表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1525/1818

七十七話・その男だけの話し合いを、彼女らは知らない

 男子用の部屋に戻ると、小玉君とグーレイさんが顔付き合わせて唸っていた。

 尾道さんは……いつも通りいるのかいないのか分からないほど希薄な存在感だなぁ。


「さて、とりあえず地図とにらめっこしててもどうにもならないからね。そろそろ話を始めようか」


 あ、もしかして僕が来るまで待っててくれたのかなグーレイさん。


「一応、俺が把握してる感じだと、ここがナイデリア。んでその北側に旧魔王領ってのがあるんだ。そんでその近くの魔王領が英雄達で目指してた場所だった」


 ちなみにこの地図は道具屋に売ってた奴である。

 結構てきとーな全体図なんだけど、場所を大まかに把握するのには丁度良いし、必要なら書き込めばいい。この世界の人たちはそんな感じで白地図から自分だけの世界地図を作って行くのである。

 今回買った地図も、帝国領だけは細かく書かれてるけど他は全く書かれてない。

 件の人類至上主義国家って奴も帝国領から外れてるってことで書かれてなかったりしたのでグーレイさんが書き込んである。


「なるほどね、この辺りに無政府状態の国があって、こっちとこっちとここが魔王領っと」


「何処に行くかは聞いてなかったんだけど、大丈夫かな?」


「私達まで行く理由はないからね。そもそも同じ方向に向かっていた事も今知ったばかりだよ」


「そ、そうだったのか?」


「明日もAランクの冒険者パーティーとナイデリアに向かうつもりだったんだ。君たちはどうする?」


「もともとグーレイさんに合流するつもりだったからさ、一緒に行っても良いかな? 斬星の奴も心配だし。それに、唯一の懸念材料だった尾道さんの安全も確認できたしね」


「私、ですか?」


「ええ。俺らと別れた時、尾道さん荷物も何も持ってなかったんですよね?」


「ああ、あの時は、そうですね」


「数日前、その事実を冒険者ギルドで知ったんです。言い訳はしないですが、無一文で追い出してしまい、すいませんでしたっ」


「え? あ、うん?」


 尾道さんは全くよく分かってないようだ。


「尾道さん、君が英雄たちのパーティーから追い出された時があっただろう?」


「え? ええ」


「その時にお金を貸すこともせずに追い出したことを悔いているようだよ」


「ああ、そういうことですか」


 納得した尾道さんは、しかし少し困惑しながら告げる。


「あの時点では矢田君から追い出すと宣言されたあとだったからね。結果は分かっていましたよ。私としても泣き付いてみたのは打算ですし、どうせ貰えるとも思っていませんでしたから」


 尾道さんは絶望しすぎじゃないかな?

 姿は見えるんだしそこまでバグ化した僕みたいにならなくていいんだよ?

 僕はアルセたちがいてくれたから問題はなかったけど、多分誰にも気づかれなかったら尾道さんみたいになってたんだろうなぁ。


 それでも……自殺せずに生きていられる彼は、とても強い人なのではないだろうか?

 だって僕は一度……追い詰められて、誰にも必要とされてない気がして、自分の人生を諦めたことがあるから。だから、彼の性格をあざ笑うなんて出来はしない。

 かわりに、どうにか幸せになってほしい、ってそう思うんだ。バグらせちゃったけど。


「とりあえず、ナイデリアに向かった後はまだ決めてないんだ。どこか行きたいところがあれば遠慮なく言ってくれ」


「そうは言われてもなぁ。俺ら英雄として魔王退治する以外やることってないじゃん?」


「料理は?」


「そりゃやれるならやるけど目的にゃなんねーし、そもそも毎日作ってるだろ。店開くっても定住する気はねぇしさっさと帰りたいんだ」


「それもそうか。ふむ、ではやはり、我々が目指すのは封印の魔王に付いて調べて行くほうがよさそうだね。急がずのんびりと行こう」


「そうっすね。ぎすぎすしたのは俺、性に合わねぇっすわ。ああでも……」


「どうした?」


「いや、その、灼上さんにはちょっと悪い事したな、と」


 ああ、あのオタクのお兄さん?


「何したんだい?」


「いえ、抜けたそうにしてたんですけど、俺と檸檬が抜けるじゃないですか、朝臣さんやシシリリアさんの貞操が不安だったんで彼に居残ってくれって、頼んじゃいまして……出来れば、彼らを迎えに行く事ってできませんかね?」


「ふむ?」


「さすがにここまでパーティー瓦解してるなら朝臣さんもシシリリアさんもこっちに来るんじゃないかって思うんです。他のおっさんたちはまぁ、自分たちでどうにかできそうですけど、やっぱりか弱い女の子、野郎共と一緒の場所居させるのはどうかなって思って……」


「ああ、なるほど」


 いや、納得するのは良いんだけどグーレイさん。ここが日本じゃ無くてよかったね。もしも日本だったら今の会話SNS上げるだけで女性蔑視とか差別とか言われちゃう奴だよ。

 まぁ、本人は女性に対して守らなきゃって思いのせいだろうけど、それすらも男性の思い上がりって言われたら終わりだしねぇ。


 ―― でも私はレディーファーストされたいですっ ――


 はいはい、お先にどうぞ駄女神さん。


 ―― お先にって何処行けってのよーっ!? ――


 知らないよ。勝手に脳内に語りかけてこないでよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ