百五話・その魔物の倒し方を、彼らは知らなかった
「ど、どうしろっつーんだよ!?」
出現したのは山のように巨大な黄金のくずもち。じゃなかったゴールデンスライムクラッター。
クラッターは多分集合体とか混合物とかのことだろう。
つまりあれはゴールデンスライムが無数に融合したせいで巨大化したスライムってことらしい。
今いる面子でアレを倒せるのって誰だろう?
そもそもあんなの倒せる奴いんの?
ね、リエラ? あれ、倒せそう?
『ちょっと、無理かなぁ。弾指那由他斬使ってもさすがに巨大過ぎる、かなぁ? アレを単騎で倒せるとすると……エンリカさん、プリカさん、アカネさん、パルティ、マターラ、デヌさん、ルグスさんも、かなぁ?』
あれ? おかしいな、普通に何人も倒せそうな奴がいるや。
ってかリエラ、エンリカも?
『エンリカさんですよ?』
素で返って来た疑惑すらない清い瞳に、僕は何も言えなくなった。
確かに、エンリカなら素手で仕留めそうな気がしなくもない。
というか基本どんな物体でも殴れば死ぬ。というスキルが彼女に掛かっててもおかしくない程の理不尽だ。私が殴る、お前は死ぬ。くらいの理不尽さがありそうだ。
生物だろうが死霊だろうが不死者だろうがなんかよくわからない物体だろうが、大抵殴ればエンリカなら仕留める、そんな謎の確信がある。
彼女は一体、何処へ向っているんだろうね?
「はむっ。ああもう、口が小さすぎるッ」
「むしろ人の限界以上に口を広げないでくれっ」
うーん、杙家さん頑張ってるんだけど、どうにもプリカたちの劣化バージョンにみえちゃうんだよなぁ。
『良くも悪くも人外的な存在でしたからね』
まったくだ。
でも、この世界ではその面子も……待てよ。アレに対抗できる人物、いるじゃん!
『え? いますっけ?』
グーレイさん、ピピロさん、ピピロさんが山みたいな盾持ってたでしょ。アレでシールドバッシュ!
「そうか、ピピロさん、シールドバッシュだ!」
「ふぇ!? ぼ、僕ですか!? でもシールドバッシュ程度じゃ……あ、そうか、あの盾! アズセ式オールレンジリフレクタ―ですね!」
うわっあの長い名前覚えたの!?
「や、やってみます!」
アイテムボックスから山のように巨大な盾を取り出すピピロさん。
やっぱでっかい。しかも高さ的にはゴールデンスライムクラッターと同じくらいだし。
「シールドバッシュッ!!」
うっわ、すご。
まさに重量級同士の激突だ。
ぶるんぶるんと波打つように全身を震わせるゴールデンスライムクラッター。
「き、効いてない!?」
「いや、効いてる。ピピロさん、続けてくれ!」
「は、はいっ! シールドバッシュ!」
「なんなの……これが、英雄……?」
ピピロさんが巨大な盾を構えて突撃。ゴールデンスライムクラッターに接敵した瞬間シールドバッシュを繰り返す。
その山のような巨大な盾を小さな少女が振り回す姿に、思わずブロンズちゃんが感嘆する。
「シールドバッシュッ!!」
何度目かのシールドバッシュ。
ついにゴールデンスライムクラッターが嫌がるように身をよじり、ゆっくりとピピロさんから遠ざかる。
しかし、歩みが余りにも遅い。
ピピロさんは彼が逃げるより早く盾を押し当てシールドバッシュ。
「すっげ、たった一人で闘ってやがる……」
「いけるにゃーっ! あいてはびびってるにゃー!!」
「すっげ、ピピロさんすっげ。ボーイッシュで内気な少女ってだけじゃなかったのかよ! くそ、アタックしときゃよかった」
ジャスティン君はぶれないなぁ。
「いける。僕でも、やれるっ! 皆の役に、立てる! だから……シールドバッシュ、シールドバッシュッ! シールド、バァァッシュッ!!」
渾身のシールドバッシュ三連撃。
殴り付けるような盾の連撃に、ついにゴールデンスライムクラッターが断末魔を放つように震え、空気が抜けるようにしぼんで行く。
「おっと、経験値が入ったぞ」
グーレイさんが自身の経験値を確認して告げる。
つまり、ゴールデンスライムクラッター討伐、成功ッ!
MVPはピピロさんだね!
「た、倒し、た?」
「おぅ、お前さんが倒したんだ。胸張りな嬢ちゃん」
ばしっとピピロさんの背中を叩くガーランドさん。
うっわ、すっごい音した。痛いぞ今のは。
「ピピロさん、やるじゃん」
「ふぇ……く、杙家、さん?」
「正直、俺らの誰も、アレを倒せるとは思ってなかったんだ。大金星だよピピロさん、役立たずなんかじゃないって」
多分だけど矢田とかに言われたんだろうなぁ。
ピピロさんも小玉君と杙家さんの言葉に嬉しさで涙をにじませ頷いていた。
『なんか、いいなぁ』
リエラ? もしかして、パーティーが懐かしい?
『え? あ、いえ、その……ピピロさんの事、よくやった、凄かったって、私も言いたいんです。でも、彼女には聞こえなくて、仲間みたいな顔で見えてない私が告げるのもなんか違うかなって……あの、なんですかね、この感覚……御免なさい。バグさんは、その……ずっと、こんな気持ちを感じてたんだなって思うと、その……』
ああ、そっか。リエラも感じてしまったか。
皆が笑顔で良くやった。頑張った、そうやって喜び合ってるのに、外側から眺めているしか出来ない疎外感。
自分も当事者として輪に加わっていたいと思いつつも、誰にも見えない自分はどれだけいっても傍観者。蚊帳の外の存在なんだって自分で認識してしまう寂寥感。
ごめんねリエラ。その感情は、多分自分で乗り越えなきゃいけないものだと思うから。僕からは何も言えないんだ。




