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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1531/1818

八十三話・その絶望的光景を、彼らは知らない

「フェッフェッフェ」


 光が乱反射する。

 右に左に上下に前後に、人の波間を引き裂いて。あるいは人を弾きて強引に。

 中央突破、吶喊、特攻、大蹂躙。

 Gババァ無双が止まらない。


 爪で切り裂き蹴りで吹き飛ばし、アイアンクローで叩きつけ。

 ヘッドバットで昏倒させて、ヒップアタックで押しつぶす。

 たまにばふりとおならを残し、涎垂らしてイケメンぶっちゅう。


 もはや信者たちは死屍累々。

 グーレイさん達はもう脱出してしまっているが、呼び出した以上Gババァの安全もと僕だけ残ったのだ。

 まさかここまで酷い蹂躙劇を見ることになろうとは思わなかったけど。


 ―― 雪がふーる、雪がふーる。あなたのもーとーにー ――


 なんか聞いたような聞いたことないような。っていうか駄女神ども、なんで僕にだけ歌って聞かせてるの!?


 ―― ババァがふーる、ババァがふーる、あなたのもーとーにー ――


 嫌な歌だな。そんなもん降ってくんな。


 ―― 冬のひとときー、一瞬ーだけのはかなきいーのーちー ――


 両手に信者を掴んでダブルラリアット。さらにその場で回転しながら信者を射出。

 男達の悲鳴と怒号が響き渡る。


 ―― ばばぁーのいのちーは短ぁーいーのー ――


 あれ、どう見ても短い命じゃないよね?


 ―― 舞い散るー、ようにー、踊りー舞いてー ――


 確かにまぁ踊るような動きで人々狩っていってるね。


 ―― 冬のー世界をーあなたーとすーごーすー ――

 ―― しゃるうぃーだーんすっ ――


 アルセまで歌いだした!? っていうか合いの手入れる係か!?


 ―― 光のーようにー一っ瞬をー ――


 まさに光の如く、っていうかもう光になってGババァが輝いている。


 ―― あなたのーためにー一生をー ――


 あ、マジっすか!?


 ―― さーぁ。冬のーババァーとー口ー付けをー ――


 最高司祭の前にやってきたGババァ、彼の顔面を両手でばしっと叩き固定し、まさに乙女のような顔で近づいて行く。


「なっ!? き、貴様、止めろ!? やめ……いやあぁぁぁぁ―――――っ!!?」


 なんか乙女っぽい悲鳴になったなあのおっさん。

 僕は背を向けて眼を閉じる。

 乙女の恥じらいだ。見つめる訳にはいかないさ。


 ―― うっわ。吸ってる吸ってる ――


 何を!?

 ひぃぃ、なんか凄い恐ろしい音が!?

 最後、タコの吸盤が離れるような音が鳴ったぞ!?

 っていうか、もう一回!?

 だめだ、ここにいたら危険な気がする。

 おもに精神的にSAN値チェック入りそうな気がします。

 よし、僕も脱出だ。


「さ、最高司祭様ァっ!?」


「ひ、ひぃぃ、寄るな!? 寄るなぁ!?」


「い、嫌だ。俺はまだファーストキスは終えてないんだ!? ババァは嫌だぁ!!」


「ひぃ、待って、私女、私はおん……」


 背後で阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられている。

 僕はそれを見ることの無いように、足早に教会から立ち去るのだった。


 アルセからの天の声でグーレイさん達の待つ町の郊外へとやってくる。

 グーレイさんたちもうこんな場所に来てたのか。


「遅いよバグ君。尾道さんより遅いってどうなんだい?」


 尾道さんやっぱはぐれたのか。


『あの、Gババァさんいましたよね? どうなりました?』


 ああ、うん。ババァは光になったよ。


「いつものことだよね?」


『えーっと、光って死んじゃったり?』


 すると思うかい、リエラ。いやー、最高司祭さんとでぃーぷなきっすしてらっしゃったから遠慮してお暇して来たんだ。


「あぁ……」


『なるほど……』


 状況を察した二人はげんなりした顔で皆の元へと戻る。


「おぅ、グーレイ、まだ待つのか?」


「いや、さすがにそろそろ町を離れた方が良さそうだ。Gババァもその内こちらに来るだろう。なにより彼女、空飛べるから」


「はは、そりゃ凄ぇ」


「遠めに見ただけだけど、俺、正直あんな恐ろしい生物がこの世にいるとは思わなかったよ、一体どんな存在なんだ?」


 ジャスティン君にとってはまさに真逆の存在だよね。気をつけなよ? アレ、イケメン相手には容赦なく吸いついて来るから。

 ジャスティンは言いしれぬ恐怖を抱きぶるりと身を震わせた。


「それで、どうするにゃ? さすがにここに戻るのは自殺行為な気がするにゃー」


「いや、今のところ私達が関与しているかは彼らは知らない筈だ」


 まぁ、アーデは唐突に出現しただけだし、僕らとの関係性は疑われてないはずだ。

 僕らは気付いたら居なくなってた、程度の筈で、魔物と結びついてるとは思われていないと思う。


「そうか、んじゃぁあの婆さんが合流して来て俺らと一緒にいるのを見られる前に町から遠ざかっておこうか」


「それが妥当だね。すまないね、巻き込んで」


「気にすんな。俺らが好きで巻き込まれたんだ、自業自得って奴だ」


 ガーランドさんがグーレイさんの背中を叩いてがははと笑う。快活な人だよなぁ。ほんとリーダーとしては優良な部類のおっさんだよ。

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