四十五話・その少女の実力を、僕らは知らない
「落ち付いたかな?」
しばらく泣いていたピピロさんが恥ずかしそうにグーレイさんから離れる。
「は、はしたないところを、すいません」
「気にしてないさ。しかし、昨日の今日じゃないか、別れてからは二日だぞ? 一体何があったんだい?」
「それが……」
出来れば言いたくなさそうだったんだけど、ピピロさんがぽつぽつと話しだす。
それによれば、なんと昨日冒険者登録した彼らはそのまま次の街に向かってしまったそうだ。
その途中でミツウデクレーンベア? とかいう背中にクレーンみたいな腕生えた熊が襲って来て大ピンチだったらしい。
その闘いで死にかけたピピロは晴れて? 役立たず認定を受け自由の身となったそうだ。
ただ、その事実で矢田に奴隷になるように勧められ、自分は受け入れようとしたらしい。
でも、そこで尾道さんが妨害に入って来て、代わりにぼこぼこにされて、彼女を救ったそうだ。
ピピロさんはグーレイさんがこの町で待ってると言ってたのを思い出し、こうしてやってきたのだという。
「迷惑かもしれません。それに、追放に加担した僕がどの面下げてって言われるかも、でも、でも尾道さんだけは救って上げてほしいんです。僕は、一人でもなんとか頑張りますから、あの人を、絶対に、一人だけじゃ生きていけない人だと思うから……」
うん、まぁ尾道さんはなぁ。
唯野さんよりも精神的な追い詰められ方は酷いと思う。
一人身だから僕らもなかなかアレを立て直すのは出来ないかもしれないよ?
「いや、むしろ君のようにあぶれる者がでるだろうことを見越していたんだ。行こうかピピロさん、尾道さんを回収に」
「あ……はい! ありがとうございます」
「しかし、ピピロさんが一番にこちらに来るとは思わなかったな。尾道さんか灼上君だとばかり思っていたよ」
「あー、その……僕があまりにも役立たずだったので……灼上さんには何度も助けてもらっちゃいました」
盾職なのに、盾役失格ですね。と卑下する少女。
グーレイさんはふむと考えステータスを見せてくれないかと尋ねる。
「僕のステータスですか? 別に構いませんけど?」
ふーん、どれどれ? グーレイさんが見せて貰ったステータス表示の空中に出た透明なウインドゥを覗き込む。
名前:ピピロ=バックラ
称号:盾の英雄
レベル:8
スキル:
カバー:味方一体の攻撃を肩代わりする。
咆哮:敵を威圧する叫び。
盾技Lv1:盾に関する技術。
防御力増加:盾を装備している時、防御力が通常の1.2倍になる。
重量制限解除:盾装備に関する重量制限が解除、どれ程重くともそれが盾ならば持ち運べる。
アイテムボックス:入手したアイテムを保管することができる。個人用。上限1000個
異世界言語理解:世界を越えて言語が統一され、理解できるようになる。
盾成長率10倍:盾熟練度の成長率が10倍。
シールドバッシュ:盾装備時、盾を使った体当たりを行う。
盾の英雄Lv8:盾装備時全能力UP、盾装備時動作短縮、盾技習得率増加
アイテムボックス内部:
魔物の死骸×3、エリエンルア王国の見習い騎士鎧、エリエンルア王国の見習い騎士の剣
ピピロの下着、ピピロのブラ
あえてツッコミ所は無視するとして……
盾装備に関する重量制限解除ってのは、凄くないかな?
『これって、バグさんの持ってるアレが使えるんじゃ?』
だよね? クーフ達古代人のみが扱える最強の盾。ピピロさんなら扱えるんじゃないかな?
―― 誰がなんと言おうと鍋の蓋は盾なのよっ!! ――
……よし、グーレイさん、ピピロさんの装備決まったよ、フィールド出たら……
―― ナベノフタよ! ナベノフタこそ最強なのよっ ――
煩いよ駄女神ッ!
ああもう、無視しようと思ったのに思わずツッコミ入れちゃったじゃん!
なんでナベノフタ推しなの!? あんなの木で作っただけのよわっちい盾だろ、っていうか盾ですらないよ!?
ただ鍋の噴き毀れを防ぐための道具だよ!?
「折角だ。このまま尾道さんがいる町に向かおうか」
「おや、でしたら丁度いいですな。ダレダスケベスに持って行く配達依頼があるんですよ、ぜひ受けていってください」
ついでで依頼させる気だこのギルド長。
っていうか名前、街の名前がだいぶおかしい。
誰だよこんな名前付けた……駄女神二号!? そうか、あいつが犯人じゃないか。この、ムッツリスケベ!
―― なんだとー、バグの分際でなんてこと言うのーっ、バグらせちゃうんだからっ ――
うわぁ、普通にこの世界覗いてた!?
って、バグってる僕らバグらせたらさらに収拾付かなくなるじゃん!
―― あ、そうだった。とりあえずまえまえからグーレイさんに言われてた奴直しに来たから。んじゃ、回線切るねー ――
あー、ようやく天の声聞こえなくなるのか。
―― よし、これでもう私の心の声漏れないっと。あー、疲れたにゃーん ――
ぶっふぉぅ!? 治ってねぇー!?




