八十二話・その鳴りやまぬウタを、僕は知りたくない
「ぬぅぅ、貴様、離せ、離せぇ!!」
アイアンクロー受けてる最高司祭さんが必死に手を伸ばす。
しかし、ババァの細く長い腕の先に彼の手が届くことはなかった。
しばし、彼を観察したババァは、思い切り振りあげた腕を勢いよく振り下ろす。
掴まれていた最高司祭は床に叩きつけられ床が爆散。頭から地面に埋まってしまった。
「ふぇっふぇっふぇ。あんたがアーデだねぇ」
しゃ、しゃべ、シャベッタァァァァ!?
え? Gババァってしゃべれたっけ!?
「おーっ!!」
「ああそうさ。父のデヌと母がお世話になったらしいからねぇ。アタシもパーティー組んでいい男探してこいって送りだされたのさね」
って、待って。待って! 情報がいきなり飽和したよ!?
え? デヌ? デヌってあの魔族のデヌさん?
アルセ姫護衛騎士団でGババァと結婚して寿退社した?
いや、会社じゃないから寿退団? どうでもいいや。そこはどうでもいいんだ。
アレが父ってことは母はGババァになるわけで……お、お子様? どう見ても老婆っていうかGババァ……それにまだ年齢的に1歳か2歳程度の筈……
そうか、Gババァは魔物だから生まれるのもGババァ。
そして知能と魔力を大量に持つデヌの子供であるがゆえに言葉を話すようになったハーフの魔物? いや魔族?
ンンン? 僕の思考回路が高速空転を始めましたゾ?
なんでそんな危険生物がこの世界に紛れ込んできたの?
あ、それは空間がバグって繋がったからか? いや繋がったからってタイミング良過ぎじゃない?
なんなのこの生物? 正直怖いって。
あれか? バグでアーデの嘆きの声が聞こえたから異世界まで飛んで来たってことか? ババァ怖ぇよ!?
―― ばばぁがくるぜ、ばばぁがやるぜ、ひっかりのはやさでやってくっぜー ――
あ、こら止めろ駄女神っ。なんでアンタ達が歌ってるの!? っていうかアルセ、やめて? 好きな歌だからって一緒になって歌わないで、駄女神になっちゃう!?
―― ばばぁばばぁばばばばばばぁ ――
ちくしょう、可愛い。歌声が可愛いよアルセ。でもその歌なのは勘弁で。
―― おまえのうしろにばばぁはいるぜ、おまえのまえにもばばぁがきたぜ ――
―― おまえのくちびるねらってくるぜ! ――
―― あー、ばばあ。ばばぁー、ばばぁー。 ――
幸いなのはアルセが同調してるのがサビの部分、ってこれサビ? ババァしか言ってないけども。
って、歌聞いてる間にババァが周囲の人類至上主義者相手に大立ち回り始めちゃったよ。
あいつ光の速さで縦横無尽に駆け回るからアーデを捕まえようとした奴も遠くにいる奴も纏めて吹き飛ばしてやがる。
「あ、あのお婆さん、凄い……」
「なんでGババァここにいんの……」
『バグさんナイスです! アーデ。もう、駄目じゃないこんなところで姿見せちゃ』
リエラがアーデの元に辿りつき、回収。
パッキー共々拾い上げると、近くにやってきたくねくねちゃんに手渡し隠蔽ローブで姿を隠させる。
『くねくねちゃんはアーデを連れて脱出お願い』
「よし、くねくねちゃんが届いたな。ピピロさん、尾道さん、小玉君、杙家さん、急いで逃げるぞ」
「え? は、はい」
「お、お先に行ってます」
尾道さんはなんか人の流れに流されて入口近くにいたので真っ先に脱出した。というか強制的に脱出させられていた。
それはいいんだけど、見失って僕らとはぐれたりしないでよ?
「ガーランドさん、貴方達も!」
「お、おう、なんかよくわからんが逃げた方が良さそうだ。行くぞ皆」
ガーランドさん達も人波に隠れるようにして脱出する。
「がはっ、ええい何をしている!! 魔物が逃げたぞ!! 捕らえて殺せェ!!」
おお、最高司祭生きてた。
信者たちに引っこ抜かれた彼は血だらけで叫ぶ。
そして光と化したババァを睨む。
「おのれ不心得者めがァ!! 魔物を守るとは亜人の風上にも置けぬ愚か者め!!」
「ふぇっふぇっふぇ」
―― 次何歌う? ――
―― えーっと、アルセちゃんどんな歌あるの? うわ、結構あるね ――
―― 1.ようこそBABA-BA洞窟へ 2.ばばぁが来るぜ 3.ばばぁは走るよどこへでも 4.ばばぁ哀歌 5.ばばぁとじじぃのセレナーデ 6.水曜日のばばぁ 7.ばばぁ恋愛白書 8.すべては孫の笑みのため 9.ばばぁ賛歌 10.ばばぁの乳にうずもれたなら 11.ばーばーばばぁ 12.ばばぁ缶詰作成中 13.ばばぁライフ 14.じじぃを取り戻せ 15.月明かりの下のばばぁ 16.ばばぁが居た夏 17.ばばぁは死なず 18.冬のばばぁと口付けを 19.ばばぁの約束 20.The Endless BBAの20曲だよ。あ、それとこれ、Gババァに貰ったのセカンドアルバムだって ――
新作出たの!?
そういえばアルセってババァ洞窟で歌詞貰ってたなぁ。正直いらないと思ったけど、あの歌、覚えたのかぁ……




