五十二話・その森の異変を、僕らはまだ知らない
翌日。僕らは準備を整えて森へと向かう。
この森はダレダスケベスに一番近い森で、浅い場所なら雑魚魔物しか出て来ない、ということで冒険者がひっきりなしに出入りしてるらしい。
ただ、そんな冒険者たちはミツウデクレーンベアに遭遇したって話は聞いたことがないって言ってた。
一応、森に入る前に数人の冒険者達に事情聴取しといたんだ。
でも、皆森の中にはよく入るけど中層以降には絶対行かないってことらしいし、ミツウデクレーンベアは深層の方に居るらしいのでまず会うことはないそうだ。
だったらなんでピピロさんは二回も出会ってるんだろうね?
とはいえ、今のピピロさんなら普通に囲まれてもシールドバッシュ無双できるから問題はなさそうだ。
グーレイさんもそれが分かっているので尾道さんには防具だけ整えさせて森へと突撃することにした。
「おー」
森の中ではいつのまにか拾った枝をふりふりアーデが歩いている。
グーレイさんとピピロさんが前衛。
メロンさんはアーデと手を繋いでアーデの動きを見ながら歩く。どう見ても保護者さんだ。
リエラは一番後ろから奇襲に注意を払い、僕は遅れがちな尾道さんが迷子にならないようにフォローする役目を承った。
この人、唯野さん以上に役立たず状態なんだよね。
それもこれもブラック企業が悪い。
にしても、この人ほんとツイてないなぁ。
さっきから魔物のフン踏んだり、飛び立つ鳥のフン後頭部にべっちょりだったりとなんかもう悲惨である。
そんな不幸が起こるたびに無言で涙流すの止めてほしい。凄く居たたまれない気持ちになるから。
なんというか、不幸な星の元に生まれたというか、選ぶ選択肢選択肢が全てバッドエンド直行ルートだったというか。悲惨だなこの人。僕も大概だけど、ちょっと同情する。
彼の人格形成自体も周囲の環境のせいでもあるんだろうし、こうなるまでに誰か助けがなかったのかと思わずにはいられない。
がさり、茂みが揺れた。
すぐに棺の盾を構えるピピロ。
視界が塞がれて慌てて横に少しずらす。
「視界の確保は必須だね。そういうスキルないのかな?」
「わかりませんけど、欲しいと願ってみます。スキル修得、思いの強さで授かることがあったんです、僕の世界では」
思いの強さ、ねぇ。パンテステリアさんがそんなことするとは思えないんだけどなぁ、初心者だし無難にレベルアップでこの職業はこれだけ覚える。程度にしか設定してないと思う。
―― はわわわわ、マロンさん、なんで職業欄いじってるんですか!? 所持スキル変える!? 思いの強さでってそんな複雑な方式私知りませんよぉ!? ――
前言撤回。駄女神一号がやらかす気がする。
グーレイさんに報告しちゃおう。
この戦闘が終わってからだけど。
茂みから飛び出して来たのは……野生のピカ(っと光った頭の)チュウ(ネン)が現れた!!
「おっと、亜人の同業者か」
「いきなり攻撃仕掛けそうになって言う言葉かね。まぁ、ぎりぎり気付いてくれて助かった。危うく殺してしまうところだった」
飛び出すとともに切りかかってきそうになった中年のおっちゃんが大して悪気もなく告げる。
それに皮肉で返すグーレイさん。
まぁ、今の間合いだったら棺のシールドバッシュがカウンターで入ってたから皮肉というより事実だね。
ピピロさんが危うく人殺すところだったと気付いた冷や汗出てるじゃん。
「ちょっとガーランド! いきなり走ってかないでよ!」
「お、悪りぃ悪りぃ」
がさりと茂みが揺れて、三人の男女が現れる。
どうやら四人パーティーらしい。ガーランドさんが僕らの気配に気づいて様子を見に来たんだろう。
「あれ? 他の冒険者がいる?」
「なんでにゃー? Aランク以下は森入らないよう言われてるにゃー」
猫娘だ! 猫娘さんだ!! しかも猫が二足歩行した状態のばりっばりの獣っ娘だ!!
リエラ、獣っ娘だよ!!
『えーっと、珍しい、ですかね?』
あれ? あんまりテンション上がってない? 向こうにも獣っ娘っていたっけ?
『んー、結構居ましたよ? というか意思を持った魔獣と何か違うんですか? サザウェンとかGバァみたいなものでしょ? ペンネも獣っ娘だし』
前者の二人はともかくペンネは確かに獣っ娘だね。でもペンギンの身体に顔女の子でしょ。
この子は完全獣の娘さんだよ。二足歩行の猫なんだよ。も、モフりたい……
『モフりたい? あー、確かにあの毛並は凄く肌触りよさそうですね。でも触ったら私達のことバレちゃいますよ?』
バレて問題ってあったっけ?
と、言うと、リエラは考え込む。
うん、確かなかったと思うよ。
「我々は昨日森に行く事をギルドに告げててね今日はギルドには寄らずに来たんだ」
「ああ、それで連絡聞いてなかったのね。私達はA級冒険者チーム『帰還の誓い』。今日ギルドにいったら森の探索が依頼に出ててさ、一応英雄さんってのが捜索するらしいんだけど、Aランクパーティーにも頼みたいって」
「ほぅ、ということは君たち以外にもAランクパーティーが?」
「俺らが受けた時は居なかったな」
「そうかい。それで、どうする? 折角合流出来た訳だし、合同で探索するかい?」
グーレイさんの言葉に彼らは顔を見合わせる。
「いや、お前達は帰りな。言っただろ、ここの探索はAランク……」
そんなことを言いながら僕らを追い返そうとしたガーランドに、グーレイさんは無言で英雄証明書を提示した。




