三十話・その英雄たちの助っ人を、はぐれ英雄たちは知らない
翌日、はぐれ英雄グーレイが民家に泊まっている事など露とも知らない英雄たちは、宿での一泊を爽快な朝で眼を醒まし、一階にある食堂に集まっていた。
一部、少し罪悪感を覚える顔をしているが、それはグーレイを邪魔者のように扱って早々にチームから抜かしてしまった事である。
ラノベ好きな面々からすれば、その光景はまさにザマァもの、あるいはスローライフものの始まりに思える。
呼び出された勇者や英雄の中から一人、仲間はずれが出て、ソイツだけ別の行動を開始して遊びまくりながら成り上がって行く。
なのに彼を抜かした英雄たちは慣れない冒険に心を荒ませ崩壊し始めて、結局は追い出した英雄が一番得をする結果になるという物語。
自分も一緒に向こうに付いた方がよかったのでは? なんて剣の英雄が思ったり、弓の英雄に対して明らかに騎乗の英雄が敵視しはじめたり、早々にギスギスとした空気が漂い始めている。
それを一新するのは、これから会うことになっている案内人だろう。
どんな人かワクワクしているために、グーレイに対する罪悪感が多少マシになっているのだ。
「どんな人がくんだろね?」
「ハッ、誰だろーがどうでもいいよ。俺は御免だぜ? 誰とも分からん奴の下に付くなんざよ」
「ふむ? 君は不良チームに居たんだろう? ならそのリーダーに従うものではないのかね?」
「そりゃぁ、そうだがよ。あの人みてぇーなカリスマ性ある奴は滅多にいねぇだろ。こう、この人に付いて行きてぇっつー奴はよ?」
「ふーん。あんた、認めた相手なら命令とか聞いちゃうタイプなのね」
「うるせぇ、テメーの言葉は絶対に聞かねぇから安心しな」
「ハッ、なんか面白そうね。屈服させて美樹香様とか呼ばせてやりたくなるじゃない」
「お、お嬢様系美樹香様ッ、ハァ、ハァ、も、萌えぇ――――っ」
「うわっ、デブオタが萌えた!?」
どうでもいいは無しで盛り上がっていた英雄たちの元へ、二人の男女が近づいてきた。
気配を察した一同が押し黙り、視線を向ける。
「君たちでいいのかな? 初めまして。グネイアス帝国に雇われた案内人冒険者のレオンだ」
「同じく。レオンとチーム組んでるシーパだよん、よろぴ」
チャオっと親しげに軽く手を振るシーパ。
オレンジ色のミニーショートの髪を揺らし、黒いスポーツブラとパンストと思しき衣類にジャケットと短パンといった動きやすい服にナイフが無数に突き刺さったベルト。
笑顔のシーパはレザーグローブ、いや、指抜きグローブで自分を指して続けた。
「英雄さん達ご案なーい。を頼まれたんだけど、貴方達でオケ?」
「あ、ああ。私達だ、が……」
なれなれしい態度のシーパに気後れしながらリックマンは視線をずらしてレオンを見る。
金髪の切りそろえられた髪、さわやかイケメンスマイル。年の頃は光の英雄と同じくらいか?
白く輝くプレートメイルが目を引く軽鎧を身に付けた青年は、背中に大きな剣を携えている。
トゥーハンデッドソードか? と思いながら二人を観察し始めた。
「えーっと、貴方達二人が案内人?」
「そそ、私ちゃんとレオぴが案内人でーす」
「あはは、シーパはちょっと軽薄そうに見えるけどこれで結構ちゃんとしたシーカーだから安心してくれ」
イマイチ安心出来ない人物にしか見えないのだが、帝国から紹介された以上はそれなりに信頼が置ける冒険者なのだろう。
「私達はまだ右も左もわからない者が多い、いろいろと尋ねることもあるだろうが、問題はないか?」
「その辺りの事情は把握してます。えーっと1、2、3……12。うん、全員いますね」
尾道さんを12人目として数えたレオン。皆一瞬気まずそうにしたものの、あえて誰も訂正しなかった。
「んじゃまー、まずは冒険者ギルドで冒険者登録しちゃおっかー」
「おお、冒険者登録!」
「俺達英雄らしいけど、冒険者として登録するのか?」
「もっちのろーん。この世界で自由に動けるのが冒険者だかんね!」
「正確に言えば、冒険者としていろいろな町の赤札依頼を受けてほしいらしいです。普通の冒険者じゃ生きて帰れなかったりあまりにも面倒な仕事で受け手が居ない依頼なんですけどね。英雄さんたちの実力を上げるには一番良いだろうって」
「おいおい、俺らは残飯処理係かっつーの」
「まぁまぁ、残飯処理も立派な仕事だよ。なぁ檸檬」
「あれ? なんでそこで私に振るの?」
陸斗は何も返さず顔を逸らす。
そもそも料理作りで失敗したり作り過ぎた料理を笑顔で処理してくれる檸檬は陸斗からすれば立派な残飯処理係。彼女がいなければ料理研究も兼ねた料理を大量に作るなどという行為はできないのだ。檸檬様様、陸斗の料理スキルは彼女の御蔭で順調に上がっていたと言わざるを得ないのである。




