十八話・その少女がどこから現れたのかを、彼らは知らない
ブブヅケタイム。名前はなんとも言えないんだけど町としてのにぎわいはかなり高い。
多分西洋系の建物が多いみたいだ。
レンガの家って言えばいいのかな?
赤いレンガ造りの家が結構立っている。
どうもレンガにともないコンクリートも使われてるらしく、結構現代に近い建物が出来ていた。
四階建てとか存在している。
商店はマーケットみたいに数階に分かれて商品置いてる所もあった。
「すげぇな。車とかは通ってないけど、結構現代風じゃないか?」
「さすがに日本みたいな町並じゃないけど、ファンタジー感はあまり感じないな。むしろ外国に旅行しただけの気がしてきた」
「凄い……あの建物はどうやって立ってるんです? 随分と頑丈そうですね」
ピピロさんは別世界組だっけ。彼女だけ異様にはしゃいでいる。
どうやら町並が未知の場所らしくてお上りさん化してるらしい。
「トレビの泉とかないかしら?」
「んー、向こうの広場に噴水はあるみたいだよ朝臣さん?」
「じゃあコイン投げ入れてみようかしら?」
「馬鹿じゃねーの。こっちにゃそんな常識ねーだろ。奇人扱いされるだけだぜぇ?」
「チッ、いちいちツッコむなよ、クソが」
口、口悪いよ朝臣さん!?
ホント、矢田と朝臣さんは仲悪いなぁ。これから上手くやってけるんだろうか?
「おお、人が一杯」
服装は中世的だね。
ファンタジー感はあるけど、建物と年代が合ってない感じがする。
中央広場に辿りついたんだけど、これからどうするの?
案内役の兵士さんが指差す先に、大きな建物があった。
これもレンガ造りの巨大建造物で、おそらく10階建て、横もかなり広い。
丁度広場の大通りを真っ直ぐ行けば正面に立ちはだかるように立てられた巨大施設。
どっかの高級ホテルを彷彿とさせる建物だった。
うん、高級というか、ゴーストホテル? 夜中なんか出て来そうな雰囲気が滅茶苦茶してます。
幽霊は自分でやるのはともかくいきなり出現するのはちょっと。
「あちらに宿を取っております。一先ず宿に向かったのち、これからの指針についてご説明します。その時に身支度金を皆さんに支給します」
「ほぅ。身支度金。つまり、貴方たちのフォローはそこまで、ということか」
「申し訳ありませんが我々も祖国防衛という使命がございますので。皆様とはここでお別れとなります。ここから先は案内人が変わります。明日、宿に伺うことになっておりますのでそちらの者と魔王討伐に向かっていただきたく思います」
「了解した」
「それってよぉ。とりあえずあのホテルみてぇなとこついたら自由行動ってことでいいのか?」
「身支度金の受け取りが済んでからです。あと説明もありますので今しばらくお待ちください」
「へぇへぇ。とにかく、こっからは自由に動けるってこったな」
にやりと矢田が笑みを浮かべる。
うん。すでにやらかす5秒前、だね。
日本語になってねーや。
『バグさん、見てください。なんか変なのがいます』
ん? あれって……キグルミじゃん。この世界にはあるんだねー。
「ん? うわ、キグルミが風船配ってる!?」
「意外と可愛いわね」
あ、アーデっ!?
僕が気付いた時にはアーデがメロンさんを隠していたフードから飛び出し、キグルミさんに駆け寄っている所だった。
慌てて彼女の後を追う。
「おーっ」
「ひぃっ!? 魔物っ……ま、もの?」
「お?」
駆け寄ったアーデだが、キグルミの人が恐怖で引いたのでその場に立ち止まり、小首を傾げる。
指を口元に持って行き、あれ? おかしいな? と首を傾げる可愛らしい姿に、一瞬怯えていたキグルミの人も、目の前にいる緑色の肌を持つ少女が危険な魔物ではなさそうだと判断したらしい。
恐る恐る風船を差し出す。
受け取ったアーデは風船の先をむんずっと掴み、そこらへんの子供みたいに走りまわる。
子供たちはアーデに危険を感じなかったようで、一緒になって駆け回りだした。
大人たちは突然現れた緑の肌の少女に焦った顔をしているが、別に危害は加えてないのと、楽しそうに踊りだしていることで、半信半疑ながら我が子をはらはらと見守っている。
中には一緒に踊りだす子供まで出て来て、なんかお祭り騒ぎになりだした。
「あは、可愛い。でも、あんな緑の肌の子、どっから出て来たんだろ?」
「あー、すまない、アレは私の知り合いだ」
グーレイさんが困った顔で告げる。
一瞬で彼に視線が集まった。
「いや、今まで居なかったよな?」
「隠れ身の外套で隠していたんだが……思考回路は子供なのでね」
「な、なんで隠してたんです?」
「いきなり緑の肌の少女が出てきたら怯えるだろう?」
その容姿でいうのか? という幾つもの視線が突き刺さったが、グーレイさんは全く気にせずアーデを眼で追う。
「回収してくるか」
「あ、待ちなさい。貴方が行ったら逆に大問題よ。私が行くわ」
慌ててグーレイさんを制したのは朝臣さん。
アーデに駆け寄り不安げに見守る大人たちに頭を下げながらアーデの手を引き回収して来る。
平謝りだったね。なんかごめん。
「おー?」
まだ踊っていたかったのに、と少し不満げに告げるアーデ。駄目だよアーデ。不用意に姿見せちゃ。
あ、子供たちが手を振ってるよアーデ。
僕がアーデの首をくいっとそちらに向けてやると、子供たちを眼にしたアーデは笑顔で手をぶんぶんと振りだした。
うん、アーデは子供と仲良くなるの上手そうだ。
 




