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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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四十話・その彼が何処へ行くのかを、彼らは知る気もない

 翌日、なんとか朝まで皆と過ごした尾道は今、断罪裁判のような扱いを受けていた。

 矢田の熱弁が響き渡る。

 曰く、あまりにも役に立たないクソジジイである。

 曰く、戦闘中も自分だけ頭抱えて震えるだけで貢献すらした事がない。

 曰く、存在自体が必要と思えねぇ。


「確かに、彼は戦闘出来るタイプではなさそうだが、言い過ぎじゃないか?」


「おっさんだって理解出来てんだろ。俺らは別に仲良しこ良しって奴じゃねーんだ。魔王倒すまで協力するだけの仲間であって、このクソジジイは英雄ですらない。正直邪魔にしかならねぇんだよ」


「尾道さん、俺も言いたくねーけど、あまりにも動かなさすぎだろ。熊の時のこと言ってるんじゃないんだ。他の魔物相手でもあんたは震えてばっかり、今ここに居ないピピロさんだって仲間庇おうとかポーションくばったりとかしてたんだ。それすらしないってなら確かに、戦場に出るべきじゃないと思うんだけど」


「ですが、ここに残れと言われても、右も左もわからない状態で……」


 尾道にとって、ここは既定路線だ。しかし、いくら既定路線で外されると分かっていても、あまりにも理不尽ではないか、せめて現状を訴えそれなりのお金かアイテムを貰ったりはできないか、と情けない姿になるだろうとは思いながらも縋るように告げていた。

 できるなら、矢田から金を毟りたい。


「クソジジイッ、巻き込まれの分際で仲間になろうとか思ってんじゃねーだろうな!」


「で、ですが、他に行き場所が……」


「ブラック企業ですりつぶされる弱者だろうが、だったらそれらしく浮浪者やってろよクソが!」


「さすがにそれは可哀想じゃない?」


「尾道さん、仕事するのにお金居るだろうから俺らで少しずつでも……」


「やめとけ、金をドブに捨てるようなもんだぜ。今までの中でわかんだろ。こいつは金があってもすぐに使い切って浮浪者だ。だったらやるだけ無駄。さっさと次の街行こうぜ。レオンたちが待ってんだろ」


 レオンとシーパは英雄たちのみで話し合いをしたいと言われ、先に冒険者ギルドで依頼を探しに向っている。

 向こうで待っているそうなので、早めに話し合いを終えて冒険者ギルドに顔を出さないと案内人を待たすことになるのである。


「さっさと行こうぜ。おい、クソジジイ、テメェはここでお別れだ」


 矢田に促され、英雄たちが外へと追い出されていく。

 一人、宿屋の食堂に残された尾道は、しばし、最後に矢田が出て行った扉を見つめ、肩の荷が下りたように大きく息を吐いた。

 が、次の瞬間扉が開き思わず驚きの声が上がる。


「あ、驚かした? ごめんね尾道さん」


「……き、君は……シシリリア、さん?」


「ピピロさんが居なくなってるの、何か知らない?」


「それは……」


 どうやら一緒にパーティーを組んでくれるというわけではなく、ただ懸念材料を聞きに来ただけのようだ。


「知ってる、みたいね。あの子、どうなったの!? まさか、殺された? あるいは矢田に……」


「あ、いえ、そうなる前に助けはしました……あっ」


 思わず告げてしまい、口元に手を当てて押し黙る。が、既に言ってしまった以上秘密とはいえない。もともと秘密にしなければならないという訳でもなかったので、溜息一つ吐いて、昨日起こった事をシシリリアに告げることにした。


 --------------------------


「そう、やっぱり……」


「ただ、彼を下手に追い詰めようとすると暴発する恐れもあります。出来るだけ女性が近づかないようにだけしておくのがよいかと……」


「そうね、女性陣にはその事実は告げておいた方がいいわね。あいつ、ホントクズだ。どうにか……いえ、どうせ私はグーレイさん所に戻る予定だし、皆にもそろそろグーレイさんの無実伝えなきゃ。あの、尾道さんは、これからどうするの?」


「私は……ピピロさんがグーレイさんを呼んでくるそうなので、それまでここで待つ事にします。一応まだお金はありますし、彼らが来るまでぼーっとしてますよ、私、待つのは得意ですから」


「そう。じゃあ。私は向こうに戻るよ。情報ありがとね」


 快活な笑顔を残し、シシリリアは走り去っていった。

 それを見送り、ゆっくりと外へ出る。

 お金はある。そう言ったが、それは嘘だ。


 グーレイと一緒に行動していた際、離れた途端にかっぱらいに遭って全額盗まれている。

 だからベンチで黄昏ていた。

 つまり、金はもう、彼にはない。

 食料もない。宿にも泊まれない。

 何もない。


 ふらふらと歩きながら、この町にもあった中央の噴水広場へと向かう。

 ベンチの一つにどかりと腰かけ、大きな溜息一つ。

 虚空を見上げぼーっと待つ。


 なぜだろう?

 涙が溢れて来た。

 待つのが得意? そんな訳がない。


 尾道にとって何もしない時間、何も出来ない時間は嫌悪でしかなかった。

 何かしたい、出来る事をしたい。なんでもいい、仕事が欲しい。

 でも、ないのだ。自分ができることが、ないのだ。

 何もないのだ。何も出来ないのだ。だから、彼は虚空を見上げてただ無為に過ごす。

 それしか、彼には出来ないから、どんなに嫌でもこうして居るしかないのだ。


 人生は既に諦めた。

 野たれ死ぬのは確定した。

 もう、何も出来ることはない。けれど死ぬ気にはなれない。

 怖くて怖くて恐ろしい、自分自身を殺すなんて自分に出来よう筈もない。


 だから、過ぎ去れ。

 ただ待つだけはできるから、お腹が空いても、喉が渇いても、ただ待つだけなら、自分でもできるのだから、このあまりにも不幸で無意味で虚無の人生よ、さっさと過ぎ去ってくれ。

 涙ながらに、尾道克己はただ、待ち続けた。自分の人生が終焉に向かうまで……

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