百二十三話・その男が活躍できることを、彼らは知らない
「こんにちわ皆さん」
結局、謎の妖精さんたちに尾道さんが交渉に向かうことになった。
一応近くでリエラが待機してくれてるけど、多分戦闘になっても尾道さん普通に避けまくりそうなんだよなぁ。
そして、返答する妖精たち。言葉が分からないから僕たちはただただ尾道さんの話術に期待するしかない。
「かピΘ±?」
「ト疎ビЫば碁キ!!」
「え? ちょ、ちょっと待ってくださ……ひぃっ!?」
あー、交渉可能なことと交渉成功することは同じじゃないよねー。
声を掛けられた妖精たちは迷うことなく尾道さんを敵認定して槍を突き刺す。
幽霊の歩法ですぅーっと避けた尾道さんに驚き、さらに苛烈に攻め立てる。
「カバーッ、シールドバッシュ!」
そしてすぐにフォローに入ったピピロさんが妖精の一人を撃破すると、妖精は雄叫びみたいな金切り声をあげた。
尾道さんが掌向けて貫波。妖精は光に消え去ったけど、先程の雄叫びに反応し、村から羽音の群れが響く。
「い、一度撤退しましょう」
「それが良さそうです」
慌てて逃げだすピピロさんと尾道さん。
アーデがいる僕の所まで下がって茂みに隠れて様子を伺うと、黒い靄のような妖精の群れが村の入り口に襲撃を仕掛けて来た。
何匹居るんだあのちっさい妖精? まるで蝗の群れみたいだ。
しばらく入口に居た妖精二人を探すように揺らめいていた妖精の群れは、近くを通りがかった青いにっちゃうを見付け、腹いせのように突撃。
黒い靄につつまれた青いにっちゃうは、数秒もせずに靄の中に消え、骨すら残さず消え去った。
そもそもにっちゃうに骨、ないんだけどね。
「さすがにアレは、避けきれそうにないですね」
「包まれたら骨になりそう……ここ、ホントに危険地帯ですね。これ以上進むのは止めた方がよさそうです」
「アーデちゃん、どうするんだい?」
尾道さんの言葉に、アーデは少し考える。
あ、でもまだ前進するのか。
村とは別方向に向けて歩きだすアーデ。
ピピロさんと尾道さんは困ったような顔で互いに見合い、アーデに付いてくることにしたらしい。
青いにっちゃうを撃破しながらしばし。
今度は廃村と思しき場所へと辿りつく。
アーデの様子を見ると、本当はあっちの村が良かったけど、こっちでもいっか、といったご様子だ。
いや、僕がそう思っただけだからホントに思ってるかどうかは別だよ?
「お、お、おっ」
とてとてと僕の手から離れて歩くアーデ。
廃村の中心地にやってくると、その場にしゃがみこむ。
なんか掘り始めた?
「あそこに何かあるんでしょうか?」
「そんなバカな? この地に来るのはアーデちゃんも初めてでしょう? 何かあるにしてもどうやってそれに気付いたんです?」
ただの勘じゃないかなー。
アルセも結構行き当たりばったりで行動して幸運の御蔭で後々に繋がる有用なモノ見付けてたし。
「おーっ!!」
なんか見付けたみたいで、とったどーっと右手を突き上げるアーデ。その手には、一つの球体が握られていた。
「なんでしょう?」
「黒い球体? 宝石か何かでしょうか?」
えーっとなになに『使用済み邪神石』
なんかやばそーな名前……ってアーデ!?
アーデは迷うことなく邪神石をぱくっと食べる。
「ええ!? 食べた!?」
「石は食べ物ではないですよアーデさん!?」
バリッ、ガリッ、ゴリゴリ……ごくん。
……普通に食べちゃったな。
アルセも結構似たようなことして変なの食べてたし、体内に取り込むことで目的とした能力を手に入れられるのかも?
でもビジュアル的に石を食べるのはこれっきりにしようねアーデ。
石を食べて満足したのか、アーデは僕の傍に来ると、さっさと帰ろう、と抱っこをせがむ。
うーん、まぁいいか。
何か釈然としないものを感じながらアーデを連れて入口のフェアリーサークルがあった場所へと向かう。
「え? アーデ空浮いてる!?」
「そんなバカな!? もしかして、今の石にそういったスキルを覚える能力が?」
おっと二人の視線が痛い。
でも、アーデ浮かしちゃった以上はそのまま持って帰らないとね。
いまココでアーデを降ろすとむくれちゃうし。
『二人、気付きますかね?』
んー、気付いたとしても一人おかしなのが近くにいる、くらいだろう。
二人もいるなんてことは思いもしないと思う。
「おー」
あー、はいはい、直ぐに出ますよー。
アーデが急げ、みたいに告げて来たので速度を上げてフェアリーサークルのある丘を目指す。
「あ! アレってもしかして……」
「よ、妖精の群れが追って来てる!?」
『皆さん急いで!』
僕らはさらに急いでフェアリーサークルへと飛び込んだ。
全員が元の世界へと舞い戻る。
っと、アーデが僕から飛び降り、フェアリーサークルの円を蹴り付け破壊する。
円環状だったその場が崩れ、円の形を失うと、おそらく、転移装置としての役割自体も失われたようで、その後は円の中に入っても転移すらしなくなってしまった。




