百十二話・その要注意人物をどうしたらいいかを、彼らは知らない
SIDE:灼上信夫
僕は今、かつてないほどのモテ期に入ったような気分である。
といっても彼女が出来た訳じゃない。
ただ、女の子と一緒に過ごすことが多くなった。
本日もカフェなんて高尚な場所で、美樹香たんとシシリリアたんの二人と共に食事を行っている。
野郎共は皆居ない。というよりは最近もっぱらこの二人の愚痴聞き係に任命されている気がする。
「聞いてますー灼上さん」
「はいはい、聞いてるよ」
「矢田ですよ矢田ー。あいつ魔王領行ってから妙に大人しくなったじゃないですか。なんなんですかアレーっ、絶対何かやらかす気でしょっ、信用できないっ」
誰だよシシリリアさんにアルコール飲ませたの。
ザッハトルテと洋酒ケーキを頼んだせいだろどうみても。アレ食べてから妙に絡んでくるようになったんだ。
「全く、この程度で酒に酔うとかシシリリアはだらしないわね」
とか言いつつあんたも顔赤くないか?
「ちょっと信夫、あんたさー、痩せるつったのにぜんぜん痩せないじゃない」
いや、それはなかなか難しいんだって。この世界だと特に、運動するにも魔法が自動で掛かるし、フィールド走ろうとしたら魔物と遭遇して戦闘始まるし。
むしろ痩せ方教えてください。
「脂肪削ぎ落せばいいですよー、私がやりましょうか? お腹を削いで回復して削いで回復してー。あはははは」
シシリリアたん、目が座って来てない?
ちょっと言動も怪しくなってるし。
「脂肪吸引したらいいのよ。手術でごっそり消しましょ。そうしましょ!」
こっちの世界でソレないからね。
筋トレ頑張るしかないかなぁ?
ニート生活の負の遺産がここにきて返済不能状態になりつつある。
僕としてもデブった体はなんとかしたいんだけど、脂肪って一番燃焼しにくいんだよね。
何かいい方法ないかなぁ?
「おらー、しぼぉーそぎおとすぞーぬげー」
「あははははは、ぬーげ、ぬーげ、ぬーげ」
なんでそうなったし!? 美樹香たんが珍しくケタケタ笑いながら裸になることを強要してくる。
うん、二人とも完全に酔ってるな。
「失礼、英雄様とお見かけしますが、少し話よろしいですか?」
不意に、丁寧な言葉を投げかけて来る女性が一人。
「なんらーおー。おデブさんなんぱぁ? いやーん」
「信夫はぁー、あたしのー、げぼくだからーあげませーん」
いつ下僕になったんだろうか?
というか、話しかけて来た女性に対してなぜ君たちが反応しちゃうんだ?
「あ、失礼しました、私、グネイアス帝国から派遣されたシルバ-です」
「はぁ……?」
「本日より監視と情報共有を兼ねまして、英雄の皆様と行動を共にするよう申し受けました。こちらにいるのがゴールド。あまり言葉を話すことはしませんが、影に日向に皆様をフォロー致します」
「ん」
二人の女性でしたか。
もう一人が後ろに隠れていたせいで見えてなかった、いや、むしろ見えないように隠れてたのかな?
二人とも要注意危険人物だなぁ。
グネイアス帝国からの監視員らしいし。
「監視員ん? だったらぁ、矢田を監視しなさいよぉ、あの危険人物絶対何かやらかすからぁ、ヒック」
「二人で誘惑しても駄目だからぁ、信夫は私の奴隷だからぁ」
美樹香たんはちょっと待て。いつの間に僕は君の奴隷になったんだ?
あ、でも待って。女子高生に足蹴にされるデブニート。あ、想像したらそれはそれで……も、萌えェ――――っ!?
って、危ない、危うくイケナイ扉を開く所だった。
女性は危険、尽くしたらそこでバッドエンドだ。お尻のお毛々まで全部引き抜かれて素寒貧にされちゃう。イエス美少女ノータッチ。
「詳しい話を致しますのでお隣失礼いたします」
「ん、こっち貰った」
ぬおぁ!? いつの間に僕の隣に座ったのゴールドたん!?
しかもなぜ僕にしなだれかかる!? やめて、童貞さんには刺激が強すぎちゃうっ!?
対面に座っていたシシリリアたんは机に突っ伏し寝始めている。
美樹香たんは目を座らせてゴールドたんを睨み、むむむむむ? と唸っている。
多分視界では複数に別れた僕とゴールドたんがメリーゴーランドみたいに回ってる。
んで、さらに僕の逆サイドに座ってくるシルバーのお姉さん。
は、はわわわ、美少女が、美少女が四人に増えた!?
何コレ、本当にモテ期来ちゃった!?
「あ、あああ。あの、なんで僕? 他にもいたでしょ、リックマンさんとか」
「はい、事前情報で英雄のリーダー格と目されていましたリックマンさんには既に報告済みです。ただ、このチームのリーダーは今、貴方様だとお聞きしましたので。貴方と情報をやり取りするのが一番だとこちらに伺いました」
ひぁぁ!? やめて、腕に抱き付かないで!?
意識しちゃう、なんかいろんな意味で意識しちゃうからぁ。
イエス美少女、ノ―美人局っ!?




