百十四話・その新たな指令を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
「えー、と、いうわけで、次の魔王倒すことになりました」
皆の顔を見れない。
なんだこの状況。
対面に座るのは憮然とした顔、顔、顔。
正直まともに皆の顔を見られない。
意思の弱い僕を許して。
王様からの勅令+監視員とか逆らえるわけ無いじゃないですか。
けっして色仕掛けに負けたわけじゃないんで……は、はぁぁぅんっ!?
背中に柔らかな二つの山がふにょんと触れる。
思わず背筋を伸ばす。
止めて、ゴールドたん、それはマズい。マズいんですよぉぉぉ!?
お、おおお、不味い不味い不味い、行けないところが起立しちゃいますっ。
「で? アンタ達が同行する、と?」
「ええ。我が帝国から各英雄の情報共有が出来るようになるように、と」
「白々しいな。要するに俺らが勝手に動かねぇように監視しに来たっつーだけだろ」
「それに、早速リーダーになったと見るや灼上さんの籠絡に掛かるなんて、ちょっとあからさま過ぎません?」
珍しく、矢田とシシリリアさんの意見が一致していた。
「まー、いいんじゃねーすか矢田さん。監視が付こうが俺らがやることは魔王倒して元の世界戻ることっしょ」
「そらそうだがよ。魔王倒したのに戻れてねーじゃねーか、次の魔王? どうなってやがる? 魔王が複数いるなんざ聞いてねぇぞ?」
ギロリ、睨まれたシルバーたんは、光来の傍でその手を取って籠絡しようとしている最中。光来も年頃のお姉さんには手を握られたこともないらしい。顔を真っ赤にしつつも彼女をフォローする側に回っていた。
って、あの、間横に居る美樹香たんはなぜ僕を睨んでいるんでしょうか?
凄く不機嫌そうなのが怖いのですが?
リックマンさんがどん引きですよ?
「あー、監視については了承だ。どうせ嫌がっても付いてくるだろうし、追い返したら別の人員がくるのだろう?」
「はい。何度も追い返すようですと、監視ではなく追手になります」
さりげなく言うことじゃないよシルバーたん?
つまり、反逆者として追われたくなければ監視付きで生活しろってことだろ。
しかも勅令という手紙で魔王倒しに行かなきゃそれでも反逆者にしちゃうよん、という遠回しな圧力掛けて来るし。
さて、そうなると、どうしようかな?
今後の方針、地図をだして場所確認から始めるべきか。
「えー、それじゃ、その、これからの方針に関してなんですが、勅令された場所を目指すのが良いかなって思うんですが、皆さんどうですか?」
衆人環視がキツい。美女であるゴールドたんに背中から抱き付かれてるのは物凄く素敵な時間なのですが、皆の目が蔑んでるように見えるので凄く、凄く発言し辛い。
でもリーダーやらされてるから司会進行いないと進まない。なんという、ジレンマ。
「次の場所、なぁ」
「結構近くではあるな」
「前回は闘いにならなかったけど、今回は確実に国相手の闘いよね?」
ぎろり、美樹香たんがシルバーを睨みつける。
「はい、ほぼ確実にそうなりますね。ですので潜入任務が主な方法となるでしょう」
「つまり、魔族領に活動範囲広げたもの好きな冒険者を装えばいいのだな?」
「はい。そして懐深く入り込んだところで一気に魔王を討つ。その後は速やかに人族領に離脱が望ましいですね」
無茶を言う。
なのに皆その無茶が出来る前提で話を始めてしまう。
いや、国家に追われるって相当よ?
身分バレたら捕まって処刑もあり得るわけだし。
第一魔王ってば国王よ? おいそれと会える立場じゃないし。どーやって暗殺しろと?
「場所はここより北西。目指す魔王の名はサカナス・キスギー。魚人の魔王です」
魚好き過ぎな魔王様か?
なるほど、確かに漁港のある港町を城下街に持った海に面した王国らしい。
この国を僕らで落とせと? 少数精鋭にしても無茶過ぎません?
リードしてくれる冒険者もいないんでしょ?
下手すりゃここで全滅もあり得るんですが?
その辺り、どう考えてるんです?
「ん、そこは、頑張れ」
根性論だった!?
つまり、自分たちで何とかしろと!?
「アンタ達は戦力に数えていいの?」
「いえ、あくまで監視員ですので、戦力を期待されても困りますね。ただの情報連絡要員ですので、監視や潜入に特化している分戦力はありません」
つまり、彼女たちは暗殺関連に能力値を振り切って見付かったら終わり、といったタイプの連絡員らしい。
戦力として数えるのは無理。でも斥候役とかならやってくれるらしい。
うーん、それはそれで助かるんだけど、これから常に報告に向かうってことで必ず一人は居ない状態になるんだとか。
しかも二人とも、僕と光来をターゲットに決めたようで籠絡を始めている。
ゴールドたん、無口なんだけど意外と積極的でたじたじである。
このままだと間違いを起こしてしまいそう、そうなったら完全な美人局だ。僕の人生が終わっちゃう。自制、自制しなきゃ。抗わなければ、童貞 オア ダイの二択にされかねない。




