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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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百十五話・その逃亡生活を、彼ら以外は知らない

SIDE:月締信太


 宿屋の一室で目覚める。

 シングルのベッドに二人の姿。

 僕と魔王の娘は同じベッドで朝を迎えたのである。


「……ん? あら、今日も襲われなかったのね……」


「ちょ、毎日何言ってんの!?」


 朝日を浴びたことで目が覚めたらしい魔王の娘が起き上がる。

 残念だけど、僕と彼女とは出会った時にキスしただけで進展はまだない。

 逃亡生活のこともあるんだけど、なんというか、ここで襲うように手を出してしまったら、僕が彼女を助けたのは体目当てだったって思われてしまうだろうからだ。


 手を出したい。でも手を出さない。

 せめてと一緒のベッドでは寝させて貰ってるけど、理性が今のところは勝利出来ている。

 彼女も初日こそびくついて諦めた顔をしていたが、一週間もすれば隣で寝るのは慣れたものだ。 


「私目当てなのに手をださないのは何故かしら? 不能の人?」


「普通に襲いたいのを我慢してんだよ!? 僕だって君に体だけ目的だったなんて思われたくないんだ。僕は君に惚れたけど、でも肉欲のためだけじゃないから。だから、手をださないって決めてるの」


「……変なの」


 僕の自己満足だよ、どうでもいいでしょ!?


「とりあえず、今日はどうする?」


「そうね……一先ずギルドで仕事ね。それと、帝国の動きの確認。一応私達を追っては来てないみたいだけど、調べておくに限るわ」


「つまり、いつも通り、か」


「正直、この領地は中継地点のつもりだったんだけど、意外と過ごしやすいのよね」


「確かにね。ところで……」


「ん?」


「その、そろそろお名前教えてもらえない、かな?」


 こてん、と小首を傾げる魔王の娘。

 ずーっと待ってたんだけど今まで一度も教えてくれなかったので仕方なく聞くことにしたのだ。


「そういえば自己紹介してなかったかしら? ここずっと一緒なのに名前呼ばれないの、おかしいとは思っていたの」


 思ってたんだ!? なのに名前教えてくれなかったんだ!?


「ユーデリア。私の名は、ユーデリア=ラオル=ディクセリア。ディクセリア王族最後の生き残り。貴方は?」


「信太。月締信太だ。槍の英雄として異世界から呼ばれた」


「そう、これから、末永く、よろしく?」


「あ、うん。末永く、よろしくおねがいします」


 出会ってから一週間、ずっと一緒に過ごし、でも、ようやく互いの名を知った。

 恋人かと言われると答えに困る。ならば他人か、といわれても違うと言える。

 友人ではない。ついでに言えばパートナーとも違う。


 僕らの関係、なんて言えばいいんだろうか?

 姫と従者? それもちょっと違う気がするなぁ。

 と、とにかく、そういうどうでもいいことは置いといて、準備開始だ。


 洗面所は無いので備え付けの桶を持って井戸へと向かう。

 ユーデリアも一緒だ。さすがに部屋に水入り桶を持って帰る訳にも行かないからね。

 彼女には顔を拭くための手拭いっぽいのを持って来て貰う。

 桶一杯に水を汲み、二人揃ってその場で顔を洗う。


 さっぱりしたら口も濯ぐ。

 日常雑貨屋で買った歯ブラシを使って軽くブラッシングだ。

 あの日常雑貨屋、魔族が店員なのに売ってる物は人族領のとそこまで変わらないんだよなぁ。

 歯磨き粉はさすがになかったし、代わりに使う塩は種族的に駄目な存在もいるってことで物凄く高級品になっていたので買わなかったけど。


「歯磨きなんてやる必要あるのかしら?」


 僕に教わってしゃこしゃこし始めて一週間。未だにこの歯磨きの意義を見いだせないユーデリアはがらがらぺっと水を吐きだし、うえぇっとえづく。

 慣れないらしい。むしろこんな辛い思いしてまでやることか? とすら思っているらしい。虫歯とかどうなってんだろう? 今まで経験無いのかな?


 ちなみに吐き捨てたのは宿屋の庭先だ。

 だって場所が無いから地面に吐くしかないんだ。

 一応奥まった場所で人が踏まないような場所に吐いてるから、問題はないよね?


 朝の支度が終わると、装備を整えて宿を出る。

 そろそろこの宿も出て行った方が良さそうだな。

 一週間も同じ場所に滞在していると何故か変な人を見る目をされるのだ。


 冒険者はその日暮らしなので一日ごと、宿が埋まっていれば別の宿へ、が普通らしい。

 なのに僕らは一週間ずっと同じ宿。そりゃ訝しがられるか。

 仕方ない、とりあえず今日はここを引き払って次の宿を決めよう。


「なら、折角だし次の街に向かう? 魔族領の奥へと向かえば人族の追手はまず来ないし」


「そうだね。これも機会と思って向ってみようか。次は何処がよさそう?」


「えぇと……ここから北西にある領地に行きましょうか? 北に向かうのは絶対にだめ。規律でがちがちに固められてる領地だから下手したら捕まるわ」


「そういうところには行かないようにしないとね。よし、じゃあ北西向けて出発だ。ギルドの仕事は配達か護衛依頼、行き先に討伐対象がいる討伐依頼辺りを受けるとしようか」


「それがいいわね。ふぅ、次の街に行けば多分心にも余裕が出来るわ。ここだと攻め寄せて来た人族と出会う確率もかなりあるもの」


 幾ら魔族領といえども表層部らしいからねこのあたりは。

 もっと深部で安全な場所を探さなきゃ。

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