七十話・その魔物が見ている先を、僕は知りたくなかった
「え? アレ味方になったの?」
僕のツッコミを聞いたグーレイさんが思わず告げる。
皆が「え?」と驚きグーレイさんの視線の先を見る。
くねくねちゃんがくねくねしてた。
アーデを抱えてたかいたかーいとかやってるみたいにくるくる回りだす。
きゃっきゃと楽しそうなアーデ。
危険は全くなさそうだ。
確かに棒っぽいのがくねって人型作ってる彼女は胸も形作られてるみたいだから女性型だとおもうけど……意外とスタイルはいい、のか?
「お、おいおい、ありゃフィールドボスじゃないかって噂されてるくねくねちゃんじゃねーか?」
「確か討伐依頼もでてたよガーランド」
「え? 仲間になったの? あれって仲間になるような魔物なの?」
「ほんと、英雄サマのパーティーっていろいろおかしいにゃ」
酷いなぁ、おかしいのはグーレイさんの容姿だけだよ。
『あれ? そういえばあのパグっぽい生物は味方になってないんですね?』
ん? そういえば、さっきまで楽しく遊んでたのに仲間にはなってないのか。なんでだろ?
もしかしてアーデ、使える人材と使えない人材判断して仲間にしてる? ま、まさかねぇ。
そんな打算的な……あれ? 違うぞ。なんかこっちに指差してなんか会話してる?
意思疎通できてるのくねくねちゃん。
というか、あれ? こっち来る?
アーデと仲良く手を繋いだくねくねちゃんは僕らの元へとやってくると、警戒するAランク冒険者達に一礼。
意外と礼儀正しい。
んで、ガーランド、ジャスティン、グーレイさん、尾道さんと視線を向け、ふぅっと息を吐くようにして首を振るジェスチャー。
「あれ? おかしいな。俺、今振られた感覚味わったんだけど」
「気にすんなジャスティン、俺もだ」
んで、くねくねちゃんはなぜか僕の間横に来て楽しそうにくねくねし始める。
……あれ? これって、見えてる?
『あらら。バグさんまた嫁候補増えちゃいますか?』
え? 待って。リエラ待って。くねくねちゃん。女性体っぽい体してるけど構成物質は人体じゃなくて棒だから、一本の棒を複雑にくねらせて人体っぽい形に見せてるだけだから。
え? マジで? 僕に恋しちゃってるんですか!?
―― 念話でぇー、聞いてみたんだけどぉー。複雑に絡まってバグってるあなたのくねくね具合がス・テ・キなんだってぇー ――
神ぃぃぃぃっ!?
ソレバグだから! ただバグってるだけだから!
ちゃんと説明してぇ!!
―― やってみたけど無理だった。ごめんね? 諦めて娶ってあげて? ――
無理でしょぉぉぉっ!!?
ようやく理解した。アーデがこの魔物味方に引き入れたのは僕に惚れたと言われたからだ。
じゃあ仲間になるなら紹介するよーとか魔物達だけのやりとりで決まったらしい。
そりゃパグが仲間にされない訳だよ仲間にした理由が違うんだから。
パッキーは……知らん。というか、討伐対象らしいし、くねくねちゃんはバズの代わりかな?
「とりあえず、味方になったのなら問題はない、かな。先を急ごうか」
「お、おぅ。グーレイよ、なんっつーか、そのパーティー魔物の構成比多くねぇか?」
「はっはっは。気のせいだろ」
グーレイさんがすっトボケる。
改めて見てみるけど、魔物というよりは人外が多いんです。
しかも普通に増えてくし。これから仲間になって来る魔物が今から恐ろしくもあり楽しくもある。
アルセ姫護衛騎士団みたいに良い魔物ばっかりだといいなぁ。
「さぁ、そろそろ冒険を再開しようじゃないか」
「お、おう、そうだな。ニャークリア、敵性生物は?」
「そこのくねくね娘が味方になった途端近づいて来なくなったにゃ」
やっぱかなり強い部類なんだろうね。
そもそもこの近辺強力な魔物が少ないみたいだし、ピピロさん30レベルになったみたいだけど、アレはドラゴンゾンビの経験値だし、そう考えると、適性レベルは10前後かな。そこに30レベル以上のくねくねちゃんがいる、と。
そりゃボスになるわ。
「お、次の街着いたぞ。あれがアルデリアってぇ町だ。ちょっと遠回りになるかもだが、こっちの街を通過してく方が人類至上主義国家のナイデリアに行くのに楽なんだ。まぁ、別に魔物の群れ突っ込んで強行軍してぇってなら直接ナイデリアに行けるけどな」
「そこまで急ぐほどの旅じゃ無いからね。問題無いよ」
―― アルのかナイのかどっちなん、だいっ ――
あー、駄女神っ、それ僕が言いたかったのにっ。
多分あれだよ、常識がアルデリアとナイデリアなんだ。
人類以外の人権も主張してくれ人類至上主義。
街門でグーレイさんや魔物達に驚かれたものの、Aランク冒険者の存在は大きかった。
特にくねくねちゃんは冒険者たちにとっては賞金首の魔物である。
まさかと二度見して、普通に門の前に並んでる魔物に目をしばたたかせていた。
アーデと手を繋いで楽しそうにしているので敵意が無さ過ぎて警戒すべきか計りかねているようだ。




