四十七話・そのシールドバッシュの恐ろしさを、彼女は知りたくなかった
「ところでピピロ君、盾職の闘い方は知ってるかい?」
「え? そんなのあるんですか?」
ゲームやアニメなら僕も知ってるよ。
盾使ってキャメロットしちゃうおねーさんとか、攻撃力ゼロだけど味方のバフえげつない悪落ち系勇者とか。盾で攻撃もできるから重量武器として扱えると思うんだよ。
「ふむ、盾は斧やメイス、モーニングスターなどの重量物として扱う方法もあるようだ。君の覚えているシールドバッシュも盾ごと体当たりすることでダメージを与える技だしね。せっかくだからちょっと使ってみてくれないか? どれぐらいのダメージが出せるか見てみたい」
「あ、はい。じゃあ、えっと……」
「そこににっちゃうがいるから彼にダメージを受けて貰おう」
「に゛っ!?」
ぴょんこぴょんこ跳ねていた野生のにっちゃうが名指しされてびくんっと体を硬直させた。
「ご、ごめんね? シールドバッシュ!」
「にぎぃっ!?」
うえぇ!?
「……あ、あれ?」
シールドバッシュを終えて、手ごたえがなかったのか、やや戸惑った顔で棺の盾から顔を覗かせにっちゃうを見るピピロさん。
しかし、そこにはにっちゃうの姿がなかった。
というか、瞬殺だった……
「ぴ。ピピロ君、そのシールドバッシュ、使った事は、ないのかい?」
「え? いえ、皆さんと一緒の時に何度か、にっちゃうに使いましたけど、五回程使ってようやく倒せた位です」
「今、にっちゃうが消し飛んだんだが……」
うん、僕にもそう見えた。
真正面に棺の盾がぶち当たって、刹那にっちゃうが弾けたように消え去ったんだよ。
ほ、ほら、向こうの森辺りに赤い飛沫が……
「ど、どういうことでしょう?」
「それは……」
たぶんだけど、グーレイさん。ピピロさんのシールドバッシュ、防御依存攻撃じゃないかな?
「防御依存攻撃……」
「え?」
「ああ、いや、おそらく君のシールドバッシュは防御力によってダメージが変わるんじゃないかい? 前に使っていた盾は初期装備だろう?」
「あ、はい。え? じゃあこの盾の防御力って……」
「にっちゃうが消し飛ぶくらい、ってことだな」
「ひえぇ……や、やっぱり僕が持っていいような武器じゃないような……」
「いや、むしろそれくらい強力な武器なら多少下手を打っても無理矢理に相手を倒せるってことだろう? 今の君にこそ持っていて貰いたい武器だ」
「グーレイさん……僕、頑張ります、頑張って、皆に認められるくらいの盾使いになります!!」
多分だけど、それ装備して戻るだけで普通に認められると思うな。
「うむ、頑張りたまえ」
あ、無視した!? ひどいっ。
「さぁ、ピピロさんも充分闘えるようだし、次の街へ行くとしようか。メロンさん、問題はないかい?」
「今更聞くの? まぁいいけども。でも、こうしてのんびりとフィールドを歩いたのは初めてかも。この平原って結構綺麗よね?」
「ああ、そう言えばそうだね。駆け抜ける風になびく草、飛び交蝶の群れ。犬が駆けまわり、ウサギが跳ねまわる」
グーレイさん、それ、全部魔物だから。あとゴブリンが寄って来たよ……って、消し飛んだ!?
シールドバッシュヤベェやっ!?
「す、すごい。なんか当たった感覚もないのに、こんな簡単に……」
「一応言っておくけど、人には向けないように」
「あ、そ、そうですね。次の街に付いたら普通の盾も買っておきます」
「ああ、それがいい。使わない時はアイテムボックスに仕舞っておけばいいさ」
「あの、本当に、僕が貰ってしまっていいんですか?」
どうなのバグ君、とグーレイさんが視線を送って来たので頷く。
どうせクーフ達の元行けば大量生産してるし、また持っておくよ。使い道無いけど。
にしても、あの古代人の棺、防御力凄いんだなぁ。まぁ銃弾もロケット砲も普通に傷すらなく耐えきる耐久力だもんね。そりゃ硬いわ。
多分防御力5にプラスで30000くらい増えてるんだろうぜ。そりゃソレを攻撃に換算したらにっちゃうなんて消し飛ぶよ。
人に使ったら……まさに人間消失兵器の完成だ。
絶対に人に向けちゃなんねーだ。
リエラ、ピピロさんの前には絶対に行かないように。
『い、いかないよ!? さすがにあんなの喰らったら私もダメージ受けそうだもん』
あ、ダメージ受けるだけなんだ……
「おー」
あ、しまった。アーデ放置してた。
そんなアーデは草むらに向かうと、唐突にしゃがみこむ。
なんだ? と思えば両手で何かを持ち上げ、とったどーっと真上に掲げて見せた。
って、何拾ってんのアーデぇぇぇ!? そこまでアルセに似なくていいんだよっ!?
……で? 何その単眼生物……いや、複眼?
顔面にあるのは一つの大きな複眼だ。緑色の複眼をぴかぴか光らせ、ひれみたいな複数の足をぱたぱたと震わせている意味不明な生物を捕獲した。
ヤバい、これ、グーレイさんより地球外生命体だ!?




