百二十一話・その彼が闘えることを、彼は知らなかった
尾道さんに迫る青いにっちゃう。
強力な体当たり攻撃に、尾道さんはなすすべなく顔面に直撃を……すぅーっと躱して素通りさせた。
幽霊の歩法凄すぎないか!?
今の完全に直撃コースだったじゃん!?
「えぇ!?」
ほら、ピピロさんが驚いてるじゃん。
ホント、アンタバグってるよ。
「す、凄いじゃないですか尾道さん」
「え? ええ、最近体が自然と避けてくれまして」
「何か、スキルを覚えたんですかね? 攻撃スキルとかないんですか?」
「え? えーっと……これ、ですか」
再び特攻仕掛けようとしたにっちゃうに掌を向ける尾道さん。
次の瞬間、大地を引き裂くような音と共に光が迸った。
突撃しようとしていた青いにっちゃうは光に呑まれる。
驚き過ぎて皆顎外れそうだよ。
当の本人である尾道さんも掌突き出したまま気絶してんじゃないかと思う程呆然としてるし。あ、眼鏡が斜めにずれた。
「……な、なん、なにが?」
「お、尾道さん、な、なんですか今の!?」
「わ、分かりません、ただ、貫波というスキルらしくてですね、光を打ち出せると、その、脳裏によぎりまして、こ、こんな凄いものだとは……」
それ、元は看破スキルだから。なんで光打ちだすスキルになったんだろう? まぁ、砲撃スキルと思えばむしろこっちの方が有用な気がしなくもないけども。
「初めて聞くスキルですが、グーレイさんの打ちだす赤い光の強化スキルでしょうか?」
アレとは別だと思います。あとただのバグです。
「あの、スキル構成教えて貰ってもいいですか? もっと役立つスキルがあるかもですし、なんか、尾道さん普通に戦闘に参加できますよ! 今までの僕と同じ役立たず状態は卒業じゃないですか!?」
「え? いや、でも、私など……あ、これ、私のステータスです」
いや、君等ここフィールドなんですが? ゆっくりしてる暇ないよ、移動しようよ? なんかあの辺りで青いの見掛けた気がするんだって。
『仕方ありません。私が露払い致します。バグさんはアーデとはぐれないように、あと二人を守ってください』
了解。
「な、なんですかコレ!? え? スキル構成、おかしくないですか!?」
「そうです、よね? 私もさっき見て驚いたのですがこれ……バグってますよね?」
おおぅ、気付きましたか!?
「禿成長率10倍、ふふ、そうか、私はこのまま禿げる運命ですか、ふふふ……」
「あれ? でも、これって意外と、強いスキルなのでは?」
「……え?」
「いや、だって、毒と麻痺は吸収しちゃうんですよね? 賢者の眼鏡ってことはその眼鏡さんは賢者さんってことですし、幽霊の歩法で攻撃は避けれるみたいですし、遠距離には貫波で、近接は……臭激? ほら、意外と闘えちゃいますよこのスキル」
「た、確かに、そういわれてみれば……私が、闘える? 役に、立てる? 皆の、役に?」
自身のステータスを見て呆然とする尾道さん。その瞳に、涙がにじむ。
「それに、精神移譲? の吸収とか、自身神成鍛治親治とか、説明欄も良くわかりませんけど、これ、攻撃スキルとかになってませんか?」
「えぇと、精神移譲はパッシブ、というのでしたか、自身なんとかは攻撃スキルのようです。つ、使えるのでしょうか?」
「丁度、そこににっちゃうの青いのがいますし、試しに使ってみては?」
「そ、そうですな。で、では、自身神成鍛治親治ッ!!」
スキルを使った。
尾道さんは光り輝いた!
「ひ、光った!? 光ってますよ尾道さん!」
「え、えぇ……光るだけのスキルでしょうか?」
「と、とりあえずあそこの青いのに、攻撃を……」
「わ、分かりましたや……てみます」
や、の部分で尾道さんが掻き消えた。
まるで神速突破使ったかの勢いで、一瞬で青いにっちゃうの傍に出現、にっちゃうに触れる。
次の瞬間、バヂィッと凄い音がして、青いにっちゃうは黒炭へと変化した。
「す、すご……」
このスキル、どうやら自身に神速突破と帯電を重ね掛けするスキルのようだ。
鍛冶部分が良くわかんないけど、もしかしたらこの状態で鍛冶を行うとやっばい武器ができちゃったりするかもしれない。
「凄いじゃないですか、尾道さん!」
「こ、これ、わ、わた、私……」
「見返してやりましょう! あの矢田さんを。貴方が役立たずじゃないんだって見せつけてやるんです」
「私が……役立たずじゃ、ない?」
尾道さんは両手をの掌を見て愕然とする。
今まで自分は何の役にも立たないと諦めていた。
だけど、すでに、自分の中にあったのだ。
誰かの役に立てるスキルの数々が。バグってるけど……
「ああ、ああぁ……」
かつてない喜びに涙が溢れる。
渇望し続けた力に声が漏れだす。
歓喜に打ち震える新たな戦士の誕生に、世界が震え……
って、ちょっと二人とも、ここ、普通のフィールドじゃないこと忘れてない!?
警戒、警戒してぇ!?




