百二十二話・その誰かがいる事を、彼女は知らなかった
『麒麟天獄殺!』
リエラさん無双が繰り広げられている。
ほら見てアーデ。アレが僕らの最高戦力リエラ・アルトバイエだよ。
責任感が強いせいで常に皆の安全のために自分を犠牲にしようとしちゃうんだ。
ピピロさんと尾道さんが我に返るまで孤軍奮闘してくれたリエラに感謝。
二人が、あ、ここ戦場だったと気付いたのでリエラに声を掛けて戻って来て貰う。
全く、二人とも呑気だよねぇ。
「わ、私も戦力と数えてくださって、い、いいのですよね?」
「はい、期待しちゃいます。僕とこの良く分からない世界、攻略してください尾道さん」
さて、と周囲を見回すピピロさん。なぜか怪訝な顔をする。
「変、ですね」
「変、ですか?」
「青いにっちゃう、結構な頻度でこっちに近づいて来てるみたいです。なのにさっきまで遭遇しなかった、というか、誰かに倒されていた?」
小首を傾げるピピロさん、むぅっとアーデに視線を向ける。
「まさか、ねぇ?」
「と、ところで、この先どうするつもりで?」
「そう、ですね。この世界に付いて調べるか、グーレイさん達に伝えるか。アーデはどっちがいい?」
「お!」
アーデの選択は……あ、やっぱり直進するのね?
このままこのチームで探索するそうだ。
んー神様たちと連絡取れないってのが不安ではあるけど、ここを覚えておけばすぐ戻れるみたいだし、にしても、ここってなんだろうねリエラ?
『そうですね、全体的におどろおどろしい雰囲気がありますし、裏世界、といった感じでしょうか?』
世界の裏側。なんというか、魔王倒した後に来るような場所ではなかろうか?
この世界の奥に邪神が封印されてるとか? 封印……いや、まさか、この世界に予言の魔王さんとやらがいるとか!?
さすがにそれは安直すぎるか。
というか、あのにっちゃう数多いな。
尾道さんが雑に強いから問題になってないけども。
ピピロさんも遠慮なく棺の盾使ってるね。シールドバッシュなら一撃必殺できるのと、一応レベル差の御蔭でダメージもほぼないらしい。
でも、多少ダメージ喰らってるみたいだし、敵のレベルは300から600ってところか。
……尾道さん、確かレベル30位じゃなかったっけ? いや、深く考えるのはよそう。彼はバグってるんだ。
「急に敵の襲撃が増えましたね」
「ええ、でも、対処出来るくらいです、はは、私が、こんなことできるなんて、まるで夢のようだ」
夢じゃないんだなぁ、バグなだけで。
「ほんと、さっきまで別の誰かが闘いを引き受けてくれていたみたい……」
「別の誰か……ですか? ここに居るのは私達二人とアーデちゃんだけですよ?」
「そうですけど、なんというか、さっきもあのにっちゃうの体当たり、僕激突される前に……そうだ、確かに僕は、自分以外の意思で避けた、ような……?」
『な、なんというか、ピピロさん私達の事自力で気付こうとしてません?』
別にいいんじゃないかな、リエラだって自力で僕に気付いたでしょ?
『そう言えば確かに。ふふ、懐かしいなぁ、自分が冒険者始めたばっかりの時。ほんと役立たずでした、よく、ここまで来れたなぁって思っちゃいますね』
僕が周囲にバグの影響振り撒いてたみたいで皆がちょっとづつバグってたもんね。
『御蔭でここまで強くなれました。バグさんに感謝ですね』
そ、そうかな?
『はい、バグってなかったら、多分胃に穴空いて死んでましたし』
そういえばリエラってプレッシャーで潰れかけたんだっけ。あの時はホント皆頑張ってくれたなぁ。100階層のダンジョンクリアすることになったし。
「ピピロさん、あちらに!」
「アレは……村?」
村!? 裏世界に村あんの!?
とりあえず青いにっちゃうを掻きわけ、村へ向うことになった。
まぁ、僕とリエラは付き添いだから、二人が行き先決めちゃうんだけどね。
アーデは暴走させないように僕がしっかり見張ってるので行き先決める権利はないんだ。
「村……ですけど、住民が人じゃないみたいです」
村に入る前に様子を伺ってみると、どうやらこの村は妖精さんが作ってる集落らしい。
妖精の国、といえばブラックアニスたちがいた国を思いだすんだけど、こっちの妖精の村はちょっと嫌な気配がする。
大丈夫かなぁ? 言葉も意味不明なことくっちゃべってるし。
リエラ、あの言葉分かる?
『いえ、なんでしょう、全く聞いたことのない言葉ですね』
「むぅ、言葉がわかりません。尾道さん分かりますか?」
「え? 普通に日本語で話されてますが?」
な、なにぃーっ!? 尾道さんバグってから有用になりすぎじゃないですか!?
そういえば異世界言語理解もバグってたね。
この世界での言語も和訳できちゃうのか。
尾道さんが無駄に生き生きし始めてる。
いい兆候なんだけど、なんかバーコードのおっちゃんがハッピーエンド迎えると思うとなんか嫌だなぁ。邪魔したくなるのはなんでだろ?




