百十三話・その監視員の誘惑を、彼女は知らない
SIDE:灼上信夫
話を聞くと、どうやらシルバーとゴールドのお二人は、僕らと行動を共にして、グーレイさん達のチームとのやりとりをグネイアス帝国に報告するために来ているらしい。
基本どちらか一人が報告を行い、もう一人が僕らを監視、これを交替で繰り返して行くらしい。
金髪ショートボブで片目を黒のアイマスクで隠しているスレンダーな方がゴールドたん。
バイオレットロングな髪の頼れるお姉さんタイプがシルバーたん。
二人ともなぜか僕の腕に体を寄せて誘惑するようにしながら説明してくれていた。
うぅ、なぜか美樹香たんの酒に酔って座ってしまった目が僕を蔑んでいるように見える。
違うんです。別に二人に対してどうこう思う所は無いんです。
ただ、ナイスバディな二人の女性に身を寄せられて耐えきれる男性ではないだけなのです。
「それでですね、私達の同行許可、貴方から全員に伝えてほしいんですよ」
ふぅっと耳元で語りかけて来るシルバーたん。
ヤバい、これはヤバい。色仕掛けされている。このままほいほいラブホに着いて行ったら美人局からの罰金200万コースが待ってるくらいヤバいのに従ってしまいそうな気分になっている自分がいる。
落ち付け、落ち着くんだ僕。今までの嫁達を思い出せ。二次元世界の嫁達に申し訳ないと思わないのか!
左右からの耳フーッ。
ふ、はぁぁぁんっ。も、ももも、萌えぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!!?
身をネジ切りそうなほどのこの感覚、抗え、ないっ!?
「が、頑張って説得してみます」
うぐ、えぐっ、勝てないよう。
美女の美人局攻撃には勝てないよぅ。
「バーカ」
ち、違うんだ美樹香た……寝ている、だとぅ!?
「えーっと、これ、どうなって?」
「お二人はとうに酔い潰れてましたよ?」
「ん。激弱」
確かにお酒に弱いけど、というか洋酒ケーキで酔っぱらうってどうなの?
ケーキすらも二十歳にならないと食べちゃダメなのか!?
ま、まぁこの二人が特別弱かったってことで、でも他の人とはお酒飲まないように後で伝えとこう。男の前で酔い潰れるとか貞操感麻痺し過ぎでしょうよ!?
「それだけ、貴方に対して安心してるんじゃないですかね?」
「いや、どう見てもただただお酒に弱いだけでしょ」
「それより、そろそろ真面目な話、いいかしら?」
おおぅ、ようやく離れてくださいましたか。
「真面目な話?」
「はい、いくつかあるのですが、まずこちらのチームの現状について教えてください。なぜ、これほど人数が減ってるのでしょう?」
「あー、その辺りの話か。一応全員から話を聞いておいてください。僕からは客観的な意見として話させて貰います」
「了解」
それから、二人に現状に至るまでの僕らの現状を告げておく。
この辺りはシーパたんやレオン氏も知ってるので包み隠さず説明しておく。
「なるほど、では現状、安定しており、これ以上の損失はないと?」
「冒険してるから絶対の保証はないけどね。とりあえずは安定出来てる」
「ふむ、では英雄の中で行方不明になっているのは月締さんと斬星さんですね。他のメンバーは現状が分かっている、と」
「小玉氏と檸檬たんはグーレイ氏に合流するとは言ったけど本当に合流出来てるかは不明だよ?」
「ええ。わかっております。その辺りは向こうのチームからの報告次第になるでしょう」
向こうってことはグーレイ氏の所にもこの二人みたいなのが行ってるってことか。
「それ、グーレイ氏と連絡を取り合うこともできるのかな?」
「現状報告位はできるかと、ただ、向こうが冒険者ギルドに貴方方宛てのメッセージを残しているようなので私達が報告するよりはギルドで確認した方が確実ですよ、あそこ、時間を置かずに各店舗の情報共有が出来る装置があるみたいですから」
「え? そんなのあんの!?」
電話とかか? いや、むしろネットの感覚に近いのか。
それってどんなスキル? いや、魔道具か?
「私達はそういう噂を聞いてるだけです。さすがに秘匿技術の情報までは把握できませんよ」
「ん、無理」
そっか、残念。でも、別の国のギルドに同時に居る事が出来れば英雄同士で連絡を取ることもできるのかな?
そうだな、この二人を宿に送ったら……今日は疲れるだろうし、明日にでもギルドに聞きに行ってみるか。
ギルド長、話聞いてくれないかな?
「それから、陛下より次の指令があるわ。次の貴方達の目標よ」
「……え?」
「魔王討伐勅令。この書は王命である。心して読みなさい」
ちょ、まっ!? え? なんで僕が帝王からの勅令受けなきゃいけないのぉ――――!?
胸元から取り出された勅令が手渡される。
全身汗が噴き出て両手が震える。
ああ、こんなことなら、僕も洋酒ケーキで酔っぱらって寝たか……った――――
 




