五十四話・その魔物が森に居る理由を、僕らは知らない
「臭ぁっ!! 無理にゃぁ、目から涙出てきたにゃっ」
「ぐぅ、確かにこれはっ」
「うげぇ、吐きそう」
「これ、腐臭!? ガーランド、相手ってもしかして」
「ああ、おそらくアンデッドだ。クソ、なんで森にゾンビがでてくんだぁ?」
うわぁ、のっけの依頼からゾンビ系かぁ。幸先悪いなぁ。
『あの、バグさん』
ん? どったのリエラ?
『臭い、ます?』
何言ってんのリエラが臭い訳……そういえば、皆が臭い臭い言ってる魔物の臭い、全然臭わない、な?
『私もです。どうやらバグってる御蔭で臭いが鼻に来ないみたいですね』
それは丁度よかったかも?
『はい、皆さんを助けるのにデメリットなしで臨めます』
『そりゃぁよかった。悪いけど私にも来る臭いらしい。全員動きが悪い。早速リエラ君には手伝って貰うことになりそうだ。あとバグ君は援護よろしく』
援護ってどうしろと?
えーっとアイテムでも投げればいいのかな?
毒消しとか効くんだろうか?
「来るぞ!」
茂みの奥からぬちゃりぬちゃりと何かがやってくる。
意外と速い?
次の瞬間……
「GYAAAAAAAAAAAAAAA――――ッ!!」
名状しがたきどろどろで紫いろに染まった、斑に骨が覗く巨大生物が突進して来た。
咄嗟に皆、距離を取る。
しかし、向こうの動きが速い。
アーデ、危ないからこっちっ!!
アーデの手を引いて逃げる。
その間横を通り過ぎる巨大生物。
「うげぇ、臭ァっ!?」
「死臭ってだけじゃねぇ! 見ろ、奴が通った後の草木が枯れてやがる」
「呪詛まであんのか!? 今の生物。生物? おい、何だった!?」
動きが速すぎて見えなかった。
「あれ、恐竜っぽかったにゃ! ティアラサウルスか何かがゾンビ化したみたいだにゃ!!」
「はぁ!? ティアラサウルスなんざこんな森に居るような生物じゃねーぞ!?」
「待って、羽があったわよ!!」
「羽? 恐竜……ドラゴンゾンビか!!」
ドラゴンゾンビ!? 初期の森に居るべき存在じゃないよね!?
『バグさん、フォローお願いしますッ!!』
えぇ!?
慌てる僕を放置して走りだすリエラ。
アルセソード改を引き抜き走りだす。
ドラゴンゾンビも踵を返して僕らの元へ。
おそらく生者に気付いて殺しに掛かって来たんだろう。
「クソ、攻撃出来る状態じゃねぇ……全員、一旦退却、とにかくばらばらに逃げるぞ! 町で合流だ!!」
ガーランドさんは叫ぶと同時にさっさと逃げ出す。
ジャスティンも即座に森の中へと消える。
「この、当たれッ!!」
いたちの最後っ屁よろしく、エストネアが逃げだしながらも振り返って氷結魔法。
おお、ナイスッ!! 尻尾が凍って地面にくっついた。
「グーレイ、私達も撤退する?」
「いや、このまま倒す。どの道倒さないと森が死にかねないからね。フォローよろしく!!」
グーレイさんが片手で鼻を押さえながら逆の手を銃みたいに指先向けて。ドラゴンゾンビへと赤いレーザー光線を発射。
おお、連発できるのか!!
『せいやっ!!』
さすがリエラ! 今の一撃で左足が砕けた。
「おー!!」
って、ニャークリアさん!?
臭すぎたんだろう。腰が抜けたようにぺたんと座ったニャークリアさんが涙目で放心していた。
リエラの一撃で暴れ出したドラゴンゾンビ。その尻尾が氷ごと浮き上がりそこかしこにぶつかりだす。
そして、ニャークリアさんへとしなった。
「カバーッ!!」
棺の盾が割り込む。
ズガンッと音を立てて尻尾が棺に激突。腐肉がそこかしこに飛び散る。うわ、えんがちょっ。
「シールドバッシュッ!!」
そしてカウンター攻撃発動。
恐れることも攻撃による衝撃で仰け反ることもなく、ピピロさんの必殺が叩き込まれる。
尻尾が吹き飛んだ。
「やるじゃないか!!」
「ニャークリアさんは任せてください。絶対に守り切ります!! 僕だって、やれる。やれるんだっ」
「グーレイ、速度強化行くわ! 視界速度が変わるから気を付けて!」
「いい補助魔法だ!」
よおっし、僕も! 当たれぇ!!
魔法を込めるように掌に集めたソレを放り出す。
―― ああっ! あの馬鹿バグ、またやった!! ――
「なに? あ、バグ君っ!!?」
え? なに? 駄目だった?
僕の放ったバグ弾がドラゴンゾンビへと向かっていく。
って、避けたぁ!?
放物線描いたバグ弾はなんとドラゴンゾンビへ当たる瞬間、スライダーもびっくりの方向転換でグギュンっとドラゴンゾンビから離れる。
そして……腐肉の海に沈んでいた尾道さんの後頭部に直撃した。
……なんでさ!?
え? 尾道さんいつの間にそんな場所に!?
っていうか腐肉塗れとか、確実に毒と呪詛受けちゃってるじゃん!? しかもさらにバグった!? これ、大失敗じゃないですかね!?




