻覚見始めたし、グーレイさんが尋ねて来てくれるのだってこれで8回目なんだ。これ、本当に現実だよね? 僕の妄想が産んだものじゃないよね」


 ヤバい、精神的に壊れる限界になってる……

 もはや現実が現実であると信頼出来ない位になり始めてる。

 これ、後数日遅れたら精神が壊れてたかも……


「い、急いで来て良かった。それにほら僕だけなら幻覚だと思うかもだけど他のメンバーも一緒だろう? 彼らは私が冒険中に仲間になってくれたメンバーさ、だから君の妄想が生み出せるものじゃない。違うかい?」


「あ、ああ、そうだね。ところでグーレイさん。まだ自己紹介貰ってないそこの女性と男性は?」


 え? 僕とリエラ? 見えてるの?


「あん? そこにゃ誰もいねぇぞ兄ちゃん?」


「あ、ああ、あああああああっ。げ、幻覚なのか、また、また幻覚っ!? あは、あはは……」


「ちょ、ガーランド!」


「わ、悪りぃ。お、落ち付け、居る。ちゃんと居るから、現実だからな、幻じゃねーぞ。うん。ほら、白湯飲んで落ち付け」


 斬星君、本気で大丈夫だろうか……?

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