六十一話・その英雄たちのいざこざを、彼らは知らない
SIDE:灼上信夫
フィールドでの戦闘は酷いものだった。
どうにか前回の失態を取り戻したい斬星が必死になるせいで、怪我が多くなり、皆のフォローが増える。
そして斬星は迂闊だと怒られなじられ、さらに必死に次こそはと戦場に向かっていく。
悪循環のオンパレード。もはや見ていて哀れに思えてくる。
彼自身も理解してるんだろう。このままだと次にパーティーから外されるのは自分だと。
だから必死になる。
だから余計にみじめになる。
結果を出したくて余計に自分の失態をさらけ出している。
涙をこぼし、ちくしょうちくしょうと叫びながらも必死に敵わぬ魔物に突撃して行く。
さすがのレオンとシーパも最初こそ苦笑いだったのだけど、今は虫を見るような眼になっている。
これは、さすがにちょっとマズいなぁ、キャラじゃないけど、止めに入るしかないか。リックマン氏もこのまま何もせずに見守るつもりらしいし、リーダー役やるとか言っときながらだいぶ放置主義だぞこのおっさん。
正直、リーダー不在だ。
むしろ放っておくとDQNな矢田がリーダーになりかねない。それはさすがに地獄絵図になりそうだから阻止しないとだな。
あー、嫌だなぁ。この面子、ホントリーダー向きな存在が皆無じゃないか。
朝臣さんが表舞台に立ってくれればいいのに、頭はいいかもだけど協調性皆無だしなぁ。
リーダー出来そうなのはグーレイさんくらいかな? あの人がいなくなったのは致命的だったかもしれない。
「おい、いい加減にしろやっ!!」
あ、しまった。
止めに行こうとしたんだけど、止めなかったせいで光来の方が先に動いてしまった。
次の魔物向けて駆けだそうとした斬星に足を引っ掛け転ばせると、立ち上がろうとした斬星の胸倉掴んで引き寄せる。
「あんた年上だからって何も言わないでおいたけどなぁ、限界だよッ、この役立たず野郎ッ」
あー、やってしまった。
これでまたパーティー内がギスギスしてしまう。
新たな火種も生まれるだろうし、光来の精神性も攻撃的になってしまうだろう。
矢田が二人に増えるようなモノだ。
「な、なんだよ、お、俺が勇者だから、嫉妬、か?」
強気で反論するが、既に斬星自身自分が勇者ではないと思っているんだろう。怯えが見える。
「俺が勇者だ。お前みたいな役立たずが勇者な訳が無いだろッ、消えろよ雑魚野郎!」
「お、俺は、俺は強いんだ。強くなるんだ……だからっ」
「うるせぇ! もう沢山なんだよ!! お前の身勝手な行動で皆迷惑してんのわかれよ!! テメェが一人突出するせいでチームワークも何もねぇーだろぉが!! お前気付いてたか! お前助けるために他の奴らまで怪我してたんだぞ! 何が勇者だよッ! 独りよがりの構って君はお呼びじゃねぇんだよッ!!」
言いたい事を告げて、光来は掴んでいた襟元を離す。
力尽きたようにその場にへたり込む斬星。
たった数日だけど、矢田共々三馬鹿トリオっぽい彼らが袂を分った瞬間だった。
「レオンさん、パーティー組み直しましょう。矢田さん。前衛お願いできますか?」
「お、おぅ。お前言うなぁ……」
や、矢田が引いてる!?
「あいつはもう切りましょう。さすがに一緒に居られても邪魔になるだけだし」
「まぁ、アレだけ一人でやらかしてたらなぁ……リックマンのおっさん、どうするよ?」
「……異論はない」
あー、リックマン氏ももはや信頼できそうにないなぁ。
あの人、頼りになるような素振り見せてたけど、なぁんか変なんだよなぁ。
なんとなく、徐々にだけどメッキがはがれているような気がしてくる。
そもそも、アメリカの軍部所属してたのならもうちょっとサバイバル知識あってもおかしくない気がするんだよなぁ。
ネットサーフィンで覚えた僕の知識の方が上っておかしいでしょ?
僕は、あの人も信頼出来ない人物だと思ってるんだ。
となると、このチームで信頼出来る存在は……小玉氏と檸檬たんくらいか。
斬星はすでに次の街で切られるだろうし。月締君はマイペースだからなぁ。彼はもうこのチーム云々は考えておらず、自分の趣味に没頭し始めてる。
弱い魔物を見付けると観察して触ってもふってなんか仲良くなって楽しそうにしているのだ。
まぁ、戦闘が終わって移動すると手を振って魔物と別れてるけどそれもいつまでか、案外そのまま魔物の仲間に成りかねない危うさがあるんだよね。
シシリリアさんは自分の感情を自分で理解できてない。多分笑顔で元気一杯なのはフリで内心はかなりドロドロしてるヤンデレ系とかそっちタイプだと思う。だから、出来れば近づきたくないんだけど、一番話しやすいのも彼女なんだよね。僕がデブってるってわかっても分け隔てなく話しかけてくれるし。
朝臣は完全孤立、というか個人行動派。リックマン氏は怪しい。矢田はヤバい。
うん、やっぱり小玉氏と檸檬たんが抜けるようになったら僕もグーレイさん側に向かおうっと。




