百二十八話・その死に惑う大森林のボスを、僕等は知らない
「敵、出てきませんね?」
しばらく森を彷徨った僕等だったけど、なぜか敵性魔物が一体も出て来ていない。
ただただ迷いの森を直進するだけである。
「ゲッコゲコ?」
―― なんだ? 君たちもしかして魔よけの香は持ってないのかい? ――
魔よけの香?
「そんなモノがあるのかい?」
「いや、聞いたことねぇぞ? 少なくとも人間領にゃ出回ってねぇーんじゃねぇか?」
―― ああ、そうだったのかい。確かに、これは魔族領で手に入れたものだ。そうか、これは魔族領限定品だったのか? 一応、味方になった魔物以外の敵性魔物が寄ってこなくなるだよ ――
え? 何その御都合主義?
ちょっと駄女神さん、どういうこと?
―― 説明しよう! 魔族製魔よけの香は味方の魔物には効果がないが敵性魔物は自分たちの最高レベルより弱いモノ以外寄ってこなくなるのだ。つまり、今はピピロの600レベル以上の敵しか寄ってこないのである!! ――
ほんとにただのご都合主義だった!?
―― これね、世界創造キット初心者編に付属してる道具の一つなのよ。なんでかこの世界には魔族領専用になってるけどね ――
―― あはは、設定ちょっとミスっちゃいまして、あ、人族領用に後付けで別の奴入れましたよ? ――
そこはどうでもいいよ! ご都合主義が神々の世界で横行してるってどうなのよ!?
『諦めてくれ、開発部がいろいろ発明して最近神々の世界じゃ世界創造ブームなんだ』
何そのブーム、軽い気持ちで異世界創りださないでほしいんですけど!?
どうせグーレイさんもそんなノリで新しい世界創ったんでしょ?
『失敬な、私が創った世界は元々観察のためにだね』
―― グーレイさん寂しがりだからさー、熱帯魚飼うような気持で世界創りだしたのよねー ――
ペット感覚かよ!? 箱庭シミュレーターでもしたかったのかな?
で、その世界はアルセに取られちゃった、と。
大丈夫なのグーレイさん、寂しくて死なない?
『私をなんだと思ってるんだ君? 最近は後輩のフォローなどで忙しいんだよ。ああ、そういえば駄女神、彼の世界どうなった? 途中でこちらに来たからソシャゲ世界の方中途半端になってしまったんだが?』
―― そろそろ正式可動するって。神々に解放されるらしいわよ ――
なんだソシャゲ世界って? ソシャゲってアレでしょ、課金ガチャとかSSRキャラとか、え? それを現実世界で再現すんの? できるの? 神頭おかしいレベルで凄いな。
『バグだらけなのに大丈夫なのかい?』
―― ある程度はデバッガーが確認してくれてるし。いやーでもあのバグはヤバかったわ。敵のグラフィックが赤ん坊になってたせいで赤ちゃん大発生になってて ――
『ああ。あったなぁ……』
そんな世界に行く事が無くて良かった、マジで。
「おっと、そろそろ森が途切れるな」
殆ど時間を置かず。グーレイさんが森の外へと辿りつく。
途端、霧は晴れて視界が広がり、草原地帯が大パノラマで広がって行く。
「グーレイ、方角はこっちだ」
「了解」
草原をぞろぞろと歩く。
こうして草原に出てみると、亜人のラウールさんの姿が何ともいえない気色の悪さがあるなぁ。
多分僕の感性の問題だろう。
カエルが二足歩行してるのが違和感過ぎて我慢できる限界値を越えているようだ。
うーん、慣れるかなぁ?
豚が二足歩行するのは許容できたのになぁ、やっぱりヌメってるからだろうか?
ねぇ、リエラ、どう思う?
『私に聞かれても……私は別に気にしませんよ?』
リエラは世界的に亜人への抵抗あんまりないしねぇ。
いや、グーレイさんにも慣れたんだし、その内慣れるか。
『君、私にも慣れたってどういうことかね?』
だってグレイじゃん? 肌質人間のそれじゃないし銀色だし、目がアーモンドだし、人と違い過ぎる生物を受け入れるのは結構精神的に正気度を削るんだって。
『え、私そんなに衝撃的な姿なのかい?』
『私はそんなことないと思いますよ?』
―― 今更じゃない? ――
―― あ、気付いてなかったんですか? ワザとだと思ってました ――
―― 私もどうかと思った ――
『あれ? 同僚の方が不評だった?』
リエラだけだったね許容してくれたの。
グーレイさんその姿ホント特殊なんだから、初対面の人には謝っておきなされ。
『会うたびに謝罪から入るとか絶対しないからね。なんだよ生きててごめんなさいとかいうつもりかいっ全く』
草原の魔物すら寄ってこないから無駄話に花が咲く。
魔よけの香、めちゃくちゃ便利だなぁ、僕らも買えないかな?
魔族領に行かないとだめか。
グーレイさん、暇があったら魔族領の方も回ってみようよ。
『えー、面倒な』
あれ? 意外とつれない? あ、違う、さっきの話し引きずってやさぐれてやがる。




