五十三話・その森の異変を、僕らは知りたくなかった
「変だな」
それは中層に位置する森の中を探索していた時だった。
ガーランドさんが周囲を警戒しながら告げる。
何が変って? 僕も思ったんだけどこの森、未だに魔物と出会ってないんだ。
結構索敵してるし、怪しい所探ってるんだけど、全くいない。
聖樹の森だったら既に20匹は出会ってるはずだ。
浅瀬ですら魔物は少なかったみたいだし。これは確かに変ですな。
「この辺りから深層だ。全員気を引き締めておけ。何が出てくるかわからんぞ」
うわぁ、なんかフラグが乱立してる気がする。
こういう時って一番最悪のシナリオ想像した方がいいんだっけ?
どんな可能性がありそう?
『そうですね。一般的に言えば、森の中に今までの生態系を狂わせる凶悪な魔物が出現したことで深層に居た魔物が中層に。中層の魔物が浅層に、浅層の魔物がフィールドに、とかなら私の世界でもたまにありましたけど』
でも、ミツウデクレーンベアが浅層に居たんだよね。
となると、他の魔物はどこいったってことになるし、それ程危険な魔物が森の中にいたのなら、そろそろ誰か危機察知発動させても……
「クサッ」
「ん? ニャークリア」
「なんかすっごい臭いにゃ。ガーランド屁ひったにゃ!」
「馬鹿いうなよ。俺がそんなすかすわけねーだろ。やったらやったっつーだろが」
「いや、そこは言わない方がいいと思うんだけどガーランドさん。でも、俺達は何も臭わないよニャークリア。メロンさん達はどう?」
「ん? そうね……臭いは感じないわ。ただ、ニャークリアさんを見てアーデが真似てるけど」
ニャークリアが鼻を押さえてる姿を見てアーデがきゃっきゃと真似してる。
楽しそうに鼻抑えても意味ないからねアーデ。
でも、獣人のニャークリアさんが臭いと言いだすってことは。他の魔物もその臭いのせいで退避してるんじゃないかなグーレイさん?
「ふむ。ニャークリアさんは獣人だよね? ならば獣人や魔物の臭いに敏感な者が森の中央から退避している、というのが一番しっくり来るかな?」
「グーレイさん、それってどういうことですか?」
「ピピロ君は考え付かないかい? 魔物が逃げだすような臭いニオイがあるということは、それを取り除けば異変は収まるってことだ。まぁ原因も調べないとだけど、獣人であるニャークリアさんがここで臭いを感じるってことは、現場は相当キツイ臭いだと思った方が良さそうだ」
「うにゃぁー、それは地獄だにゃ」
「臭いか、さすがにその辺りに関しては準備してねぇな」
「そればかりは耐えるしかないが、最悪一度引くことも視野に入れた方がいいかもしれないな」
ガーランドさんとグーレイさんが頷き合う。
「あら? あそこにいるの、アースロプレウラじゃない?」
「ホントだな。あいつらは普通に生息してるのか」
言われて見て見れば、そこに居たのはムカデ、あるいはヤスデに似た巨大生物。
全長2mくらいある30もの節をもつ節足系の魔物だった。
「植物食べるからこっちから攻撃しない限りは攻撃してこないわよ。でもああいう足が多いの苦手なのよね。だから私たちはサーチ&デストロイしてる」
ただ苦手な存在ってだけで殺しちゃうのかよ、この悪魔!
え? ゴキブリはどうだって?
あんなもんサーチ&デストロイだよ。当然だろ?
あいつら放っといたらジョージとかいいながらバケモノに進化するんだから見敵必殺でいいんだって。マジで、アレはヤバいから。
「あ、あっちにはパレオカリヌスがいるぞ!」
「アレは、蜘蛛かな? いや、地面を這ってるしジグモの類か」
ちなみに地球の方ではワレイタムシ類の絶滅済み生物だったりする。
たしかデボン紀あたりに生息してた糸を吐かない蜘蛛。空洞になった植物を根城にしてたんだっけ? どっかで見たぞそんな記述。
『あの生物、多分その地球上の生物から持って来たんでしょうね。パン……パン? あの、女神様の名前、なんでしたっけ?』
え? 駄女神二号でしょ?
『えぇ!? バグさん、なんでそんな覚え方しちゃってるんですか!?』
『パンティちゃんだろ? 彼女はバグ君からすれば駄女神と同列なのかい?』
え? だって未だに心の声聞こえてるし。こんだけやらかしまくってたらもう、駄女神の称号与えても良くない?
と、言えば、グーレイさんもリエラも腕組んで唸りだす。
『『確かに』』
―― 確かに、じゃありませんっ!! それとパンティじゃないです! パンテステリア! パンテステリアですからっ!! あとそこのバグ、駄女神と呼ぶなっ ――
自分の世界バグ
―― はう!? ――
召喚時にグーレイさん
―― あうっ ――
僕らがこんがらがってバグる。ついでに駄女神さんに頼る。あと僕にだけ念話来るのまだ治ってないっす
―― ぎにゃんっ!? ええ!? 治ってないの? 私の心の声駄々漏れ!? なんでよーっ ――
なんでよーっと逆切れされても困る。
―― あ、違う違う。そうじゃ無くて、皆気を付けて、なんか凄いの来るよ ――
凄いのってなに……っ!?




