六十五話・その英雄が考える事を、彼らは知らない
SIDE:灼上信夫
ずっと、冒険者ギルドから帰る道すがら、小玉氏は顎に手を当て真剣に何かを考えていた。
うーむ。なぁんか嫌な予感がするぞな。
折角決めた僕の考えが根底からひっくり返りそうな……
「灼上さん」
ふいに、小玉氏がこちらに語りかけてくる。
「なにかな?」
「尾道さんを切った時、彼、お金が欲しいみたいなこと言ってたよな?」
「あー、言ってたね。確か。でも皆、金は王様から貰ってると知ってたからそのまま置いて行ったんだよね」
「そう、その時、一文無しだった尾道さんは僕らにせめて数日過ごせるお金をと救いを求めたんだ。なのに、俺達はそれに気付かず切り捨てた……」
「仕方なかったんじゃないかな? そもそも尾道さんが無一文だってことわかってなかったんだし」
「そうだけど、そうだけどさ。あの矢田が無駄になるって言ったじゃん。俺も、そう思っちまったんだよ、思い返すと、俺、人を見殺しにしてたんじゃないかと……」
それはさすがに否定できないなぁ。
「けどさ、ほら、グーレイ氏がちゃんと拾い上げてるって報告されてただろ。結果論だけど見捨ててなかったんだよ。それに、グーレイ氏が別行動を取ってくれたから見捨てられた彼もピピロさんも助かった。違うかな?」
「そりゃあ、そうだけど……ああ、くそ、わかんねぇ、なんだよこの気持ち悪い感覚」
多分それは罪悪感だね。
僕はその辺りはドライに考えてるからそこまで罪悪感覚えてないけど、優しい心を持ってる小玉氏には堪えるのかもしれないね。
基本善人だけど、周りに流されて人を一人切り捨てた訳だし。
宿屋に付いた僕らは、部屋に戻る、と思ったんだけど、小玉氏は檸檬たんと少し話して来るそうで、僕が一人、斬星と月締君というなんとも絡みづらいメンバーと三人だけになってしまった。
よし、部屋に戻るのは止めよう、僕もちょっと外に……
「あら?」
部屋から出た瞬間だった。外に向かおうとしていた朝臣と出くわした。
「灼上さんでしたっけ、これから外出?」
「まぁ、部屋に居るのがちょっと辛くてね」
「え? なんでよ?」
「小玉氏が檸檬たんと話し合いに行ってしまったんで斬星と月締君との三人でね。斬星は自分の殻に閉じ籠ってるし、月締君はマイペースに槍磨いてるし」
「あぁ……なんとなく想像付くわ。ま、丁度いいか。もしよかったら荷物持ちしてくれない」
荷物持ちとな!?
「えぇ」
「そんな嫌そうにしないでよ。一生に一度あるかどうかだと思わない? 女の子と二人でデート出来るわよ」
確かに容姿は綺麗なのだけど、性格がちょっと合わないというか、やっぱり現実の女の子はちょっと遠慮したいなぁ。
でも、このまま外に出てもなにもやる事ないし、下手な場所行ってトラブルに巻き込まれたくもないし、時間潰しできるなら、とりあえず付いて行ってみるか。
「そうですな。とてもお綺麗なお嬢様のエスコートさせていただきましょうかね」
「あら、殊勝ね」
朝臣と連れだって外へ出る。
どうやら書店を見たいそうだ。ここでも参考書探して勉強がしたいんだと。暇潰しに魔道書でも読もうと思ったらしい。
つまり、沢山魔道書買うからそれを持て、と?
アイテムボックスに入れればいいんじゃないかな?
「それにしても、僕と一緒に外に出るとはどういう風の吹きまわしかな?」
「別に、一人でぶらつくと危ないでしょ。日本じゃないんだし」
そりゃまそうだけど、まぁ、僕が目の前に居たからってことか。
「書店は……あれかしら?」
「封印の魔王に付いて書かれた本あるかなぁ」
「……ん? 灼上さん、今、なんて?」
「え? 封印された魔王についての本ないかなって、何か問題でも?」
「いえ。その、今から魔王退治に行くでしょう。魔王って既に復活済みじゃ……」
そこまで告げて、はっと何かに気付いた朝臣が考え込む。
「ちょっといいかしら?」
「ひぃっ!? な、なんですかな?」
こわ、今女の子がしちゃいけない顔してたぞ。真下から覗き込むような視線は可愛いって聞くのに、なんで半眼で背筋がぞわぁっと来る表情ができるんだ!? 現実の人間怖っ。
「あなた、何を知ってるの? 私達が知らない魔王に関する事、気付いてるわね?」
「そ、それは。その……」
「白状なさいっ。この、おデブ、さっさと吐けェッ!!」
ぎゃあぁ!? 襟掴まないで、伸びちゃうっ。
体ががっくんがっくん揺すられるので吐きたくても吐けませんっ。というか、なんか気持ち悪く、うぷっ。
お願い、それ以上揺すらないで。マジピンチ。あ、無理……
「ほぉら、どう? そろそろ吐きたく……って、待って、そっちじゃないっ。そっちじゃないわよ!? ひぃぃ」
オロロロロロロロロロォ……――――




