三十一話・その冒険者登録が紙一重だったことを、はぐれ英雄たちは知らない
レオンとシーパに連れられて、英雄たちは冒険者ギルドへと向かった。
ここは平民達の中でも町の仕事に付けない、あるいは決まった仕事を持ちたくない者たちが何でも屋よろしく、魔物退治などで生計を立てるために作られた互助組織だ。
各国町村に点在する支部は全て連絡が瞬時に届くらしく、どこで依頼を受けて別の場所で依頼完了を報告してもしっかりと点数として付く。
点数はギルド会員となった冒険者たちのランク上昇に関するポイントであり、これを集めることで上位ランク冒険者になる事が出来るのである。
英雄たちとしても、この互助組織に組する必要はないのだが、倒した魔物の素材買い取り、各町での宿や武器防具の割引などの作用があるため、属しておいて損はないギルドである。
今回はこの世界の基本生活を教えるように頼まれたというレオンとシーパは、他にもあるギルドについては自分で調べとけ、と告げて自分たちがやることは英雄のパワーレベリングであると告げる。
つまりは外で魔物と闘って、二人がソレをフォローするということだ。
一定の強さに成ったところでお役御免となるらしい。
「それでは冒険者登録を行いますが、団体用あるいは個人用の心得研修はお受けしますか?」
「ああいや、俺達が教えるから問題無い。それよりも、初期冒険者セットを人数分頼む。金額はこれだ」
「かしこまりました。ただいま特典としてこちらの箱からクジを取っていただければ書かれた商品を手に入れられます。初期登録者限定なんですよ」
クジと聞いては引かない訳にはいかない日本人たちが思わず引いて行く。
参加賞はポーションが一つ。飲めば体力を回復してくれる飲み物だが、あまり飲み過ぎるとポーション中毒という症状になり、中毒が切れるまで体力が回復しなくなるらしい。
そんな諸注意を受けつつ、尾道以下数名がポーションを受け取り何とも言えない顔をする。
「おお! シルバーソード?」
「お、いいの引きましたね。こちらになりまーす」
剣の英雄が引き当てたのは銀の剣。まさかそのまま手渡されるとは思わず受け取った瞬間ずっしりとした重さに祟らを踏む。
「あら? パラライダガー?」
闇の勇者が引き当てたのは麻痺の短剣。一本だけだが初っ端からなかなか優秀な武器が手に入ったようだ。
「へへ、俺もはずれじゃねーみてぇだぜ。あーっと……なんだこりゃ?」
そして弓の英雄は悪魔の眼球と呼ばれる食材を手に入れた。
「それ、どう見ても芋だよね? 男爵芋?」
「なんでだよっ」
思わず投げ捨てそうになった弓の英雄の腕を即座に止める料理の英雄。
まさかの人物が止めに来たので驚いた弓の英雄だが、料理の英雄の形相を見て一瞬でヤバいと察した。
何か自分がやらかしたらしいことは即座に気付く。
「なんか、やらかしたか?」
「ああ、食べ物を粗末にすんな」
「いや、そこかよ!?」
「重要なことだ。少なくとも俺の目の前で次に食料を粗末にしたら……解体すっぞ?」
殺意の乗った視線に背筋が粟立つ。
弓の勇者は知っていた。
この目をする人物を知っていた。そいつは言った事を、必ず実行する危ないリーダーだった。
だから、逆らったら本当に解体されると理解する。
「チッ、だったらテメェが有効活用しやがれや。俺にゃ必要ね―奴だからな」
「分かった。料理に使わせて貰うよ」
殺意は一瞬で消えた。
むしろジャガイモを手に入れて鼻歌交じりである。
意外と危険人物だった料理の英雄にできるだけ怒らせないようにしようと思う面々だった。
「んじゃ、冒険者登録も済んだし、魔物狩りと行こうか」
「依頼とかは明日ねー。今日は私とレオぴが連携とか見せるから、後で皆で狩りっちゃってもらうよん」
面々が頷き冒険者ギルドを後にする。その背後、銀色の未確認生物が冒険者ギルドへと入って行くのだが、彼らが気付くことは無かった。
「さて、それじゃー、まずは俺達で闘うから、見といてくれ」
「敵さんはー。お、いたいた。にっちゃう発見!」
草原地帯でぴょんこぴょんこと跳ねて移動しているのはふわふわもこもこの雪だるまにしか見えないウサミミと尻尾を持つ白い生物。
円らな赤い目を見て思わず闇の英雄は「可愛い……」と漏らす。
幸いにもその声が聞こえたメンバーは居なかった。
「二体か。んじゃシーパ、一体ずつ狩ろう」
「あいよー。アクセラレーション、初太刀いっただきぃ」
即座に走ったのはシーパ。
物凄い速度で音を立てずに走り寄ると、無防備に跳ねるにっちゃう一体の胴と首の付け根を切り裂く。
「に゛っ!?」
突然共に跳ねていたメンバーが殺された事に気付いたもう一体が驚いた次の瞬間、
「スラッシュカッター」
風の魔法と思われる一撃が残ったにっちゃうを切り刻む。
大してHPも無かった魔物はその一撃で絶命していた。
「っと、まぁこんな感じかな?」
「いや、あんた、剣士じゃなくて魔法使いかよ!?」
「ん? そうだけど?」
背中の剣、何のために持ってるんだろう? 英雄たちの全員が思ったツッコミだった。




