三十三話・その魔王の娘が冒険者になったことを、受付のお姉さんは知らない
グーレイさんがギルド証を手に入れると、メロンさんとアーデが順にギルド証を作る。
アーデはカウンターに届かなかったのでメロンさんに抱っこされての登録である。
小さい子が手を伸ばしてギルド証精製機に触れる姿は、周囲の冒険者共々ほっこりさせていただいた。
ギルド証を手に入れたアーデは両手で頭上に掲げて「おー」っと感心したように見上げている。
まるで初めて自分の力で手に入れた欲しかったものを手に入れた時のような、凄くキラキラした眼をしていた。
「ギルド証……か、こんなに簡単に手に入るのか……」
メロンさん、魔族だからって理由で即行捕まったらしいしね。
何とも言えない顔なのは今までの苦労ってなんだったんだろう? という疑問がわき起こっているからだろう。
ギルド証は身分証になるので、これがあれば各ギルドで優遇されたり、別の街に行った際、これを見せればすぐに町に入れるらしい。
メロンさんは魔族なので町に入る際は入町税とかいうのを払って入ったらしい。
それがタダになる便利な証明書がこんな簡単に手に入るとは知らなかったようだ。
「初期登録の際に確認させていただいているのですが、ギルドに関する諸注意などを説明する初心者研修がございますが、お受けしますか? もう間もなく始まりますので丁度時間的にも都合はいいのですが」
「ふむ。そうだね、一応聞いておいた方がいいか。では三人、研修を受けさせて貰うよ」
「かしこまりました。ではそちらの扉から奥へ向い、二階に上がった第三会議室に集合してください」
「了解、用意するものはあるかい?」
「ギルド証くらいですね。後は研修の際にいくつか初心者用の道具が配られますのでソレをお持ち帰り頂くことになります」
「ああ、そのくらいなら問題はないよ」
会話を終えたグーレイさんは案内に付いて来て貰った奥さんに向き直る。
「そういう訳で、これから研修に向かいます。貴女はどうします?」
「そう、ですね。私もギルドに登録して初心者研修を受けます。薬草採取や街中の仕事なら私でも出来そうですから」
「そうか……では受付のお姉さん、追加でこちらの方も頼みます」
「はい、かしこまりました」
奥さんも一緒に研修か。そのままパーティーに入ったりしないよね。町の人とか普通に戦力にならないよ。
でも、少しだけパワーレベリングしてこの近辺で危険に陥らない程度の実力は付けてあげたいって思うよね?
アーデもそう思う? うん。聞いてないね。まだギルド証に夢中だったよ。
全員で第三会議室って所に向かう。
リエラは冒険者になった時って研修受けたの?
『そうですね、なんか遠い昔の気分ですけど、確か皆さんと研修受けた気がします。殆ど口頭説明だけでしたけどね』
そうなんだ。こっちの世界でも口頭説明だけなんだろうか?
第三会議室へと辿りつく。
えーっと……誰もいないんだけど?
「これは、私達だけの可能性が高そうだ」
「そりゃそうだ。毎日新人が来る訳じゃーねぇからな。座りな。あんたらに研修行う教師さんだ。よろしく」
うおわっ!? 一体いつの間に? 部屋にやってきた僕らの直ぐ傍に、おっちゃんが一人立っていた。
「何処に座ってもいいのかね?」
「おう、どこでも……また変わった種族が来たな。アンタ、随分珍しい姿だが、種族はなんなんだい?」
「私かい? ふむ……ギルド証によれば……あぽnぬ亞というらしい」
「いや、なんだそりゃ?」
「どうにもこの世界へ召喚される時にバグったらしくてね。自分の種族も良く分からない状態なんだ。一応この帝国に呼ばれた英雄の一人に類する」
「お、そりゃすげぇ。英雄様か。っても、確か少し前に英雄様12人全員登録したはずだぜ?」
「尾道さんは一般人だよ。巻き込まれ召喚されたのさ。ほら、英雄だろう?」
と、英雄の証を見せてみると、確かに、と納得するおっちゃん。
「ま、細かいこたぁいいわな? とりあえず好きな席付いてくれ」
と、さっさと教壇に向かう……なんで教壇あるの? ここ会議室じゃなかったっけ?
どうやらここの会議室は基本新人冒険者への研修に使うらしく。教壇は常備されているようだ。
全員が着席すると、別の職員さんが入って来てなんかいろいろ配りだす。
新人として必須の道具とかをわざわざ無料でくれるそうだ。充実してるね冒険者。
「あ。ちなみにそれ一式2000グネイアだから先に払ってくれ」
金取んのかよ!?
いや、ダメだろ冒険者ギルド。
もっと早めに金がいることは伝えないと、金持ってないのに研修受けて借金とか地獄過ぎるだろ。
「そういう金がいるってことは事前連絡してくれないかね? 払えなかったらどうするつもりなんだ」
「あん? 連絡されてないのか? あー、あの受付嬢、また説明忘れやがったな」
受付嬢さんが悪いらしい。あとで胸揉んでおいてやろう。
あ、違うよ? 嘘だよ? 冗談だよリエラ。だからそんな白い目で見ないで?




