九話・その自己紹介を、宰相達は知らない
「では、これにて、現状私からの報告は以上です。それでは今より一時間程皆様のみのお時間を取らせていただき、その後部屋に案内させていただきます」
そう言って、宰相さんが立ち去ろうとする。
が、そうは問屋が卸さない。
弓の英雄君が吠えた。
「おいおい、おっさん、なんですぐ案内しねぇんだよ。わざわざこいつ等と一時間部屋に閉じ込めるってなどういうつもりだ」
ありゃりゃ、さすがに皆呆れた顔をしてるぞ。
グーレイさん、折角だし言ってやってください。
「君は毎回噛みつかないと気が済まないのかね」
「あ、いや、でも、グレイさんよ、説明終わったんだから部屋でゆっくりしたくねぇか?」
彼としても早く落ち着きたいんだろう。
まぁ、いきなりこんな訳のわからない世界に連れて来られて魔王倒さないと戻れません。とか言われちゃったらなぁ。
「確かに、皆が落ち付きたいのも分かるがね。英雄召喚は男女が分からんのだろう? なら部屋を用意するのも召喚後となるだろう。男性ばかりならタコ部屋に放り込めばいいが男女がいるならそうも行くまい。この一時間で部屋の用意などをするためにこの国が余裕を持って出向かえるためのものだろうさ」
グーレイさんが適当言ってる。
用意なんて召喚前に人数分用意しとけばいい話じゃん。
まぁ、向こうの思惑があるのは当然だろうけど、僕らとしても仲間となる人となりは知っときたいしね。
ちなみに廊下に顔出してみると、遠くで宰相さんが「はぁ? やっぱり街中に宿取る!? もう城内の部屋に案内すると言ってしまったわ!」とか叫んでたけど、うん、聞かなかった事にしよう。段取り悪いなここの人たち。
「まぁ、折角くれた時間だ。有効活用しようじゃないか。これから我々は魔王退治とやらで協力するのだろう? ここらで自己紹介しておくといのはどうかな?」
「自己紹介?」
「どうせ協力するのなら、だ。自分たちが扱える能力などを知っておいても良いかと思ってね。料理が出来る、機械に詳しい、小説等でお約束を把握している。など、本人にとっては大したことでは無くても魔王退治とやらに必要になる能力をもっているかもしれない。いざという時それが使える仲間がいると分かっているのと分かっていないのとでは瞬間的判断に差が出る、だろう?」
そう言えばグーレイさんってもっともらしい事を言ってるようで的外れなこと言ってる時が結構あったなぁ。
知ったかぶりエセインテリ地球外生命体なんだった。
「それでは、話ついでに音頭を取らせて貰うが、召喚された順に自己紹介でいいかな?」
「あ? あんたからじゃねーのか?」
「おや? いいのかな? 私が最初に自己紹介しても? 他のメンバーの名前が入ってこなくなるのではないかい?」
言うなれば衝撃的過ぎる自己紹介が待ってるということを自称していたりする。
さすがの弓の勇者君もお、おぅ。と一気に引いた。
グーレイさんの自己紹介、確かにヤバそうだ。と思ったようだ。
「ねぇ、自己紹介は良いけど、どのくらいの情報開示が必要?」
「一応、当人のプライバシーも考慮して、必須なのは名前と何の英雄か、任意でスキルや経歴など、でいいのではないかな?」
「そう、そのくらいなら問題はなさそうね、ええと、最初は……」
「僕だ」
年の頃高校生? いや、もうちょっと大人びてるから大学生かな?
青年が手を上げる。
黒髪のさわやか系だ。眼鏡をかけてるのでインテリ系かと思いきや、どっかの主人公感が滲みでている。
多分、ゲームや漫画なら彼が今回の異世界転移主人公って奴だろう。
「斬星英雄、大学生です。剣の英雄らしいです。異世界には前々から憧れは抱いていたのでそういった小説やアニメは良く見てました」
「はっ、大学になってまで夢物語に耽ってんのかよ」
弓の勇者は誰か黙らせた方がいいんじゃないかな?
毎回噛みついてくるのはさすがにちょっと英雄君じゃなくてもむっとしちゃうぞ。
「次は僕ですね。えっと槍の英雄、月締信太です。17で高校生やってます。動物が好きなんですけど、これって特技に入りますかね?」
悪くなった空気を払拭するように声を出したのは信太君。
童顔で背の低い、中学生にすら見える容貌の少年は頭を掻きながら恥ずかしそうに告げる。
動物好きって、一応魔物が出てきたらある程度は動物の特徴あるし、役に立つんじゃないかな?
「チッ、小便臭ェガキじゃねーか。こんなのと一緒にとかやってけるのかぁ?」
また空気が悪くなった。
皆弓の勇者が空気を悪くするし、いちいち話を止めて来るのでイラッとした視線を送り始める。
「あー。次は俺でいいかな? 料理の勇者らしい、小玉陸斗だ。一応社会人で料理人見習いやってる。特技って言っていいかわからんが、昔じいちゃんの仕事の手伝いで動物の解体作業とかはした。鶏絞めたり、イノシシの腹搔っ捌いたり、罠仕掛けたりはできる」
「ホントかよ。ヒョロ過ぎて信じらんねー」
「ちょっと、さっきからなんなのよ! 陸斗はホント料理美味いんだからっ」
「嬢ちゃん、いい、ソイツは放置しときなさい。何か言わないと気が済まないタイプらしい」
見かねたワレアゴの外国人が少女を押し留める。
食ってかかろうとしたサイドポニテの女性はむぅっと納得行ってない顔をしながらも自己紹介を始める。
「私は食の勇者。杙家檸檬よ。お姉ちゃんと幼馴染の陸斗は良く家で食事を振舞ってくれるの。食の勇者ってよくわからないけど、食べるのは得意よ?」
「そりゃ特技じゃねーだろ」
「このっ」
思わず立ち上がろうとした檸檬。でも、その前に赤いポインターが弓の勇者の額に当る。
「あ?」
「さすがに眼に余るんだ。次口を挟んだら問答無用で撃つよ?」
グーレイさんが静かな怒りを湛えて指先を向けていた。なんというか、グーレイさんからしても嫌いなタイプなんだねあの人。




