七十二話・その二人が居る理由を、彼らは知らない
「あ、グーレイさんじゃん! ここ来たんだ!」
「おー、マジかよ、ここに留まっといてよかった。来たとこ戻ってたら行き違いになるとこだったぜ」
おわー、知り合いがいるって言うから誰かと思えば、食の英雄と料理の英雄じゃん。
「久しぶりだね小玉君と杙家さん。一応聞くけどなんでこんなとこに?」
「英雄パーティー抜けたんだ俺ら。理由はまぁ、察してくれ」
「グーレイさん達のパーティーに入れて貰おうと来た道戻ろうとしたんだけどさ、街の人に聞いたらこっちの街経由した方が安全だって言ってたから。ついでにちょっと路銀稼ごうかなって屋台開いてるの」
大盛況だね。僕らと話しながら手を止めてないし。杙家さんは相手見ないでお釣り渡すの止めなさい。間違えても知らないよ。
「おー」
「おっと、アーデ、これほしいのかい?」
「あはは、悪いけどグーレイさん。さすがにこの人数を抜かして優先させる訳にはいかないよ」
「そ、そうかぁ、これはちょっと、キツいな……」
「まぁ、今回は諦めてさ、夕方に合流した後陸斗に作って貰えばいいんだよ」
「なるほど。アーデ、今は諦めよう」
「うー」
うわ、アーデって「おー」以外喋れたんだっけ!? 滅多に喋らないから驚いた。
「あはは、アーデちゃんに唸られてるにゃー。やーいグーレイ」
「いや、やーいグーレイって。まぁいいけども」
「とりあえず冒険者ギルドに行こうぜグーレイ」
「ああ、そうだね。小玉君、宿は決まってるかい?」
「いや、路銀溜まってからって思ったんだけど……」
「ではこちらで纏めて取っておくよ。冒険者ギルドで夕方に合流、でいいかな?」
「了解、この人数だしちょっと遅れるかもですけど」
「ああ、そこはゆっくり終わらせてきたまえ、日が落ちるようなら迎えに来るよ」
「そういって貰えると助かります」
一旦小玉君たちと別れて僕らは冒険者ギルドへと向かう。
彼らがあのパーティーに切られるとは考えにくい。何しろライフラインである野営中の料理番なのだから。
つまり、彼らがパーティーを抜けたってことは自分たちから率先して抜けて来たってことだ。
何があったのか、ちょっと不安になってくるなぁ。血で血を洗う殺人事件とか起きてないといいけど。
冒険者ギルドでは配達依頼などの達成を報告し、ついでにくねくねちゃんの手配も解いて貰う。
テイムしたんだってグーレイさんが言ったら一発だった。
というかステータス覗き見る魔道具でギルド長さんがくねくねちゃん見て解除に踏み切ったと言った方が正しいのか。
冒険者ギルドを後にしたら、次は宿屋の捜索だ。
でも、これはAランク冒険者であるガーランドさんたちがこの町の宿を知ってたらしいので紹介して貰うことにした。
一応男女で二部屋。四人部屋取ったらしいよ。
ガーランドさん達は一部屋しか取ってなかったけど、パーティーで寝るの? 女性陣大丈夫?
いつもこんなだから大丈夫にゃー。ってことらしい。
ジャスティンも結構な色男らしいけど、パーティーメンバーに手を出さないのが信条なのだそうだ。
というか、昔手をだしたパーティーが崩壊したらしく嫉妬した女性に刺されかけたり、寝取られた男に闇討ちされたりで散々だったからもうしない。とか真顔で言ってた。
うん、アホじゃないかな? 刺されてればいいのに。
―― リア充はバグもろとも爆発だーっ ――
ええ、僕もっ!?
―― だって既に妻沢山いるんでしょ? ――
あれは強制的に増えてるだけです。僕の知らない間に妻候補が大量生産されてたんだよっ。
―― ぎるてぃ? ――
―― ギルティでしょう ――
―― 話しかけないで、妊娠しそう ――
うぉいっ、駄女神一号、二号。ほんっとにいい加減にしないとバグらせるぞーっ。
「時間余ったな。どこかで時間潰そうか」
「折角だし防具でも見ませんか? その、一般的な盾を買いたいというか……」
そういえば結局棺の盾だけだっけ。
「そうだな。防具屋に寄ってみるか」
「俺らは酒場行くぞ? 後で来るか?」
「いや、未成年も居るし今回は遠慮しておこう。小玉君が作ってくれるらしいしな」
「おう、じゃー、また明日なー」
ガーランドさんたちと別れる。
そうかぁ、彼らは別パーティーだから一緒に行動する必要はないんだった。
「さて、と、尾道さん、どこか行きたい所はありますか?」
「え? いえ……」
尾道さんもうちょっと顔あげようよ。いっつも下向いてるから皆を見失うんだよ。
僕とリエラで何回迷子になるの阻止したことか。
気付いた時には魔物の前に自分から歩いて向ってた、なんてこともあったし。
この人ホント自分から不幸な方へ歩いて行くよね。
そのタイミングでそれ? みたいな感じで。
あ、ほら、危なそうなおじさんにぶつかっ……避けた!? そうだった。今の尾道さんは幽霊の歩法会得済みだった。でもおじさん凄い驚いてるからやっぱり前見とこうか。




