百十九話・その同士打ちがどうなったかを、僕等は知る気もない
「おい、同士!? そ、そいつは、なんだ?」
人類至上主義者たちは男の言葉で視線を向ける。
そこには、同じ志を持っている筈の男が足元に千疋狼を従えている姿があった。
「そいつ? な、なんだこいつは? ち、違う、待ってくれ」
千疋狼は行儀良く彼のすぐそばで尻尾を振りまくっていた。
完全にご主人様のお傍だわーいと喜ぶ犬の様相である。
「おのれ貴様ッ! 同士と謀っていたか!!」
「なっ!? くそ、話を聞け!?」
怒りに任せて男に向かって人類至上主義者が襲いかかる。
ぎりぎり剣を受け止めた男は、なんとかいい訳をしようとして、気付いた。
「ま、待て、あいつを見ろあいつを」
「魔物至上主義者の言うことなど聞いてたま……なぁっ!?」
指差された場所を見た彼は、見付けてしまった。
同じ人類至上主義者の女、その足元で尻尾を振りまくる千疋狼の姿を。
「貴様もかぁッ!?」
「え? あ、ち、ちがっ、きゃあぁ!?」
人類至上主義者同士の同士打ち。
狼共は騒ぎに乗じてどんどん集まってくる。
それを見てグーレイさんが無言で指示。
皆頷いて少しずつ戦場から距離を取って行く。
「貴様だけは、同士だと信じていたのにッ!!」
「それはこちらの台詞だ魔物至上主義者めがァ!!」
僕らが撤退を始める頃には十数人の刺客たちは互いに譲れぬ主張と味方だった者が敵だったという衝撃で、同士打ちを始めていた。
血みどろで争い合う人類至上主義者たちは、僕らを恐れさせるほどに醜悪な自滅を行っていた。
うん、まぁ、やっておいてなんだけど、こいつ等ほんとヤバ過ぎる。駄女神二号さん、なんで造っちゃったの? こんな国家。
―― 待って違うよ!? 私が造ったんじゃないよ!? 勝手に形勢されたんだよ国家は! だから私のせいじゃないの ――
管理責任者の責任です。
―― がふぁっ!? ――
―― きゃー、駄女神二号が血ぃ吐いたぁー!? ――
―― ま、マロンさん、貴女まで駄女神言っちゃうんですか……私、パンテス……テリア、です。がふっ ――
―― パンティーちゃーんっ!? ――
なんだこの茶番……?
まぁ、いいや、とりあえず人類至上主義者の群れからは逃げ切った。
僕らは次の街向けてさっさと移動する。
千疋狼たちが付いて来てたけど、転んだりしないからこっちじゃ無く人類至上主義者たちの元へいっといで。
「着いたぞー、ちょっとしたトラブルはあったがなんとか辿りつけたな」
「それはいいんだけど、なんか追ってきそうだからすぐに町を発った方がいいんじゃないかな?」
「確かにその通りだな。んじゃ素通りするか」
「あ、それならグーレイさん、進行方向とは別の門から出るべきにゃ」
「ん? なぜだい?」
「そっちに行ったと見せかけて別の場所に向かえばもう会わないにゃ」
あ、それ知ってる。野生のキツネとから追ってを巻くために自分の足跡を辿って道を戻り、近くの森の中に逃げ込んで逃走経路を撒くって奴でしょ。さすが猫娘。考えるところが野性的。
「……なんか、貶された気がするにゃ?」
な、ななな、何をおっしゃる!? 貶してなんていませんよ。っていうかなんでわかったし?
『多分だけど、彼女たちにとって君は見えてないし声も聞こえてない訳だけど、高次元ではすぐそばにいるので声のような何かは感じてしまっているんだろうね。俗に言う第六感で感知したってところだろう』
要らない感覚で受け取ってた!?
確かにグーレイさんとこんがらがってるだけらしいから声は本当は聞こえてるけどこの次元では聞こえてないってだけらしいし、声の波長か何かは皆にちゃんと届いてはいるってことなのかな?
ニャークリアさんの言葉に従い、一度ギルドで配送依頼を完了させて、別の街へと向かう。
一旦北側に向かうと見せかけて森に入って東に向かい、そのまま突っ切るように南側へ。そしてそこから別の街向けて移動を開始する。
これで撒けるといいんだけどね。
ああいうのって妙に感が良かったりして無駄に再会しちゃったりするから手に負えないんだよなぁ。バグ……らせちゃおっか。
『バグさん? 今、なんか恐ろしい事考えませんでした?』
はっはっは。なんのことかなリエラさん?
僕が考える程度のことで恐ろしいことなんか起こる訳ないじゃないですかやだー。
町を通りこして簡素な田舎の村へと辿りつく。
この辺りは農業が盛んで冒険者も殆ど居ない。
まさに村専属冒険者、みたいなのが数人いるくらいだろう。
ランクもそこまで高くないし実力はないけど治安維持は出来る冒険者さんだ。
「ここで一泊して次の街を目指そう。そろそろハルンバルン王国の国境が出て来るから次の国に入るけど、問題はあるかグーレイ?」
「いや、問題はないよ。宿で最終的な打ち合わせをしよう。とりあえず今日は解散。夜まで自由行動だ」
よーし、リエラ折角だから景勝地探そう!




